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葦原島、妖怪大戦争

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葦原島、妖怪大戦争

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第二章 戦うだけが方法じゃない



「天狗の諸君。私は力づくはあまり好まないのだよ。ここは紳士的にラリーによる「スピード勝負」といこうではないか。そして勝った方が負けた方を支配するのだ!」
 夢宮 ベアード(ゆめみや・べあーど)は目前に浮かぶ天狗達へとそう提案する。

「風を操る天狗にスピード勝負とはいい度胸じゃないか。いいぜ、受けてやる」
 男性型の小天狗二人組は不適に笑いそれを承諾した。
「ルールは……そうだな、ここの木からあそこに見える大木まで先にたどり着いたほうが勝者だ。私はこの愛車の【エアカー】を使用するよ。君達はその自慢の羽を使うと良い」

 ベアードと天狗達がスタート地点に立ち、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)忍者超人 オクトパスマン(にんじゃちょうじん・おくとぱすまん)はそれを見守る。
「用意……スタートッ!」
 ハーティオンの合図と共に一斉にスタートするベアードと天狗。
 ベアードのエアカーは決して遅くは無い。しかし、風を操り風に乗る天狗の速度には追いつけず、徐々に差が開いていく。

「頑張れおとーさーん!」
 ゴール地点で待機していた夢宮 未来(ゆめみや・みらい)がベアードへと声援を送っていた。手に持った長い棍をまるで応援の旗を振るかのように振り回している。

「むむむ…中々やるようだね。しかし、ふふふ」
 突如ベアードは目を大きく見開くと、天狗達へ向け【顕微眼】の攻撃光線を発射した。
「うわっ!?」
 攻撃されるとは思って居なかった天狗達は回避が遅れ、片方の天狗がバランスを崩し地面を転がった。
「くそっ、何しやが……」
「スミスミーッ!」
 【千里走りの術】で駆け寄ったオクトパスマンは倒れた天狗を担ぎ上げると、バックドロップで後方へと投げ飛ばした。
「ぐはっ!」
 更に。
「おっとオネンネはまだ早いぜ?っ?」
 後頭部を強打し意識が朦朧とする天狗へ、オクトパスマンの触手が襲い掛かる。
 そこへハーティオンが駆けつけ倒れた天狗の体を抱え飛び避けた。鋭く尖った触手が、先程まで天狗のいた地面へ深々と突き刺さる。

「ベアード、オクトパスマン、やめるんだ! いくら人に仇なす妖怪とはいえそんな卑怯な事は……」
「邪魔するなら容赦はしねえぜハーティオン! 丁度良い、てめえとは一度とことんやりたかったんだ! 地獄へ送ってやるぜ! スミスミーッ!!」
「本当は仲間と戦いたくはないのだが……そこまで言うのなら仕方ない。相手になろう! 君達! ここは私に任せて先へ行ってくれ!」
「は?」
 この状況についていけず困惑気味の天狗の少年。相方を心配して飛んできたもう一人の天狗も同じような表情である。
「このままベアードを勝たせるわけにはいかない。君達は奴を止めてくれ、さあ早く!」
「……まぁ、このまま負けるのは癪だし…な」
 ベアードの元へと凄い速さで飛び去る天狗達。

「スミスミーッ! 気は済んだか? それじゃあ始めようぜーっ!!」
「行くぞオクトパスマン! 正々堂々勝負っ!!」
 こうしてハーティオンとオクトパスマンの激闘が始まった。

 一方ベアードはというと、怒りの天狗達により空高く吹き飛ばされ、乗っていたエアカーごと近くの木に引っかかっていた。
 天狗達は「帰ろ帰ろ」と疲れた顔でこの場を去っていく。
「……あれ、おとーさん負けちゃったのかな? ハーティオンさん達は戦ってるし……。あ、そうか。レースじゃなくてバトルになったんだね! 私も応援しなくっちゃ!」
 ゴール地点に取り残された未来は一人で納得すると、ハーティオンとオクトパスマンの激闘を見守るべく駆け出すのだった。




