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ニルミナスの拠点作り

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ニルミナスの拠点作り

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エピローグ

「あの、前村長聞きたいことがあるんですが……」
 宿が完成した後。後ろからかけられる声にハームは振り返る。
「おや、沙夢さんですか。私に聞きたいことですか?」
 振り返った先にいた沙夢にハームは笑顔でそう返した。
「前村長はゴブリンと話が出来ますよね? どんな感じで話してるのかと気になってしまって……」
「ああ、そういう話ですか。ふむ……まぁ答えられる範囲でいいのなら」
 そう置いてからハームは続ける。
「まずに私が話せるのはぼん……ゴブリンキングだけです。次に、私は別にゴブリンたちの使う言語を理解はしていません」
「理解していない?……それなのにどうして……?」
 言葉を交わすなら両方が同じ言語を用いるか、もしくは互いがそれぞれが使っている言語を理解している必要がある。
「ゴブリンキングの方は人語を理解していますが……私はゴブリンキングが言っている事ではなく、言いたい事が分かるだけですよ」
「言いたい事が分かる……すみません、そのことをもう少し詳しく……」
 それこそが自分の知りたい事だと沙夢は身を乗り出す。
「……申し訳ないですが、今はまだ話せないのです」
「そう……ですか。ごめんなさい、なんだか問い詰めるような形になってしまって」
 乗り出していた身をもとに戻し、沙夢は気まずそうにそう言う。
「……ただ、言えるのはこの話を突き詰めていけば、ゴブリンとコボルトたちが森と薬草を守っていることに繋がるということですか」
「それってどういう……」
「……少ししゃべり過ぎてしまったようです。本当に申し訳ありませんが、今日はここまでに」
「いえ……なんだか話しにくい事を聞いてしまったみたいで……」
 こちらこそごめんなさいと沙夢は言う。
「ああ、それと喫茶店の話ですが、もしよければ気にせずやってください」
 もう作ってしまったのだからとハームは言う。
「でも、そこまでしてもらうのは……」
 好意を受け取るほどの事を自分はしていないと沙夢は言う。
「まぁ無理にとは言いませんがよければお願いしますよ。純和風の喫茶店、私も素晴らしいと思いますから」
「……少し考えさせてください」
 そんなやり取りをした後、沙夢は去っていく。
「喫茶店くらいでは借りは返せませんが」
 沙夢が去ったのを確認してハームはそう呟いた。


「あなたらしくない口の軽さですね。前村長。……やはり贖罪ですか」
 沙夢が去った後、和輝はそうハームに話しかける。
「ふむ……あなたですか。そうですね。彼女たちへのお詫びと感謝……借りはこの程度では返せませんから」
「……やはり、祭の時の野盗たちの動きにあなたが噛んでいたのですね」
「ほぅ……続けてください」
「ずっと疑問に思ってはいたんですよ。野盗たちがどこから契約者の情報を手に入れたのか」
「ふむ……それは彼らが独自に調べたのでは?」
「それはないです。あの野盗たちはそれほど気配を隠すのに長けてはいない。
 一番怪しかったのは一番最初に野盗たちと接触したと見られるローグ・キャスト、彼でした。しかし彼には動機がない」
 その後の行動からも白だと和輝は言う。
「次に怪しかったのは前村長、あなたです。そしてあなたには動機があった」
「はっはっは……なるほど、あの事も聞かれていたのですか」
「森と契約者たちをつなぐ……その点においてあの事件は都合がよかった。しかし、簡単に解決しては意味がない。そのために契約者たちの情報をあらかじめ野盗たちに流した。違いますか?」
「はっはっは……そこまで分かっているのでしたら隠しても仕方がないですね。誤解のないよう言いますと、あの事件自体は偶発的なものだったということでしょうか」
「分かってますよ。でも、あなたのことだ。同じような事件は遅かれ早かれ起きる事を予想していたでしょう?」
 和輝の問いにハームは否定も肯定もせず続きを促す。
「ただ一つあなたが誤算だったのは奥山沙夢と雲入弥狐、彼女たちでしょう。あなたの予想ではあの事件で契約者たちは苦戦はしても危険には陥らなかったはずです。しかし彼女たちは予想外に頑張り危険に陥った」
 本来なら簡単に逃げられる相手から彼女たちは退こうとしなかったと和輝は言う。
「……あの時点でゴブリンとあれほど交友を深めているのは確かに誤算でした。良い意味でも悪い意味でも」
 それゆえのお詫びと感謝……前村長には彼女たちに大きな借りがある。
「さて……一つ疑問が解けた所で他にも聞きたいことがありますが……あなたのことだ。これ以上ははぐらかすでしょう?」
「ふむ……私に聞かなくともある程度は想像がついてるのでは?」
「推測は答えにはなりませんよ。たとえそれが正解であろうと」
 情報から推測はできても推測が新たな情報にはなりえないと。
「あなたの知りたい事も、この村に関わり続ければいつか知ることになるでしょう。……ふむ、どうです? このさいあなたもこの村を拠点にしてみませんか?」
「それがあなたの望みに繋がるわけですか……しかし、俺が拠点にするには少し通信設備が弱いですね」
「それくらいならどうにかしましょう」
 街道の先にある街は交易の街であり、そこから直接線を引けば各学園に準じた通信が可能になることを前村長は説明する。
「そうであるなら招集に応じましょう」
 今すぐという訳にはいかないがとかずきが締め、二人の話は終わった。


