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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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第11章 海で遊べる者なんか呪ってやるッ Story4

「そなた、呪術の対策は考えておるのか?」
「いや、そこまでは…」
「ふむ…」
 これは応援要請をしたほうがよいかと、草薙羽純は発煙筒に火をつけた。
 その煙を発見し、エリシアたちが駆けつけてくれた。
「すまぬが、刀真たちの呪術の抵抗力を高めてほしい」
「分かりましたわ。…ビバーチェ!」
 エリシアはビバーチェに鮮やかな赤い花びらを舞い散らさせ、花の香りを拡散させる。
「グラルダ、ニクシーが現れたようです。おそらく複数いると思われますが、どうなさいますか?」
 浜辺の騒ぎ声を耳にしたシィシャが言う。
「いたずらに水人形を呼ぶわけにはいかない。だけど、放っておくわけにもいかないわ。浜辺の手前まで戻るわよ」
 空飛ぶ箒エンテの速度全開で加勢に向かう。
「機械に憑依した状態ではないようですが、その章…効果はありますか?」
「これはそれに適し、最も有効なだけ。他の対象は若干でも、まったく使わないよりはアンタの術が効きやすくなるはずよ。アンタは私が詠唱を始めたら、すぐに術を唱えなさい」
「…なるほど、了解です」
「レイカ、アタシに術を当てるポイントを教えて」
「甚五郎さんの…斜め後ろ側にいます。…水人形の近くに隠れていますね」
 本体の気配がするほうへ人差し指を向けた。
 グラルダは気を沈めて裁きの章を唱え、こちらにまったく気づいていない、ニクシーの本体に酸の雨を降らせる。
 それに合わせてシィシャは基本形態の光の波を、浜辺へ打ち寄せる波に紛れさせ、本体を飲み込む。
「ぐぅっ!」
 回避する間もなく術をくらったニクシーが声を上げた。
「……どこから術が…っ」
「やつめ、いつの間にやら不可視になっていたか」
「羽純、ニクシーの場所を教えて」
「あの水人形のすぐ傍にいる。本の章ならば、1度の術で破壊することはないじゃろうが、あまり力を強めぬようにな」
「そこね、ありがとう。…玉ちゃん」
「うむ、聞いていたぞ。そのポイントへ術を放てばよいのだな」
 玉藻が裁きの章を唱え始めると…。
「何、…を。(人形たち、止めて!)」
 ニクシーの指示に水人形たちは玉藻に襲いかかり、氷術で作り出した氷の矢を放つ。
「あいつ等には指一本触れさせない!」
 刀真はいくつもの氷の矢を、煉獄斬で斬り払っていく。
「―………っ」
 だが全ては防ぎきれず矢が腕や足を裂き、傷を負ってしまう。
 玉藻のほうを見ると詠唱を終えている。
 裁きの章の効果が薄れたニクシーの魔法防御力を下げる。
 月夜は草薙羽純の言葉通り、水人形を破壊しないように哀切の章の力を弱めて放つ。
「羽純、ニクシーはどうなった?」
「アークソウルの気配はある。…が、動きを止めているようだ」
 気配をたどりながらゆっくりとニクシーのほうへ寄る。
「ニクシーよ。なぜ、海を憎むのじゃ?」
「遊びたくても、入れないから…」
「ふむ、そなたが淡水の魔性だからかのぅ?」
「…そう」
 どうやら体質に合わないため、海に入れないようだ。
 姿を見せて小さく頷いた。
「だからといって、海で遊ぶ者を襲うのはな…」
「羽純!水人形に人が襲われているぞ」
「な、何っ。…そなた、まだ抵抗するきかの!?」
「別の…」
 違う者だとかぶりを振った。
「あれは本物か?」
「いや、違うようじゃ」
「ううむ、仕方あるまい」
 海に引きずられた者を救助しようと、甚五郎が海へ飛び込む。
「(離さんか、…くっ)」
 町の者の体を掴む手を離させようとするが、しっかりしがみついているため水人形は離そうとしない。
「ラルク、海から上がってきませんな」
「俺も助けに行くか」
 上着を脱ぎ捨て海へ飛び込み、水人形を探す。
「(あれか…)」
 甚五郎が町の住人を水人形から救助しようとしているようだが、相手は簡単に離してくれないだろう。
 こうなったら破壊するしかなさそうだ。
 水人形の腕を掴み、引き千切る。
 ニクシーそっくりの人形はニィ…と笑みを浮かべて消滅した。
「(…体力を奪われちまったかっ)」
 残りの体力を使い、甚五郎と住人を抱えて浜辺に向い全力で泳ぐ。
「…戻ってきましたな。おや、どうしましたかラルク」
 パートナーが浜辺に上がったとたん、がっくりと膝をついた。
「少し…水人形に体力を奪われちまった」
「しゃべるな。傷は深い」
 斉民に浜辺へおろしてもらった弥十郎は、命のうねりの魔法でラルクの体力を回復させる。
「そんなに深いのか?」
「え?何その顔…もちろん冗談だよぉ。早く治るといいねぇ」
 ラルクのセリフに弥十郎はニマッと笑う。