「ほ?これは興味深い」

 小天狗の巻き起こした竜巻の跡を真剣に眺める、一人の女性。
「これはどうやらつい先程作られたミステリーサークルみたいだね、まだ近くに宇宙人がいるかもしれない。探してみよう!」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)はそれをどうやらミステリーサークルと思ったらしく、宇宙人を見つけるべく歩きだした。
「宇宙人じゃなくて妖怪だろ? 沢山暴れてるって話だしよ」
「妖怪? まったく、メルヘンじゃあないんですから……」
 シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)の突っ込みに呆れたような視線で返すローズ。

「メルヘンって…悪魔や宇宙人は承認するのに妖怪はファンタジーなのかよ」
 シンの呟きには答えず、どんどん山奥へと踏み入るローズ。その目の下には濃い隈ができていた。
「契約してから二年位になるけど、切羽詰まったら宇宙人探索に出かける癖そろそろやめてくんねーかな」
 そう言って溜息を吐くシン。ローズは妖怪の暴れた跡を見つけては、宇宙人がどうのと呟いて思案しているようだった。

 そこに、木の陰から綺麗な女性が姿を現した。

「そこのお二方、もしや道に迷われたのですか? 宜しければ私が麓までご案内いたしますわ」
 そう言ってニコニコと手を差し出す女性。
 ローズは目を細めてその女性を眺めている。
「女性がこんな山奥に、それもたった一人で……ですと?」
「え、いや、それは……」
 狼狽する女性に近づき、ローズはいきなり手荷物からミミズを取り出すと、それを差し出した。
「お土産のミミズです。宇宙人ってミミズ食べるんですよね、これ遠慮せずどうぞ」
「え?」
「本当は牛を連れてきたかったんだけど流石に無理だったから、これで許してね。牛はアメリカで補充すればいいと思うよ、うん」
「は、はぁ…」
「とりあえず記念撮影いきましょう。あ、シンちゃんはメン・イン・ブラックを警戒しといてね。いつ現れるか分からないし」
「だからその呼び方止めろっての!」
 ローズは女性と肩を組むと「はい、ダンウィッチーズ」と言ってカメラをパシャリ。
 その後何時間もの間、女性(に化けた妖怪なのだとシンは気付いていた)は宇宙の真理について問い詰められたのだった。




 妖怪の山上空を、百鬼夜行の幻影を連れ飛行する一人の人間がいた。
「まったく、酷い有様ですね」
 東 朱鷺(あずま・とき)は一反木綿に乗り、人妖を問わず傷を癒して回っていた。
 式髪のかんざしにより伸びた髪が顔を覆い、表情は見えない。
 銀の髪に白い衣装のその姿は、さながら雪女のようである。

「人や妖怪や、色々な種族が共に暮らしてこその芦原島だというのに……今というバランスがいかに素晴らしいか、わからないのですかね?」
 眼下には未だ戦いを続ける人と妖怪の姿が。
 朱鷺は怪我を負い蹲る妖怪を見つける。そっとその隣に降り立つと、歴戦の回復術でその傷を癒した。
 再び空へと上り今度は傷つき気を失った人間の兵士の下へ。
 妖怪達に自分が人間であるとばれては困るので、真言術・弐式【逆説】でまるで攻撃するかのように見せかけ兵士の傷を癒す。

 そんな事を繰り返していると、ふいに声を掛けられた。

「雪女さん!」

 小さな少女が朱鷺の元に駆け寄り、袖にしがみついた。

「雪女さん、どうして妖怪が皆にいじわるしてるのか教えて!」
 ラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)は必死な声で朱鷺に問いかける。
「申し訳ありませんが、朱鷺はその質問に答えられません。この道の先に、別の雪女がいます。彼女なら何か知っているかもしれません」
 そう言って一方を指差す朱鷺。「ありがとう!」と言ってラグエルは教えられた方角へと走っていった。リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)がお辞儀をしてその後を追う。

 朱鷺は空へと飛び上がると、少しの間、雪女を捜す二人の少女を見つめていた。



「雪女さん、こっちにいるんだよね」

 走りながらラグエルは後ろを振り向き、リースへと問いかける。
「さっきの雪女さんがそう言ってましたから……あ、ラグエルちゃん、前を見て走らないと危ないですよ!」
 リースがそう注意した直後、ラグエルは木の根に躓きバランスを崩す。
「あっ!」
 前のめりになって倒れるラグエル。その体を、白い腕が抱きとめた。

