空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

魂を壊す夢

リアクション公開中!

魂を壊す夢

リアクション



わたしだけに見える


 十数分前──。
 岩山をくり抜いて造られた町の通路を、国頭 武尊(くにがみ・たける)はため息を吐きつつ歩いていた。
「この山がヤバイって知ってはいたけど……お宝どころか雑草も生えてねぇとはな」
 それどころか、シズル達にも会わない。
 イヤな予感ばかりした。
「ま、全部見て回ったわけじゃないしな。大昔の遺産ってヤツが一つくらい残ってるだろ!」
 大きな独り言をもらすと、武尊は足を止めてお宝のにおいを感じ取ろうと集中した。
 意外なことに反応があった。
「やっぱりな! あると思ったぜ!」
 他の誰かに取られる前に到着しなくては、と武尊は勘の働くほうへ駈け出した。
 そしてたどり着いた場所に、人はいなかった。
 本当は、ここに来るまでに誰にも会わなかったのだ。
 しかし、それを不思議に思う前に武尊はまだ見ぬお宝への期待に胸をふくらませて、室内をあちこち探り始めた。
「家具もなし、隠し扉の類もなし。でも確かにここなんだ! ──もしや、埋めてあるのか!?」
 武尊はアーム・デバイスを具現化させると、ここだと思った箇所を猛然と掘り返した。
 やがて、何か固いものに当たる手ごたえを感じた。
 さらに掘り進めて見つけだしたのは、木箱だった。
 表面に防腐加工がされているのか、古びてはいるがそれほど傷んではいない。
 開けられた後もないようで、何やら期待が持てそうだ。
 たとえば、この町一番の美女のぱんつとか!
「へへっ。お宝、いただキッ……!」
 バカッと勢いよく開けた瞬間、武尊の声が不自然に裏返り、表情は見てはいけないものを見てしまったようなものに一変した。
 武尊は木箱を放り出し、目を覆って叫ぶ。
「げえっ! 大量のブリーフ! うああっ、目がぁ〜あ〜目がぁ〜!」
 まぶたに残る汚らわしいものを消そうとのた打ち回るが、消そうとすれはするほど何故かこびりついてくる。
「ちくしょう! 何でブリーフがこんな大事に隠されてんだよ!」
 立ち上がり、木箱を蹴りつける。
「もう出る! こんなとこ、とっとと出てやる!」
 そう怒鳴って木箱に背を向けた時、背中にふわりと何かが触れた。
 振り向いた武尊の目に映ったのは、宙に浮く大量のブリーフ。
 それも何故か武尊に懐くように迫ってくる。
「やめろォー! オレにそんな趣味はねぇー!」
 武尊は一目散に逃げ出した。
 ブリーフは追いかける。
「やっぱりヤバイ山だった! 早くここから逃げ出さねーと……ん、何だありゃ? まさか……!」
 どこから出て来たのか、通路の先にも大量のブリーフが待ち構えていた。
「アヒャッ、アッヒャヒャヒャ!」
 武尊は変な笑い声を上げながら、通路の窓から飛び降りた。


 現在──。
 ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)は一つの結論を出した。
「きっとここは夢の中ネ。みんなで登山してて眠くなったもの。夢ならいつか覚めるでショウ。気楽に構えていくのコトよ」
 というわけで、ロレンツォはこの岩の町を探検していた。
「それにしても、誰にも会わないのはナゼ……おや?」
 ロレンツォの耳に奇妙な笑い声が聞こえてきた。
 その笑い声はどんどん近づいてくる。
 前のほうをよく見ると、一緒に山を登っていたメンバーの一人だとわかった。
「あれは確か、武尊さん。ああ、やっと知ってる人に会えたヨ」
 ホッとして声をかけようとしたのだが、武尊はアッヒャッヒャと笑いながら駆け抜けていってしまった。
 取り残されたロレンツォは一瞬ぽかんとしたが、すぐに興味がわいて武尊を追いかけた。
「武尊さーん! おもしろい笑い方して、何があったヨ?」
「ブ、ブ、ブリ……ぐはぁ、言いたくねぇ!」
「ブリ……? お魚のことネ?」
「違う! ブリーフだ! ブリーフ軍団がオレを追いかけてくるんだよ!」
 ロレンツォは思わず後ろを振り向いたが、何かが追ってきている様子はない。
「何もいないヨ」
「そんなわけねぇ! オレは確かに見たんだ! ──ぎゃあ、来たァ! おまえももっと早く走れ! ブリーフにキスされるぞ!」
「それは嫌ネ。でも……」
 ロレンツォは武尊の後に続きながら考えた。
 武尊の夢とロレンツォの夢は繋がっていないようだ。
 ブリーフ軍団は武尊にだけ見えている。
 でも、武尊にはロレンツォの姿が見えているし、ロレンツォも同じだ。
「この町が……世界が特殊なところというコト? お互いの姿が見えているなら、片方にしか見えていない世界に干渉することは、できるのカナ? どう思うヨ、武尊さん」
「知らねーよ!」
「とりあえず、幻のブリーフを消すネ」
 ロレンツォは、その身を蝕む妄執を武尊にかけた。
 直後、武尊から悲鳴が飛んでくる。
「おまえ、何してんだ!? 変な呪文でブリーフ召喚してんじゃねぇよ!」
「え……武尊、ブリーフより恐ろしいもの、なしネ……?」
 仮にブリーフ以外のものが見えたとしたら、それはそれで問題なのだが、ロレンツォは武尊の反応にただただ驚いた。
 果たして武尊は幻のブリーフ軍団から逃げ切れるのか、ロレンツォは結末を見ようと一緒に走るのだった。