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全てはあの子の為に。完結編。

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全てはあの子の為に。完結編。

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2章「現場に急行せよ」


 〜町・上空〜


 町の上空を大型の飛空艇がゆっくりと屋敷へと進んでいる。
 空に浮かぶ大きな帆船のような姿のその機体はハーポ・マルクス
 カルのパートナーであるジョン・オーク(じょん・おーく)ドリル・ホール(どりる・ほーる)が搭乗しカルと合流する為、
 空を急いでいた。

「おい、もうちっと速度でねえのかよ」
「無理言わないでください、カルがいませんのでそこまで無茶な速度は出せないんですよ」
「……はあ、しょうがねえな……のんびり到着を待つしかねぇか」

 ジョンにそう言われ、退屈そうに甲板にて眼下に広がる街を眺めるドリル。
 ふと、何かが煌めいたように見えドリルは目を凝らしてみる。しかし何もない。

「何だよ、気のせ……うわあああああっ!」

 直後、極太のビームが下方から数発放たれ、ハーポ・マルクスを掠める。
 回避行動を取ろうと軌道を変更した所に再びビームが放たれ、命中。右側面から甲板の中央にかけて大きく抉られる。

「おいおいおいおい! 当たったぞ!!! 大丈夫なのかよ!」
「操縦を受け付けてくれませんっ! お、墜ちます!!」
「ええええええっ!?」

 煙と時おり火花を散らせながら屋敷の方角へとハーポ・マルクスは墜落して行った。


 〜町・商業区〜


 ヴァーチャースピアを繰り出し、グールを突き刺すとそのまま柄の下の方を持ちグールごと横薙ぎに薙ぐ。
 前方のグールたちが纏めて吹き飛び、宙を舞った。素早く槍を引き抜き残ったグールの頭部を縦一文字に両断する。
 ウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)ファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)に合図を送った。

「ファラさんッ! 今ですッ!」
「言われずともわかっておる……蒼き雷よ、我が手に集まりて踊れッサンダーブラストッ!!」

 ファラの杖から放たれた青い閃光は宙に舞っていたグールの群れを飲み込むと瞬時に黒い灰へと変えた。
 続けざまに天のいかづちを放つと、遠くから迫っていたグールの一団に命中しグールの一団は形も残さず消し飛んだ。

「グオォォォッォ!!」
「ひいいい!」

 物陰から高速で接近し住民に飛び掛かったアンデッドだったが、住民に辿り着く前にウィルのヴァーチャーシールドで弾かれ、
 そのまま態勢を整える間もなく、槍で一突きにされ活動を停止する。ぐったりとうなだれたアンデッドを適当に遠くに放ると
 ウィルは住民に落ち着いた声で語りかける。

「僕らがいる限り、あなた方に指一本触れさせませんから。ご安心ください!」
「あ、ありがとうございますっ!」
「ウィルッ! ヤバいのが来る!!」

 ファラの警告で注目した方向から建物を破壊しながら4メートル以上はあろうかという巨大なアンデッドが姿を現した。
 アンデッドは大きな瓦礫を掴むとウィル達の方に向かって投げ付けた。細かな破片を撒き散らしながら、瓦礫はウィル達に接近する。
 ディフェンスシフト、歴戦の防御術で守備力を向上させたウィルは瓦礫の衝突に備える。

「無理ですよ!! あんな大きな瓦礫、当ったらひとたまりも……!」
「後ろに守るべき人達がいるんです、なら退くという選択肢はありません」

 それだけ言うと、ウィルは盾を構えて瓦礫に向かって走り出す。盾と瓦礫がぶつかり激しい衝撃音が辺りに響き渡る。
 受け止めてもなお速度を緩めない瓦礫に対して、ウィルは脚を大きく広げて地を踏みしめ必死に抵抗する。
 盾と瓦礫が擦れ合い、赤い火花を散らし細かな破片が周りに飛び散った。破片はウィルの顔を掠めると頬を軽く裂いた。