「大丈夫?」
 ラグエルを抱きとめたのは綺麗な女性だった。二人はその顔に見覚えがある。
「あ、雪女のお友達のお姉さん!」
 白い着物を着た女性は、優しい声で二人に語りかける。
「ここは危険よ。早く自分達の居場所へお戻りなさい」
「ラグエル、雪女に会いにきたの! 妖怪がどうしてみんなにいじわるするのって聞きにきたんだよ」
 それを聞いた女性は、少しだけ表情を険しくした。
「……今回の騒動は、人間を良く思わない一部の妖怪が勝手に人を襲っているだけ。全ての妖怪が人間の敵になった訳ではないわ」
「どうして人間が嫌いなの? もしかして、ラグエル達が何か悪いことしたの?」
「別にあなた達が悪いわけじゃないわ。ただこれは仕方のない事なの。私たちは“元”が違うとはいえ、驕っているのは人間も妖怪も変わらないもの」

 首を傾げるラグエル。女性はその頭を優しく撫でると、そっとリースの方へと押しやった。
「この騒動を止めたいのなら、今回の妖怪達を率いている者を倒しなさい。絡新婦と鴉天狗、そして大鬼。それがこの一件の首謀者よ」
「あ、あの、貴女は大丈夫なんですか?」
 心配そうなリースに、女性は妖美な笑みを浮かべて言った。
「私なら大丈夫。こう見えても結構強いのよ? さあ、早く行きなさい」

 二人は促されるまま山を降りる。

「今回の妖怪たちの一番えらい人をかぁ」
「そうですね。その妖怪さん達を止めれば皆山に帰ってくれるかもしれないですし、急いで兵士の人達に伝えないと……」
 リースとラグエルは急ぎ駐留している軍の所へと向かう。此度の戦いを終わらせるために。



「酒盛りに来たはずがまさかこんなことになっているとは……」

 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は仲間と共に山の奥地へと向かっていた。目指すは妖怪達の巣、それも化け狐の棲み処である。
「運が良いのか悪いのか……何とも言えんな」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が溜息をついた。その時、後ろに居たホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が声を抑えて叫ぶ。
「何か来ますよっ!」
 甚五郎に羽純、ホリイ、そしてオリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)がそれぞれ武器を構える。

 ややあって、茂みの中から小さな化け狐の少女が姿を現した。

「お、あんた達も化け狐に用事かい?」
 その後ろから現れたのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)だ。

「この騒動の訳を聞きたくてな。おぬしらもか?」
「ああ。狐の大将なら何か知ってるはずだって、この嬢ちゃんに聞いてな」
 そう言って化け狐の少女へと目をやる。
 狐の少女は既に先へ進んでおり、「こっちだよ」と唯斗達を振り向き手招きしていた。
 甚五郎達は少女の後を追う。唯斗と狼化したリーズが周囲を警戒しつつその後に続いた。

「!!」
 リーズが鋭く吼える。
 突然、三匹の化け狐が彼らの周囲を取り囲んだ。
 狐火を揺らめかせ、鋭い爪を構え今にも飛びかかってくるかと思われた、その時である。
「止めよ。そやつらは敵ではない」
 その声を聞き、化け狐達は暗闇へと姿を消した。