「無駄にメンタルアサルトかけてどうするの」
 何をやってるんだか…と斉民が嘆息する。
「あー…もうしんじまったのか?」
 住人は朦朧とする意識の中、斉民を見上げる。
「いやいや、こんな綺麗な死神はいないでしょう?」
 斉民は冗談交じりに言い、命のうねりで癒す。
「自分で綺麗って言うのは…アレだよねぇ」
 つっこみを入れるが斉民に無視される。
「ごめんねぇ。可愛い女の子とかなら精神的にもテンションがあがるとおもうけど…」
「綺麗な人ならいるけどね」
「そうだね、羽純さんとかね。あ、黄色で探知出来る気配の人は、方向性が違うから♪」
 弥十郎は“綺麗な人”に分類される人と、“若干異なる人”について言う。
「うん、よく覚えておくよ」
「えー。後半は半分冗談なのに、怖いなぁー」
 顔に青筋を立てるパートナーをからかう。



「まだニクシーがいるのね。綾瀬、SPタブレット食べておいて」
 シャボン玉を持続させて精神力を消耗している綾瀬に、ルカルカが渡す。
「ありがとうございます。ですが、この術を維持しているため、マグヌスへの再召喚は厳しいですね」
「そっか…」
「ルカルカさん、ニクシーが来ます!しかもオメガさんのほうにっ」
「この距離じゃ間に合わないわ」
 物理的な実体のない相手を退かせるため、章を詠唱してもらっても厳しい。
「オメガ殿は俺が守るっ」
「淵さん…!」
「……っ。(この蛇のようなものは、…呪いか?)」
 黒い毒蛇を模したものに首筋を噛みつかれてしまった。
「呪いを解除するからこっちに来てくれ」
「分かった。…!?」
 陣のほうへ行こうとするが、憑依されたオメガの魔法でへこんだ砂浜に落っこちてしまう。
 さらにそこへ砂が流れ込んでくる。
「きゃぁあ、淵さんが埋まってしまいます!」
「メロン再来か。つか、冗談言ってる場合じゃねぇか」
 カルキノスは淵の服を掴んで救助する。
「あなたの相手は私たちよ」
 哀切の章の術を放ち、月夜は自分たちのほうへニクシーの注意を向ける。
「玉ちゃん。グラルダたちがいるところへ寄せよう」
 海上で待機している3人のところへ駆けていく。
「向こうも本体を見破れる者がいたな」
「ニクシーはやっぱり俺のほうに来ないな」
 術者がないからだろうか、と刀真が言う。
「海で遊びそうな感じがしないからでは?」
「そこが問題なのか!?」
「我は服を濡らしたくないのでな」
 玉藻は月夜を抱え、地獄の天使の翼で空を舞う。
「は…?来るな、やめろっ」
 対象者を失ったニクシーの水人形が刀真に突進し、彼を突き飛ばす。
「レイカ。私たちを追ってきたニクシーが近くにいると思うの。探して!」
「…えっと、波打ち際にいます」
「やるわよ、シィシャ」
 術を使えとグラルダが命令する。
 パートナーが放った酸の雨に合わせ、シィシャが祓魔術を命中させた。
「気配に動きがありません」
「さて、少しは話しを聞かせられるかしらね」
 レイカが探知したほうへ箒を向かわせる。
「海で楽しそうにしている連中に不満があるようだけれど、それが何?」
 教えてもらった気配の元へ行き、腕を組んで高圧的な口調で話す。
「ヒトほど無知で、蒙昧な種は居ないわ。アンタが望まなくとも、勝手に自滅する。アンタの行動は、無意味で無価値よ。残念だったわね」
「それはお説教ではないですか?」
 強い口調で説得を続けるグラルダにシィシャが言う。
「泳ぎたくても泳げない者…不幸にも海に命を奪われる者」
 グラルダはそれを無視し、言葉を続ける。
「それをアンタが救わないで、誰が救うの?アタシと取引しましょう。嫌とは言わせないわ」
「エクソシストがカウンセラーの真似事ですか?少し離れている間に、随分と“おめでたい頭”になったものです」
 相変わらず無表情だが、皮肉交じりに言う。
「エクソシストは抗体じゃないわ、境界よ」
 対峙する者ではなく、魔性と万物の間に立ち、公平を決する者だと告げる。
「…で、アンタの答えは?」
「人と、生きろと?」
「そうね。見ようによっては、それもあるわ」
 グラルダの説得に“それもいいか”とニクシーは姿を見せて頷いた。
「あの…ニクシー。なぜ海を遊べる者を憎んでいたんですか?」
「入れないのに、楽しそうでムカついた…。それだけ」
「(人の思考とは異なるようですね…)」
 レイカたちが持つ理性とは異なり、感情的に動くものなのだと理解する。
「遊びたいのならこの町の…どこか別の場所で遊びませんか?今日はまだ、この町にいますから」
 ただ遊べない我慢をさせるだけでなく、一緒に遊んであげようと語りかける。
「ホント?」
「はい。町の…露天で待ってますね」
 そう告げるとニクシーは静かに頷き、姿を不可視化し離れていった。
「誰も助けてくれないんだな…」
 ニクシーの説得が成功したことで水人形が消え、刀真はようやく浜辺へ上がった。
「無事に戻ってきたか。一応、忘れてはいないぞ」
 玉藻の言葉に“一応…か”と小さく呟いた。