 ファラから放たれたサンダーブラストが瓦礫を吹き飛ばし粉々に砕く。ウィルが呼吸を整え巨大アンデッドの攻撃に備えるよりも早く
 巨大アンデッドは接近しウィルを力任せに殴り飛ばす。辛うじて盾で防いだもの体勢は大きく崩され吹き飛ばされたウィルは
 地面を転がった。

「ウィルッ!! こやつ!!」

 詠唱に入るファラであったが巨大アンデッドは猛然とファラに向かってタックルし、
 詠唱を中断して回避行動に移ろうとした彼女を大きく吹き飛ばして地面に叩きつける。
 ファラの口の中に血の味が広がり、口腔内を切った事を知る。

「かはっ……自分の血というのは、あまり……美味しくないも……の、じゃ、のう……」
「ファラさん、大丈……夫?」
「人の心配を……しておる場合か……貴公の方が……」

 力なく倒れ伏し全身に走る痛みで立ち上がる事の出来ない二人にゆっくりと巨大アンデッドが迫っていた。

 空中から何かが高速で落下してきたかと思うと、巨大アンデッドの身体が黒い剣閃で大きく斬り裂かれた。

「グォォォォォォオ!!」

 巨大アンデッドはダメージを無視して何かに掴みかかろうとするが、腕を蹴り飛ばされ体勢を崩す。
 何かはそのまま霊断・黒ノ水で一閃。黒い剣閃が煌めき、巨大アンデッドの右腕を斬り飛ばした。
 空中で回し蹴りを放つと巨大アンデッドは吹き飛ばされ建物を崩しながら倒れ込んだ。

 何か……もとい夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は巨大アンデッドに語りかけるように叫ぶ。

「ただ巨大なだけでは動きは緩慢となり、何の意味も無さない! 貴様の力はその程度か!! 」

 それに反応したのか、巨大アンデッドは起き上がりさきほどファラに行ったような高速タックルを繰り出す。
 二本の霊断・黒ノ水を交差させ、攻撃を受け止めると、にやりと甚五郎は笑った。

「そうだ、そうこなくては張り合いがない!」

「さて、アレは甚五郎に任せておいて、わらわは雑魚を掃除しておくとするかの」

 グールの群れに向き合う草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)

「そうですねー、部屋のお掃除は不得意でもこういう掃除なら大得意ですもんね」
「ええいっ! 部屋の掃除が不得意は余計じゃ!! そなたも一緒に掃除されたいのか!」
「遠慮しときますー」

 軽いじゃれ合いをしながらも、天の炎を放ちグールの一団を焼き尽くす草薙と打ち漏らしたグールを的確に葬っていく
 ホリイの動きはまさに歴戦を潜り抜けてきた強者の動きであった。
 グールたちを片付け、一息ついた草薙は完全回復を用いてウィルとファラを回復する。

「ありがとうございます……あなた方が来なければ今頃……」
「いや、よく持ち堪えてくれたそなたらがいなければ住民達は無事では済まなかったじゃろう。
 守れたことに誇りを持つとよい」
「そうですよー、瓦礫を受け止めた所なんてかっこよかったですもん」

 ウィルは草薙達の言葉に深くうなずいた。

 一方、甚五郎は巨大なアンデッドと熱い格闘戦を繰り広げていた。
 アンデッドは片腕を失ってもなお果敢に甚五郎に襲い掛かっているが、攻撃をいなされ戦闘は甚五郎優位に進んでいる。
 更に上空からはブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の的確な援護射撃が行われ、巨大アンデッドの体力を確実に削っていく。