 そして大木の陰から、九本の尾を生やした化け狐が姿を現す。
「すまんな。状況が状況ゆえ、皆気が立っておるのだ」
「一体、妖怪達の間で何が起こっているんだ?」

 唯斗の問いに、九尾は目を伏せる。
「……先日、鴉天狗の使いがここへやってきた。人間達を平伏させぬか、とな。鬼長と絡新婦とは既に手を組んでおると言っておった。鬼や天狗、大蜘蛛が人里を襲っているのは、おそらく奴らの指示であろう」
「なら、そいつらを倒せば妖怪達の暴動は収まるのか?」
 九尾は頷いた。
「頭が倒れたとなれば、大慌てで山へと退散するだろう」
「でもでも、どうしていきなり人を襲い始めたんですか?」
「そうだよな。今まで静かに暮らしてたんだろ? 何で人間を襲わなくちゃいけないんだ?」
 ホリイとオリバーが問いかける。
「元々我々は人との良き共生を考えてここに住むことを決めたのだ。妖怪の中には非常に強い力を持った者もいる。そして弱い人間は、強い力を怖れ、あるいは手に入れようとする。
 無論、全ての人間がそうだと言っているわけではない。だが、『そういう人間もいる』のだ。だから我々は人と距離を置き生活していた。……しかし、それに納得できぬ者もいたのであろうな」

 九尾は苦々しい顔で続ける。

「妖怪の中には、妖怪としての力だけでなく『誇り』が非常に強い者がおる。中には他の種族よりも自分達の方が優れていると自惚れる者さえ存在する始末だ。今回暴れておるのもおそらくそういった輩であろう。
 鴉天狗はそのような愚か者では無かったと思うが……まあ、不満の溜まっている部下達に発散させようという考えかもしれん」
「もう一つ聞きたい。どうやら人間が何人も攫われたらしいんだが、一体どこへ連れて行かれたんだ?」
 甚五郎が問う。それを聞いた九尾は表情を険しくした。
「鴉天狗も大鬼もそういった小細工は好まぬ。恐らく絡新婦の策、奴の巣であろうな。奴は残忍で狡猾、大方ろくな考えでは無い。早く助け出したほうが良いかもしれぬ」
「そんな……唯斗、救助を急がせないと!」
「ならば子狐に案内をさせよう。救助に向かうのなら一度ここへ来させると良い」
「そりゃ助かるが……そんなことして大丈夫なのか? あんたらがその絡新婦に狙われるかもしれないぜ」
 心配する唯斗に、九尾は不敵に笑い答える。
「蜘蛛如きにやられる我らではない。それに人に化けて案内させれば良いだけのこと。何も問題は無い」
「そうか……なら、頼む」

 唯斗は携帯を取り出し、ハイナの元で待機しているエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)へと電話をかける。
「唯斗か。どうだ、何か分かったかの?」
 エクスは前線から下がり電話に出ていた。近くではハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)が二本の刀を手に乱舞、妖怪の城下町への侵入を防いでいた。
「ああ、とりあえずハイナに代われるか?」
 エクスはハイナに駆け寄ると携帯を渡す。戦線からハイナが離れ、それに気付いた妖怪達が好機とばかりに町の入り口へ殺到する。
「話が着く時間程度は凌いでやるかの」
 光条兵器を手に妖怪達の前に立ちはだかるエクス。
 一方ハイナは電話相手へ早口で捲くし立てていた。
「一体何の用でありんす? 今忙しいから手短にお願いするでありんす!」
 九尾から聞いた話を伝える唯斗。
「……成程、分かったでありんす」
 話を聞き終えたハイナは近くの兵士を呼び、急ぎ救助に向かう者達へ連絡に向かわせる。
 そして電話を切ると、多数の妖怪相手に苦戦していたエクスの元へと駆けつけた。


 唯斗が電話をしている間に、羽純は九尾に気になっていたことを尋ねていた。
「のぅ、九尾の狐よ。鬼達の長とは、もしやあの古代種族の『鬼』ではないのか?」
「古代種族って確か物凄く強いんだよな? オイラ達で倒せるのか?」
 その問いに、しかし九尾は首を横に振った。
「それは奴らとは別種の『鬼』であろう。大鬼はそんな大層な力は無い」
 それを聞きほっと胸を撫で下ろす一同。
「ただし、奴の怪力は人間の数段上を行く。油断はせぬようにな」
「うむ、了解した。儂等は山を降り町を守る手伝いをする。狐の長よ、この騒動が収まったらまた皆で酒盛りでもしような」
「それは有り難い。楽しみに待っておるよ」


 その後、唯斗達はハイナの手伝いをするべく明倫館へ。甚五郎達はこれ以上の被害を出さないよう町へと向かうのだった。