「ミナホ。眠れないのか?」
 今日できたばかりの宿。そこの管理人として住むことになったミナホは夜眠ることが出来ず無人の喫茶店のカウンターに座っていた。
「瑛菜さん……はい。実は私枕が変わると眠れないんです」
「………………」
「冗談ですよ? ちゃんと枕は持ってきてます」
 そこじゃないだろというツッコミを瑛菜は飲み込む。代わりにミナホをジト目で見る。
「そう言う瑛菜さんはどうしたんですか? こんな時間に」
 ミナホの父である前村長やさっそく泊まった契約者のほとんどは眠りに付いている。瑛菜の一緒の部屋にいるアテナも同様だ。
「んー……なんか寝付けないんだよね……」
 そう答えながらそれよりもと瑛菜は言う。
「村の方向性を決める話し合いの様子ローザから聞いたよ。あの状況でよくあんな答えを出せたね」
「今でも自分が出した答えに自信は持てないんですが……良かったんでしょうか?」
「良かったんじゃないか? 自分の考えに囚われず、誰かに流されるわけでもなく、ちゃんと新しい自分の考えを出すことが出来た」
 これを決めるのは誰でもない村長であるミナホでなければいけないのだから、そうして出せた答えなら上出来だと瑛菜は言う。
「それに、他の人の意見とも外れているようで大切な所はちゃんと取り入れられてるからね」
 そう言って瑛菜は笑顔で言う。
「観光地ではなくて『休養地』として二ルミナスを発展させていく。あたしはこの村らしいって思うよ」
 観光地と休養地。似ているようで大きく違うところがある。観光地が人が訪れる場所に対して休養地は逗まる場所ということだ。この違いは人口が極端に少ないニルミナスにとって大きい。
「でもごめんなさい。瑛菜さんやエリシュカさんの言う音楽の聖地って言うのは難しそうです」
「ん? なんだ気づいてなかったのか。観光地に比べれば休養地は音楽が関わる余地がたくさんあるよ」
 正確には観光地であっても音楽を目玉にする方法はあるが、それには時間もかかるし何より二ルミナスの資金源では難しいだろう。
「休養地と音楽がですか……?」
 それが何か分からずミナホは首を傾げる。
「ま、そこは自分で考えるか他の契約者にでも聞くんだね。それに、エリシュカの言ってたミュージック・フェスティバルはちゃんと行うんだろ?」
「それは……はい。年々大きくして行きたいと思ってます」
 それはアテナとの約束にも繋がるから。
「それだけでもあたしは十分だよ」
 そう言っていつものように瑛菜は笑う。
「でも、ちゃんと自分で答え出せたじゃないか。村を拠点にする契約者も結構増えてきたし、もうあたしらがいなくても大丈夫なんじゃないか?」
「そんなことありませんよ。今回だってあらかじめ瑛菜さんやアテナさんの助言があったからこそです」

「そんなこと言ってもしあたしが……」
 『倒れたらどうする?』とそう続けようとした所で瑛菜は自分の体がおかしいことに気づく。
「瑛菜……さん?」
 体の芯が燃えるように熱いのにその外側では凍えるような寒さを感じる。どう考えても体調不良……というには生易しい状況だと瑛菜は思う。
(ははっ……これはちょっとシャレにならないじゃん……)
 ゆっくりと自分の体から力が抜け倒れていくのが分かる。
「瑛菜さん! 瑛菜さん!」
(アテナ……ごめん)
 そのまま意識を手放す直前、瑛菜が思い浮かべたのは大切なパートナーの眠る姿だった。

担当マスターより

▼担当マスター

河上 誤停

▼マスターコメント

「ニルミナスの拠点作り」お楽しみいただけたでしょうか。
今回契約者の拠点となる宿が出来ました。良かった良かった……という訳にはいかないようです。

今回の拠点にについての案ですが、リアクション中に触れられており、なおかつミナホが反対していない意見は全て取り入れられたと思って大丈夫です。
また、リアクション中に触れられていないアイディア等もきちんと参考にしておりますのでご安心ください。全てを拾うのは難しそうですが、現実的な意見であれば大体は村に反映させていきたいと考えています。
そんなニ村興しのアイディアなど引き続きどんどん提案してもらえると幸いです(次は問題発生シナリオになるので反映されるのは次以降になりますが)。
次のガイドの公開はできるだけ早く、遅くとも来週中にはしたいと考えています。
今回のご参加ありがとうございました。