校長室
学生たちの休日10
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★ ★ ★ 「なんだ、突然呼び出したりなんかして。何かあったのか?」 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)に呼び出されて、ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)が彼女の部屋へとやってきました。 「そこに座ってください、ナディムさん」 リース・エンデルフィアが、部屋の中央に敷いた座布団をナディム・ガーランドに勧めます。 「なんた、ちょっと嫌な雰囲気だな……」 そう言うと、とりあえずナディム・ガーランドが言われるままに座りました。リース・エンデルフィアも、ナディム・ガーランドの真正面に座布団を敷くと、向かい合うようにして座りました。なんだか、お説教か尋問が始まるような雰囲気です。 「セリーナさんのことです」 リース・エンデルフィアの言葉にナディム・ガーランドが、来たかという顔をしました。 「そのことは……」 「はっきりとしてください!」 言いよどむナディム・ガーランドに、リース・エンデルフィアがきっぱりと言いました。 「セリーナさんは、ナディムさんの探しているお姫様じゃなかったんでしょう?」 リース・エンデルフィアが、あらためてナディム・ガーランドに聞きました。 そもそも、ティル・ナ・ノーグからナディム・ガーランドがシャンバラにやってきた理由は、行方不明になっている自国のお姫様を探してのことでした。国と言っても、国家神と世界樹を揃えているわけではありませんから、そこに住んでいるドラゴニュートの一団が国を名乗っている自治領みたいな物です。規模としては、ほとんど都市国家なみの小国ですね。 一応騎士団を揃えていましたので、父親である騎士団長から命じられて探索に出たわけですが、結局姫様はまだ見つかってはいません。 けれども、顔かたちがそっくりだったので、最初出会ったときからナディム・ガーランドは、セリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)のことを姫と呼んでいつもそばにいます。 ただし、似ているのは顔立ちだけです。 そもそも、ナディム・ガーランドが探している姫君はドラゴニュートでした。けれども、セリーナ・ペクテイリスは花妖精です。明らかに種族が違っています。ただ、花妖精なのにその身体は人魚の姿をしています。鷺草の花妖精なのでそのせいかとも考えられますが、かなり特殊です。 花妖精には、旅で死んだ者の魂が生まれ変わるという言い伝えがありますが、確認されてはいません。けれども、ナディム・ガーランドは、その言い伝えを信じて、セリーナ・ペクテイリスが探している姫君の生まれ変わりだと思っているようでした。 はたして、生まれ変わりは同一人物だと思ってもいいのでしょうか。セリーナ・ペクテイリスには、そんな姫君の記憶はまったくありません。今の人格を否定して、あなたはまったく別の人なんだよと言われても対処できないでしょう。 「だから、ナディムさんには、セリーナさんはセリーナさんとして見てもらいたいんです」 「俺は、ちゃんと姫さん――ペクテイリスのお嬢さんはお嬢さんだと思っているぜ」 「見てないじゃないですか!」 突っ込まれました。 「セリーナさんは、ナディムさんのお姫様じゃありません。セリーナさんは、セリーナさんです」 「じゃあ、俺はペクテイリスのお嬢さんのなんなんだよ」 ナディム・ガーランドとしては、セリーナ・ペクテイリスを姫君と決めつけることで、二人の関係を事実としておきたいのです。姫君とその騎士であれば、誰が見ても関連性があります。もしそうでないとしたら、二人は、まったく関係のない二人ではないですか。 「お友達です」 いつの間にかナディム・ガーランドの後ろに来ていたセリーナ・ペクテイリスが言いました。リース・エンデルフィアが時間差をつけて呼んでおいたのです。 「リース、お前……」 ナディム・ガーランドが唸りますが、もう後の祭りです。今までのやりとりを、どのあたりから聞かれていたのでしょう。 「ああ、分かっていたさ。分かってはいたが、絶対に違うという確証もないじゃないか。だったら……」 「ナディムちゃんが、ずっとお姫様を探していたのは知っていますから、すべてを否定はしません。でも、私には、それが正しいとも間違っているとも言えないのよ。私にも分からないのだから」 ナディム・ガーランドの言葉を遮って、セリーナ・ペクテイリスが言いました。結局、答えの一つかもしれないことを知りつつも、二人ともそれを怖がって口にしていなかったのでした。 「ああもう、分かった。認めるよ。俺は、気がついていて、気がつかないふりをしていました。もう、二人で、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」 突然、ナディム・ガーランドが開きなおりました。 「では、これからは私のことをセリーナと呼んでください」 「そ、それは……」 「好きにしてくれとったじゃないですか。はい、繰り返してください、セリーナ」 「ちょっと待て……」 「はい」 「ええと」 「はい」 女の子二人にじっと見つめられて、ナディム・ガーランド最大のピンチです。 「ええと……セリーナ……」 「はい、よくできました。じゃあ、これからは、二人でお姫様を探しましょう」 「三人でよ」 すっかりナディム・ガーランドの主導権をとったセリーナ・ペクテイリスに、リース・エンデルフィアがつけ加えました。