校長室
【ですわ!】パラミタ内海に浮かぶ霧の古城
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第8章 命を繋ぐ 「もう一人連れてきたぜ!」 急遽設営した避難所に、びしょ濡れのカル・カルカー(かる・かるかー)が救助者に肩を貸しながらやってくる。 「ご苦労さまです。さぁ、こちらへ」 ジョン・オーク(じょん・おーく)は救助者を焚火のそばに座らせると、柔らかいタオルで包み、作りたての汁を差し出した。 「これを食べて暖かくしてください」 ジョンは傍に腰を下ろし、安心できるように優しく話しかけた。 避難所になった倉庫には、先に救助された人達も含め数十名が集まっていた。 カルが再び救助者の元へ向かおうとすると、夏侯 惇(かこう・とん)が近寄ってきた。 「カル坊、さっき飛空艇から捕まった人達を助けたと連絡があったぞ。捕らえた兵士を含め、結構な数がこちらに来るらしい」 「そうか。となるとここだけじゃ狭いかもしれないな。どうにか場所が確保できないか試してくれ」 「承知した。増築するか、別の施設を探してみよう」 「それと、向こうの海岸に打ち上げられた人を何名か発見したんだ。人手が欲しいんだけど、誰か動ける人はいないか?」 「だったら、オレが行こう」 二人が話している所に、ドリル・ホール(どりる・ほーる)がやってきた。 「夏侯惇のダンナ、少し席を外しても大丈夫だよな」 「ああ、力になってこい」 カルとドリルは駆け足で避難所を出て行った。 「さて、あの二人が戻ってくるまでに少しでも広くしないとな」 「人が増えるなら、追加で鍋も作った方がよさそうですね」 惇とジョンは救助者を暖かく迎え入れる準備を始める。 それからしばらくして、四人が懸命に活動を続けていると、弓彩 妃美が祖母を抱えてやってきた。 「場所あいてる!?」 「大丈夫ですよー」 ジョンの指示で祖母を休める場所へ連れて行く。 「祖母ちゃん、ここで休んでてね」 妃美が再び外へ出て行くのと、入れ替わりに続々と生徒達が救助者を運び込んできた。 中には投降した兵士も含まれており、怪我人には治療を、元気そうな者には念のため拘束をさせてもらう。 あっという間にごった返す状況になった倉庫内。 食料も布団も不足気味だった。 「すいません。あとはお願いします」 妃美達が大変申し訳なさそうにしながら、ジョン達に任せて早々に去っていく。 仕方ない。残って手伝いたいのはやまやまだが、海上にはまだ敵の飛空艇が存在している。 残してきた生徒達が心配だ。急いで戻らないといけない。 「北都、俺達もそろそろ行くぞ」 「うん。そうだねぇ……」 救助者の手当てをしていた清泉 北都(いずみ・ほくと)は、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)に言われて立ち上がる。 ふいに子供に袖を掴まれる。 北都はしゃがみ込むと、その小さな頭に手を乗せて微笑んだ。 「大丈夫。すぐ戻ってくるからねぇ」 ようやく掴んだ手が離れ、北都とソーマは改めて仲間の元へ。 その時、外から悲鳴が聞こえた。 「なんだ?」 「行ってみよう!」 二人は顔を見合わせると、声が聞こえた方へと駆け出した。 女性が腰を抜かして倒れている。 「どうした!?」 ソーマが女性を支えながら尋ねる。すると、女性は震える手で海の方を指さす。 そこには、港に思えぬ二足歩行の生物が立っていた。 魚に先がヒレになった手足が生えた生物。全身の至る所に出来た膿のような腫れが胎動している。何かを訴えるように、低い声で母音を発している。 半魚人というにはあまりに醜いその生物は、アーベントインビスが人体実験で作り上げた、言うなれば失敗作だった。 それらが続々と上陸して向かってくる。 「なんだかわからんが、敵ってことで間違いないよな」 「たぶんね……オークさん達はこの人を連れて中へ!」 駆けつけたジョンと惇に女性を任せ、北都とソーマは破壊活動を始めた半魚人を相手にする。 ソーマが【ブリザード】を放ち、半魚人たちの足を止める。そこへ、飛び上がった北都が空中から次々と弓を放った。矢の嵐に晒される半魚人たちは息絶えると同時に、泡となって溶けていく。 半魚人たちは足が遅ければ、力があるわけでもない。倒すのは楽だった。 しかし、蹴散らしても蹴散らしても次々と上陸してくる。 「キリがないな」 二人の表情に疲労の色が見えはじめる。 そんな時、予想外の咆哮から半魚人へ大量の銃弾が浴びせられた。 振り返ると、街の方から複数の軽トラックがやってくる 荷台からライフルを銃弾を撃ち込む男性達。その内一人に見覚えがあった。 「確かオークション会場にいた……」 助けに駆けつけた者達は、怨恨から前回オークション会場を襲撃しようとしていた人々だった。 一時は対立していた彼らだったが、生徒達にアーベントインビスへの制裁を託し、今は北都を助けようとしている。 北都は、胸の奥で沸々と込み上げるものがあった。 「ありがとう! ここは僕達に任せて救助者の支援を!」 トラックが倉庫に向かうのを見送り、北都は澄み切った瞳でソーマを見つめる。 「ソーマ、やれるよねぇ?」 「もちろんだ」 二人は上陸してきた半魚人を次々と倒していく。 まもなくして、ジョンと惇が援護に駆けつけた。 その頃、リネン・エルフト(りねん・えるふと)たち『シャーウッドの森』空賊団は勇猛果敢にパラミタ内海上空を飛び回っていた。 「そこっ!」 リネンは小型襲撃兵器を華麗なる三段攻撃で切り裂くと、ペガサス“ネーベルグランツ”と共に巨大飛空艇へ向かっていく。 迫るリネンに大量の機銃が狙い撃う。 それらを変則的な動きで回避し、その隙に別方向からペガサス“ナハトグランツ”に騎乗したフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が突撃する。 「いくぜ、グランツ!」 閃光のような速さで駆け抜けたフェイミィは、背後に回り飛空艇のエンジン部分を破壊する。 「終わりにさせてもらうわよ!」 飛空艇の正面に立ったヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)。 その手に集まった魔力が、空気中の光を凝縮して巨大な剣を形成する。 エンジン部をやられ降下し始めた飛空艇が、悪あがきにミサイルを撃ちだす。 「そんなの効かないわよ!」 ヘリワードの薙ぎ払った光の剣が、ミサイルごと飛空艇をぶった斬る。 二つに別れた飛空艇は、轟音と爆風が巻き起きして砕け散った。 「これでまた一つ――っ!?」 光の剣を収めたヘリワードは、龍の形をした飛空艇からの攻撃を咄嗟に回避した。 リネンが反撃に空賊艇からの砲撃を浴びせようとするが、龍は特殊な光学迷彩で霧の中に姿をくらましてしまう。 「面倒な奴ね」 「この霧がなければ……」 姿を捕らえられない敵を相手に、生徒達は苦戦する。