空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

【琥珀の眠り姫】水没する遺跡に挑め!

リアクション公開中!

【琥珀の眠り姫】水没する遺跡に挑め!

リアクション


第五章 鍵はどこに?

 最深部にあたる領主の私室も今までの部屋と同様に、書物は腐敗し机や棚は自重で潰れ、部屋の形くらいしか原型の分かる物はなかった。
 キロスの流した情報を見て辿り着いたメンバーと調査を行っていたが、なかなか手がかりも見つからない。
「他の部屋も全部マッピングが終わっているし、鍵があるならここだと思うんだけどな」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は辺りを探しながら、うーんと唸った。
「こうしてみると、時間と水の力がどれほど強いのかが分かるわね……」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、すっかり崩れ落ちた私室内を漁る。
「キロス、鍵って一個なの? 形は分かる?」
「複数あるのかどうかは分からねえな。形は恐らく杯の形をしていると文献には書かれていたが……」
「杯ね……」
 ルカはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と共に、再び木切れをどかす作業に戻った。
「相当安全な場所に隠してあるんだろうな」
「まあ……鍵も壊れてたりしたら話にならないよねぇ」
 永井 託(ながい・たく)は、ルカや詩穂が調査をしているあたりをじっと見つめて、小さく呟く。
「記録物を中心に調査を進めたいところだが、この分ではそれも残っていなさそうだな」
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が深く考え込むように唸る。
「これは推測だけれど、もともとの部屋でも目に付くところ秘宝を置き去りにしているとは考えにくい」
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が何もない壁をじっと見つめる。
「トレジャーセンスでも分からないように工夫かなにかをして、どこかに隠し扉なりを作っていると考えるのが妥当じゃないかな」
「探してみるわ」
 ルカが慎重に壁を叩いて音を確認しながら探っていく。
 もともと机があったと思われる場所の奥に、一見壁に見える棚が隠されていた。
「当たりだね。金庫みたいになってるけど……ちょっとピッキングしてみる」
 そう言って詩穂はその棚を閉じている仕掛けをしばらく弄っていたが、カタンという小気味よい音と共に、棚の蓋が開いた。
「……開けて見るぜ」
 キロスが棚を開く。……そこには、装飾の施された杯と純銀で作られたプレートがぽつんと置かれていた。
「これが、鍵……」
 キロスが杯を手にとった。続けて、プレートを手にすると、そこには文字が刻まれていた。

『我が妹を守るため、王国の崩壊の余波にも耐えられる禁断の封印を使用した。
 3つの聖杯を集めることで封印が解かれる。
 もし、あの人が生きて帰ったなら、きっとこの地を訪れるだろう。
 その時は、我が妹を君の妹として育てて欲しい』

「キロス、その杯をサイコメトリさせてもらってもいい?」
「ああ」
 キロスはルカに杯を手渡す。ダリルも魔珠『タクティリス』でルカのサイコメトリのスキルを借り、杯に触れた。
「……男の人の想いが込められているわ。若い男の人……」
「妹を守りたいという、強い気持ちが伝わってくるな……」
 キロスは、ルカとダリルがサイコメトリで聖杯に込められた願いに思いを馳せる。
「それが、ユーフォリアの言っていたロレンスか……」
 キロスの頭の中で、様々な文献で得た知識を総合していく。
「琥珀の眠り姫はロレンスの妹ってことなのかな?」 
「だが、まだ分からないことだらけだね。『あの人』とは誰なのか、『君』とは誰なのか、調べる必要性があるよ」
 クリスティーは詩穂の言葉に応えるようにして、プレートを目で追いながら呟く。
「プレートを読む限り、鍵はまだ二つあるはずだ。けれど、三つ集めればポン、と眠りが解ける、なんて風には思えないな」
 クリストファーも複雑な表情をしてプレートを見ると、クリスティーが頷いた。
「さらに、残りが物とも限らないからね」
「要するに、まだ先が長いってことだろ」
 キロスがまとめると、小型端末で時間を見た。
「もうそろそろ脱出しよう。そんなに時間も残されていないしな」
「じゃあ、とりあえずこの杯とプレートは、キロスが持っていてね」
 ルカがキロスに杯を渡そうとした。

 刹那、疾風がよぎった。……目にも留まらぬ速度で杯を奪ったのは、今まで皆の後ろで様子を窺っていた託だった。
「何のつもりだ」
 剣を抜いたキロスが、すっと託を見据える。他のメンバーも、すぐに戦闘に移れるようにと武器に手をかける。
「この調査に参加したのも、聖杯を奪うためってわけか」
「奪うというか、その方が楽しそうだからねぇ」
「上等じゃねえか」
 キロスは眼力だけで射殺せそうなオーラを纏い、剣を構える。
「そんなにこれが必要なのかい? 琥珀の眠り姫……同情はすると思うけれど、ただの他人じゃない?」
 託の言葉に反応したのは、ダリルだった。
「シャンバラ女王に仕えていた家の令嬢を、帝国の要人の兄弟が蘇らせようとする……。
 そこに、ただの人命救助以外の本当の目的があるんじゃないかと、そういうことか」
 ダリルの言葉に納得したように、キロスは数回頷いた。
「まあ、姫が眠りから覚めればヴァルトラウテ家に関する失われた秘密を聞き出すことはできるだろうな」
 キロスは深みのある笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「だが、そんなことはたいして興味ねえな。空賊みたいにお宝としてだとか、情報源として姫を蘇らせたいんじゃねえよ。
 俺はただ……五千年も眠りっぱなしの姫を起こしてやりたいんだ」
 キロスの言葉は、決して嘘をついている風ではなかった。
「なるほどねぇ……手に入れたい女のためならそこまでするってことなのか~」
 託は心底面白そうに笑った。
「面白い理由で満足したし、それじゃあこれは返すよ。愉快犯は捕まる前に去るねぇ」
 キロスの手に杯を投げ返すと、託はゴッドスピードで加速し、隠れ身で皆から姿を隠して瞬く間に去っていった。
 未だ警戒しつつも、キロスたちはようやく剣を収めた。
「早めに脱出しなきゃだね。海水の匂いがするから、もうそろそろ水が入り込んで来てるんじゃないかな」
 詩穂が辺りを見回しながら言う。
「ここでトラップに引っかかったらまずいからね。慎重に帰ろうか」
 クリスティーの言葉にキロスは頷き、調査をしている一同に脱出の旨を知らせる連絡を回しながら、屋敷の出口へと向かったのだった。