「甚五郎、そろそろ止めを刺しましょう。あまり時間をかけていては他の要救助者を助けることができません」
「それもそうだな。ではこやつにはご退場願おうか」

 ブリジットはゴッドスピードで巨大アンデッドに近づくとマスケット・オブ・テンペストを構え、連射する。
 嵐のような弾丸が巨大アンデッドに容赦なく撃ち込まれ、その巨体を抉り赤い血飛沫と共に風穴を開けた。
 飛行ユニット2型を用いて空を駆けるブリジットに様々な角度から撃ち込まれ、巨大アンデッドは
 立っていることもできずにその場に膝をついた。
 すかさず甚五郎は霊断・黒ノ水を大きく振りかぶり、一気に振り抜く。
 高速で振り抜かれた刃はふらつく巨大アンデッドの首を捉え、一撃で両断。首は宙を舞ってくるくると回転した後、地面に落ちて砕けた。
 残された身体はよろめき、ぐらりと地面に倒れ込んだ。

「……なかなかにタフな相手だったな。さすがはアンデッドといった所か」
「そうですね。次に相手をする時は、早々に首を狙ったほうが良いでしょう」
「うむ、少々時間を掛けすぎてしまった。ウィルとファラに住民は任せ、儂等は他に逃げ遅れた者がいないか探すとしよう」


 〜町・噴水広場〜


 町の中心、噴水のある広場にて建物が玩具に見えるような大きさの超巨大アンデッドが
 富永 佐那(とみなが・さな)エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)の駆るザーヴィスチと激闘を繰り広げていた。

 ザーヴィスチのダメージは少なくはなく、所々の装甲は剥がれ落ち、左腕は肘より先を失っている。

「さすがに損傷が……少々ダメージを受け過ぎてしまいましたね」
「いえ先程のシエルさん達を無事に逃がすことができたんですもの。寧ろこの程度の損傷で済んでよかった方ですわ」

 シエル一行がここで足止めを食っているのを発見した佐那とエレナは敵とのサイズ差を怖れずに単機で
 アンデッドに立ち向かったのである。その結果シエル達を無事に屋敷へと向かわせることができたのであった。

 現在、ザーヴィスチは崩壊した建物の中で瓦礫に埋まっており、損傷で低下した出力ではこれ以上の戦闘は不可能。
 ザーヴィスチの操縦席から出ると佐那は無光剣を両手に一本ずつ、逆手で握った。

「さて、ここからは生身でいきますよ。あいつをこのまま野放しにはしておけませんから」
「そういうと思って戦闘プログラム・Nの用意をしておきましたわ。お持ちになってください」
「ありがとう……助かります。では……いきましょうか!」

 アンデッドを見据え、佐那は崩壊した広場を駆ける。敵との身体のサイズは圧倒的な差があったが、佐那は少しも恐怖はしていなかった。
 風術を用い、自らの周囲広範囲に気流を生じさせる。それは攻撃の手段ではなく、敵の微細な動きも逃さない蜘蛛の巣のような網。
 もしも気流が目に見えたならそう見えたのかもしれなかった。

 佐那達の接近を感知したアンデッドは即座に攻撃に移るが、殺気看破と風術を併用した気流の網に感づかれ、攻撃は空振りに終わる。
 地面に突き刺さったアンデッドの腕を駆け上がりながら、彼女は敵のコアを探す。

(これだけの大きさならば……どこかに中枢組織のようなものがあるはず、それさえ潰せば……!)

 エレナは佐那のすぐそばを走り、彼女がコアを探すのに専念できるよう、息つく暇もなく襲ってくる攻撃を捌いていた。
 アンデッドの巨大な腕の表皮からは小さな腕が無数に生え、佐那とエレナに掴み掛ってきている。
 しかし、それらすべてはエレナの二槍によって捌かれ、彼女らに指一本触れることができない。

 アンデッドの頭部、右目の位置に魔力の流れを感知し、無光剣を握りなおす。
 走る勢いそのままに佐那は無光剣をアンデッドの右目に突き刺した。勢いよく血が吹き出し彼女の服を赤く染める。

「……安らかに眠ってください」

 それだけ言葉を残し、崩壊するアンデッドの身体から降りていく佐那とエレナ。
 アンデッドは活動を停止し、その巨体は見る影もなく溶けて消えさっていった。