リアクション
海京のカニエーツ・ゴーダ 「へえ、こんな所にこんな店が……。海京も、意外と住みやすい所なんだな」 ガイドマップ片手に海京の探索をしていた瀬乃 和深(せの・かずみ)が、ちょっと感心したように言いました。 最近天御柱学院に転校してきたばかりで海京には不慣れなのですが、都市としての海京は綺麗に役割ごとにブロックが整理されていて、買い物などはほとんど同じブロックですむようになっています。 「これなら、買い出しも楽ですね」 正月にむけてのいろいろな買い物をした袋を両手に持ちながら、シアン・日ヶ澄(しあん・ひがずみ)が言いました。 「そうよねー。あ、あそこのアクセサリー屋、ちょっと寄っていかない?」 一緒に歩く瀬乃 月琥(せの・つきこ)が、クリスマスで売れ残った人形の歳末バーゲンセールをしているアクセサリー屋を指さして言いました。 「今日はもうそんな余裕はないから、また今度な」 お店がたくさんあるからと言って、いちいち買い物をしていったらきりがないと、瀬乃和深が瀬乃月琥を止めました。 「ウインドウショッピングで我慢しろよ」 「ちぇっ」 ちょっと不満そうに瀬乃月琥が口を尖らせます。 「こうして、お金を使わないで見ているだけでもなあ……。おっ、いい乳!!」 ぐるりと周囲を見回した瀬乃和深が、歩いている巨乳な人を見つけてバンザイします。 「何をガン見しているのよ!」 むっとした瀬乃月琥が、思いっきり瀬乃和深をぶっ飛ばしました。容赦なく全力です。まあ、いつものことですが……。 「ひあぁぁぁぁ……」 思いっきり吹っ飛ばされた瀬乃和深が、勢いよく鼻血を噴きながら宙を飛んでいきます。 「くんくん……。なんだか、変態の匂いがするんだもん」 鼻の頭に皺を寄せて、及川翠がつぶやきました。 「巨乳好きと、幼女好き?」 そこへ、瀬乃和深が空から落ちてきました。 「鼻血の噴射力で空を飛んでるだなんて、絶対変態なんだもん。あっちいけー!!」 まっすぐに自分にむかって飛んでくる瀬乃和深に、絶対自分に襲いかかってきたのだと勘違いした及川翠が、ミョルニルを持ったまま身体をブンブンと回転させました。 ぱかーん。 ジャストミートして、瀬乃和深が飛んできた軌跡を逆さに辿って飛んでいきます。ホームランです。 「おおっと、なんとタイムリーな。理想的なロリ娘です!」 及川翠の姿を見て、シアン・日ヶ澄がキランと目を輝かせました。 「また、へんた〜い! いやー!!」 ダッシュして突っ込んで来るシアン・日ヶ澄をも、及川翠が吹っ飛ばします。二連続ホームランです。 「スカッとしたあ!」 超感覚で感じていたもやもやが消え去って、すっきりした及川翠が叫びました。 「ぢゃ!」 そう言うと、これ以上変態に絡まれないようにと、及川翠が走って逃げ去っていきました。 「ああ、待ってえ……」 「まったく、相変わらずね」 飛んできたシアン・日ヶ澄を華麗にキャッチした通りすがりのリオナ・フェトラント(りおな・ふぇとらんと)が、がっしりとホールドを決めたまま言いました。押さえ込まれたまま、遠ざかる及川翠に必死に手をのばすシアン・日ヶ澄でしたが、当然一歩も動けません。 「こ、このたっゆんな感触は……、リオナ?」 今さらながらに、シアン・日ヶ澄が、リオナ・フェトラントに気づきます。 「お久しぶり。それにしても、こんな所で何をしているの?」 リオナ・フェトラントが、シアン・日ヶ澄に訊ねました。 かつて家族と離れ離れになったときに、リオナ・フェトラントはシアン・日ヶ澄に一時期保護されていたことがあります。戦いの極意も、そのときシアン・日ヶ澄に叩き込まれました。その後、家族を探すために一人旅だったわけですが、結局未だに見つからず、ふらりと海京にやってきたところで偶然再会したというところです。 「そこの巨乳さんは誰だい? シアンの知り合いか?」 ティッシュを詰め込んだ鼻の下をだらしなくのばした瀬乃和深が、シアン・日ヶ澄に聞きました。まだ懲りないのかと、瀬乃月琥が、ガジガジと瀬乃和深の肩にかじりついて怒っています。 「ええ、昔からの友人のリオナ・フェトラントです、主様」 シアン・日ヶ澄が、リオナ・フェトラントを瀬乃和深たちに紹介しました。 その姿に、リオナ・フェトラントがおやという顔になります。あらためてメイド服姿のシアン・日ヶ澄を見て、そういえば、いつか自身が望んだ主に仕えたいと彼女が言っていたことを思い出します。 「見つけたのね」 「えっ?」 唐突につぶやかれて、シアン・日ヶ澄がちょっときょとんとしました。 「そういえば、リオナは、探している人たちは見つかったのですか?」 リオナ・フェトラントの目的を思い出して、シアン・日ヶ澄が訊ねました。けれども、シアン・日ヶ澄は静かに首を横に振ります。 「だったら、私たちと一緒に来ませんか? 主様はコントラクターですので、いろいろな場所へ出かけますから。家族を探しているのなら、共に行動した方が一人よりはよいはずです。どうでしょう、主様?」 「俺は、大歓迎……いたたたたた。どうしてもというのなら、構わないが……」 たっゆんがパートナーになると分かって大喜びしようとした瀬乃和深が、瀬乃月琥にガジガジされて、あわてて平静を装いました。 「いいの?」 リオナ・フェトラントの言葉に、瀬乃和深があらためてうなずきました。 ★ ★ ★ 「ははははは、大人買いじゃあ!!」 なんだかたくさんの箱の詰まった袋を両手にたくさん持ちながら、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が楽しげに商店街を走り抜けて港の方へとむかいます。 「なんだか、楽しそうな人が……。年の瀬よねー。今頃は、ティナも伊豆で動物たちと楽しくやっているのかしら」 ミリア・アンドレッティが、ティナ・ファインタックのことを思ってつぶやきました。稲荷さくらは、どうせいつも通りでしょう。 「それにしても、翠ったらどこに行っちゃったのかな……」 何かの匂いがすると言って急に走り去って行ってしまった及川翠を探して、ミリア・アンドレッティはてくてくと海京商店街を歩いて行きました。 |
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