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全てはあの子の為に。完結編。

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4章「願い」


 〜イコン搬入口・出入り口付近〜


 執拗な死を運ぶ闇の追撃によりハーポ・マルクスは損傷し、マストは折れ帆は破れ所々空いた穴からは煙を噴き上げている。
 それでもなんとか巡航速度は保ち、必死に搬入口の出口を目指していた。
 死を運ぶ闇が大きく振りかぶり、大鎌を投げる。縦回転しながら大鎌は高速で接近し、それが命中するのと
 ハーポ・マルクスが地上に出るのはほぼ同時であった。大鎌は後ろ部分を大きく抉り、回転しながら死を運ぶ闇の手元に戻る。
 体勢を崩したハーポ・マルクスは地面に叩き落とされ、轟音と共に土ぼこりを巻き上げた。
 
 搬入口からゆっくりと姿を現した死を運ぶ闇は肩に大鎌を乗せ、ハーポ・マルクスに近づいていく。
 両手でしっかりと柄を握ると、大鎌をゆっくりと振り上げハーポ・マルクスの中心部分目掛けて振り下ろした。

「させるかあぁぁぁぁっ!!」

 しかしそれが命中するよりも早くセレンの放った弾丸が大鎌の軌道を変え、死を運ぶ闇の攻撃は空振りする。
 死を運ぶ闇が向きを変え睨んだ方向には、シエル、唯斗、セレン、セレアナ、北都、モーベットがいたのである。

「これが……死を運ぶ闇……なんと禍々しい」
「みんな呆けてる暇はないよ、今度こそあの子を助けないと。モーちゃんは僕と船の人達の救出へ。唯斗さんとセレンさん、
 セレアナさんはシエルの援護をお願いします」

 全員が言葉を発さずに頷き、それぞれの行動に移る。

 セレンはグラビティコントロールを使用し、死を運ぶ闇の身体の上を駆けながらシュバルツ、ヴァイスによる射撃を
 行うが、傷どころか焦げ跡すらついていなかった。

「手応えが全くない……これじゃ、いくら撃ったって……」
「セレンッ! 一旦退いて! このまま攻撃しても意味がないわ。何か手を考えないと」

 死を運ぶ闇が左手を横に振ると、手の軌道に合わせて黒い小さな刃が扇状に放射された。
 小さな黒い刃はそれぞれが複雑な軌道を見せながら、セレンとセレアナに襲い掛かる。
 二人は背中合わせになると呼吸を合わせ空中で円回転、二人がそれぞれ構えたシュヴァルツとヴァイスが火を噴いた。
 回転しながら的確に黒い刃を迎撃し、地上に下りる頃にはその全てを撃ち落とすに至る。

「うおおぉぉぉっ!!」

 シエルは剣を下方に構え、死を運ぶ闇に向かって一直線に走り出すと足の節の部分に狙いを定める。
 二度三度斬り付けるも硬い骨で構成された足には微細なキズ一つ付かず、寧ろ反撃を受けたシエルの方がダメージは大きい。
 頭の上から振り下ろされた巨大な足の衝撃は、数度打ちあっただけでシエルの剣を簡単に折ってしまった。

 後ろに飛び、死を運ぶ闇の攻撃を警戒しながら後退するシエルの背中にクリムの声がかかる。

「シエルッ! これを使え!」

 北都に肩を貸してもらっていたクリムは痛みに耐えながら力いっぱい持っていた剣をシエルの方に放る。
 それはクリムが持っていた領主の心臓を貫いた剣……死を運ぶ闇に対抗する唯一の手段であった。
 
 剣は回転しながら弧を描き、シエルの後方に突き刺さった。
 シエルはそれを抜くと死を運ぶ闇に向かって疾駆する。容赦なく黒い刃が放たれ、シエルを狙うが
 彼は身体をずらしてギリギリの線でそれを避け、スピードを殺さないまま死を運ぶ闇に迫った。
 一気に腕を伝い駆けあがると、胸部に囚われたリールに向かって飛んだ。

「うおぉぉぉーーっ!!」

 死を運ぶ闇の胸部、リールの横に剣を突き立てると力任せに彼女の周囲を引き裂いていく。
 黒い瘴気のようなものが滲みだし、多少の息苦しさをシエルに与えるがそんな事を無視して更に剣に力を込めた。
 周囲をある程度裂くとリールは前のめりになって倒れ込む。すかさずシエルが支えて声を掛けると小さな咳と共に声を出すリール。
 安堵するシエルであったが、死を運ぶ闇の巨大な右手が接近するのに気付き、剣を引き抜いて対応する。
 ギリギリまで引き付け剣で弾き返すシエルであったが、人を抱えた状態では満足な体移動ができず
 体勢を崩してリールを抱えたまま落下してしまう。

「うわあああっ」

 落下する二人に気づいた唯斗が地面を滑るように走り、落下地点へと急ぐ。
 彼は素早く跳躍し空中で二人を抱えると、無事に地上へと下した。

「まったく、最後まで気を抜くな」
「は、はい……」
「ん? 剣はどうした?」
「……え?」