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ニルミナスの拠点作り

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ニルミナスの拠点作り

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村にて

「うわー……美味しそう」
 眼の前に並んだ食べ物を前にして芦原 郁乃(あはら・いくの)はそう感嘆の声を上げる。
「とりあえず今ある材料で作られるだけ作ってみましたがいかがでしょうか」
 ふぅと息をついて郁乃のパートナーである秋月 桃花(あきづき・とうか)は聞く。
「うん。バッチリだよ……もぐもぐ」
 さっそく食べながら郁乃はそう返事をする。いまある品はカットフルーツに果物ジュース、そしてジャムだ。
「早速食べてるのですね……郁乃様。行儀が悪いのでジャムは舐めてはいけませんよ」
 そう注意しながら桃花はどうして料理を作っているのかを思い出す。
(ニルミナス村の名産品作り……郁乃様も相変わらずおもしろいことを考えますね)
 調査結果を何らかの形で活かしたいと考えた郁乃はニルミナスの名産品を作ろうと桃花に相談してきた。
(その調査結果というのがあれというのは…………見なかったことにして)
 郁乃が調査拠点にしていた家の様子。それはもう語るすべを持たない。あえて言うことがあるとすれば今ここにある品は全てそこから収穫したものだということだろうか。
「主はもう試食を始めているのですね」
 そう言って二人のもとに来たのは蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)。その手には森で収穫してきた木の実や蔓をもっている。
「マビノギオン様。お疲れ様です。これで木の実パンやケーキが作れますね」
 マビノギオンに木の実を取ってくるようにお願いしたのは桃花だった。村の特産品となるとすぐに決まるものでもない。村や森にあるものからいろいろと候補を作っておきたいと思っていた。
「? でもその蔓はどうしたの? もしかして食べられる蔓?」
 首を傾げながら郁乃はマビノギオンに聞く。
「主の発想は相変わらずぶっ飛んでいますが、名産品は何も食べ物に限った話ではないでしょう」
 工芸品なども作れるのではないかとマビノギオンは言う。
「なるほど。でも本当にいろいろ作れそうだね。……そうだ、ゴブリンやコボルトたちとも物々交換で交易できないかなぁ。そしたらもっといろんなものが名産品に出来るね」
「主の発想は相変わらず冴えていますね。ゴブリンやコボルトとの交易は確かに面白そうです。しかし、種類が増えてもそれが全て名産品になるのは難しいですね」
 郁乃は言葉にマビノギオンはそう返す。
「村の方向性ともすりあわせて行かないといけませんからね」
 候補をしぼりその上で改良していくことが必要だと桃花も補足する。
「とりあえず今はできた試作品を村の人に試食してもらうことが第一ですね。お酒などは流石にまだできませんが……」
 とマビノギオン。
「ちょうど拠点作りで頑張っている方々の慰安になりますね」
 と桃花。
「うん。いつもお世話になってる人たちも頑張ってるし、たっぷり食べてもらわないとね……っと、そうだった」
 何かを思い出した様子で郁乃はレポートを取り出す。そして何かを書き記し始める。
「……これで終わりっと。また後で編纂しないといけないけど」
 郁乃がこの村で調べた調査記録。今は仮で『ニルミナス風土記』と呼んでいるそれに今日の試作品の作り方を記録する。
「この調査記録が村の発展に役立つといいなぁ」
 そう郁乃は願う。


「んふふ〜♪ 今回は“お供え物”を持ってきたよ〜!」
 ニルミナスの広場。ミナス像のある所でアニス・パラス(あにす・ぱらす)はそう言う。この間の調査で、皆(祖霊や土地神など)が内緒にしてたことが気になるなっていたアニスは供え物を用意してまた彼らに話しかける。
「え〜っ……また教えてくれないんだ」
 残念そうにアニスは言う。ヒントくらいはなにか教えてくれないかと思っていただけに落胆は大きい。
「和輝はどう?」
 一緒に調査していた佐野 和輝(さの・かずき)にアニスは聞く。
「いや、こっちも大したことは分かっていない。ただ、この像はどうやらミナスとかいう女性がいなくなってから作られたものらしいな」
 ミナス像にサイコメトリを使い手にした情報をそう伝える。
「私も――――――検索を開始します――――おや? これは……」
 何かに気づいたような声をスフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)は上げる。
「和輝。この村の歴史について調べていたのですが……」
 土地の記録を読み込み分かったことを和輝に伝える。
「なるほど……アニスの話している相手はよっぽど優しいらしい」
「? どういうこと?」
「かつてこの村の近くには街があった。……俺の言いたいことが分かるか? アニス」
 ミナス像に関連してかつてあったとされる街のことは分かっていた。そしてスフィアの報告からそれがどういう事を意味するのかも。
「?……あっ……もしかして……」
「かつて街があった……つまり、その街は何らかの原因で滅んでいるということだ」
 その記録を感受性の高いアニスには見せたくないのだとアニスの言う『皆』は思ったのだろう。
「案外、他のことを聞いたらいろいろ教えてくれるかもしれないな。この村の『皆』は」
 和輝の言葉に笑顔になるアニスを見守りながら和輝は思う。
(しかし……街一つを滅ぼす病気ね……)
 またあの人に聞くことが増えたと和輝はため息を付いた。