空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

魂を壊す夢

リアクション公開中!

魂を壊す夢

リアクション



あたたかいもの


 ヘルの話を聞き終えた呼雪は、ショルダーキーボードをしまっていたケースを開けた。
「解放してやりたいな」
 すると、和希もギターを持って立ち上がる。
「時代が違っても、ここに生きるなら俺達の仲間だ」
「部員の和希がやるのに、あたしがやらない理由はないよね」
 そう言いながらも、瑛菜も和希と気持ちは同じだ。
 再び強くなってきた雪に向かい、彼らは歌う。
 呼雪は、パラ実軽音部の伴奏に歌に聖者の導きを乗せた。

 ──幾ら仲間を増やしても、結局満たされないだろう?
 ここに留まり続けても、光は見えない
 往こう、還るべき場所へ
 大丈夫、独りではないし、待つ者達もいるだろう
 魂の循環を取り戻し、再びこの世界へ生まれておいで
 もう一度逢えることを、心待ちにしているから──

 歌声は吹雪にかき消されずに響き渡る。
 その時、雷號は寒さから守っている遭難者の一人が、わずかに動いたように感じた。
 同じく狼になって遭難者を温めているを見れば、そちらでも意識が戻りそうな者がいたのか、昶は彼らをじっと見つめていた。
 呼雪に続き、和希が歌いだす。
 和希は明るい曲調を、幸せの歌でさらにハッピーな雰囲気に仕上げた。
 彼女の願いはシャンバラ大荒野の復興。
 もちろん願うだけでなく、行動に移せることがあれば移してきた。
 和希は歌い終わると、山全体に響けとばかりに誓いの言葉を放った。
「パラ実ではイリヤ分校で農業や井戸掘りを学んでいる連中もいる。将来、そんな奴らがきっと各地で活躍し、住みよい世界を作っていってくれると、俺は信じてる! 苦労は多いだろうが、仲間がいれば助け合ってやっていけるさ。未来はきっと明るいぜ!」
「あたしは、音楽で世界に君臨する! まずはパラ実から!」
「俺は、最高の魔剣を手に入れてみせる!」
「おいおまえら、思い切り自分のことじゃねぇか! 特にフェンリル!」
 和希の大声を、フェンリルは笑って流した。
 傍で瑛菜も笑っている。
 その時、ひときわ強く吹雪いた。
 和希達は一瞬身を縮めたが、次の瞬間には吹雪は嘘のようにやんでしまった。
 そして、まるで雪など始めからなかったのように隠されていた地面が現れる。
 出てきたのは、言い伝えにあった町だ。
 彼らは岩山をくり抜いて作られた町のただ中にいたのだ。
「う……」
 昶が預かっていたシズルが目を覚ました。
 すると、眠っていた者達が次々と意識を取り戻した。
「やった! きっと、この山の変な力が消えたんだ。おい、大丈夫か? 俺がわかるか?」
「パラ実の……生徒会長……?」
「そうだ。痛いところはあるか?」
「ない……。あっ、レティーシアは!?」
「ここです。彼女も大丈夫ですよ」
 雷號の声にシズルはホッ胸をなで下ろす。
「ありがとう、探しにきてくれたのね」
「ああ。下で美緒達も待ってる」
 それから目が覚めた者達のために、ヘルは生姜紅茶を、尋人はお酒を、昶はチョコレートボンボンを出した。
 すっかり晴れ渡った山からは、シャンバラ大荒野が一望できた。
 かつては緑豊かな平原だったというそこは、今は荒々しく逞しい美しさを見せている。
 体が温まってきた朱鷺が改めて礼を言った。
「本当に助かりました。夢から出られない危険もそうですが、暴走した試作型達が……」
 言いかけた時、近くで何かが派手に壊される音がした。
 朱鷺の顔がサッと青ざめる。
「まさか……!」
 音のほうを見れば、黒麒麟、白澤、大百足が暴れている。
 シズルが慌てて朱鷺の腕を引く。
「早く止めて!」
「い、いけません。完全に我を失っています。ひとまず山を下りましょう! 広いところで対処します!」
「何でまた追いかけられるのよー! 朱鷺、下りたら実力行使してでも止めるわよ!」
「やむを得ませんね……」
 遭難者も救助組も、縦横無尽に暴れる三体から、文字通り転がるようにして山を駆け下りたのだった。


 部屋は充分に暖まり、毛布も確保できた。温かいスープもたっぷりある。
 そんな時だ、美緒がフェンリルから連絡を受けたのは。
 彼女の表情がパッと輝いたことで、は無事に救助できたのだとわかった。
 彼らが帰ってくるのを今か今かと待っていると、バーンッとやや乱暴に玄関扉が開け放たれた。
 盗賊の襲撃かと菊とラナは警戒したが、そうではなくフェンリル達が戻ってきたためだった。
 迎えに出た菊達だったが、彼らの姿を見たとたん驚きの声をあげてしまった。
「何だどうした、ボロボロじゃんか! 凶暴な獣でもいたのか!? 和希、大丈夫か!」
「ああ……幻の獣が三匹ほど……」
「あれがホンモノだったらなぁ……」
 和希の横で、同じくボロボロな尋人が残念がる。
 そののん気さに、和希は苦笑した。
「なんか、元気そうだな。動けないのは……いなさそうだな。それじゃ、手当てしたらスープを出すよ。これで芯からあったまってくれ。落ち着いたら、何があったか聞かせてくれよ」
 菊が和希を助け起こす。
 美緒とラナは手当てを始めた。
「さんざんなお正月と言ってしまえばそれまでだけれど、でも、今まで暗い世界に閉じ込められていた町が解放されたなら、それでよかったって思うのよ。あんまり落ち着いて見れなかったけど、山から見た大荒野は荒々しくて美しかったしね」
 後で、スープを味わいながらシズルはこう言ったのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

冷泉みのり

▼マスターコメント

 お待たせしました。『魂を壊す夢』のリアクションをお届けいたします。
 ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 次回は秋以来の川岸マスターとの合同シナリオになる予定です。
 そちらでもお会いできたら嬉しく思います。