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リアクション
第3章 外法の魔術Story2
“1人はあともう少し…。後からきたのは…、さてどうしたもんかしらねぇ”と考える。
精神を落ち着かせたヴェルディーは、アークソウルに祈りを込めて樹の傍へ寄る。
「アタシから離れるんじゃないわよ?」
「あぁ…了解した」
この様子なら余計なことを言わずとも大丈夫だな…と思い小さく頷く。
「…僕の嫁に、何をして下さったんでしょうか?」
怒りの感情を抑えているものの、言葉の中には明らかにそれと同様のものが含まれていた。
白きオーラを纏った章は哀切の章のページを開き、気を沈めて静かに詠唱する。
フレンディスとベルクが監視している者を狙い、祓魔の光を鞭状に変化させて叩いて仕置きする。
相手は少女と男の声音が重なったように呻く。
「忍び娘の弟の魔鎧、フラワーハンドベルを…!」
樹の声にアウレウスはハンドベルを鳴らし、ウィオラの花の香りを吸収する。
さらに、もう1度鳴らして無理やり憑依させられているビフロンスの狂気を沈めようと試みる。
魔性を取り込んでいた者は人のような姿に戻り、黒いフードを掴んで被った。
「お前の力はそんなものか?そいつに憑依してもっと暴れてみせろっ」
ビフロンスを取り込んでいる者が、正気を取り戻しきれていない炎の魔性に叫ぶ。
器ならそこにある、もう1度憑依して暴れろとそそのかす。
「ふざけんな、せっかく離れたっていうのに。…ちっ、まだ抵抗する気か?」
ロッドから放たれた罪と死の黒きトゲは、アークソウルのアンバー色の輝きに触れて弱体化し、ベルクに届く前に砕け散り消滅した。
僅かな隙をついた黒フードの者はビフロンスを掴んで無理やり取り込む。
再び炎の怪物化した者は、呪いの言葉を紡いで炎の礫を放った。
そろそろエキノの花の香りの効力も切れた頃だろう。
ベルクはフレンディスを抱えたまま、炎の翼に藍色の宝石の力を加えて加速し呪術をかわす。
「くははっ、いつまで持つだろうなぁ!?」
「フレイ、中の魔性の力を削いでくれ」
「無理ですマスター、これ以上は魔性さんが消えてしまいます!」
「ちくしょう…、なんとかならねぇのかっ」
離れたはずのビフロンスが、またもや狂気に狂い取り込まれてしまった。
「アウレウス、ハンドベルを鳴らせ」
「はい、主!―…ウィオラ、頼んだぞ」
ウィオラの花の香りをフラワーハンドベルに吸収し、カララン…と鳴らす。
「うぐっ、耳障りな…っ。その音色をやめろぉお」
「独り演奏会はそこまでのようだなぁ」
「フフッ…、その演奏の邪魔をするなんて無粋ですよ?」
エルデネストはホーリーソウルの力を、爪に集中させて掻くように光の線を放ち退かせた。
「だったら焼け焦げるほうがいいのかねぇ〜」
「(あいつの狙いはアウレウスか…)」
結界石で魔方陣の境界線をアウレウスを囲むように敷いたグラキエスは、祓魔の護符を分裂させて詠唱を中断させる。
「グラキエス様、あちらどういたしましょうか」
「ハイリヒ・バイベルの力では、ビフロンスが消滅してしまうかもしれないと…フレンディスが言っていた」
「となると……、正気に戻って離れるのを待つしかないということですか。それまで、この方々にご協力願うしかなさそうですね」
ハンドベルの効力で対処するしか救う手段はない。
こちらは2人でアウレウスを守り、章たちにはまだ無傷の者が取り込んでいる魔性を離す役割分担したほうがよさそうだ。
「ちょっとーっ、アンタも離れないでよ!」
「あ、ごめん。そうだったね」
へらっと笑いヴェルディーの傍へ駆け寄る。
「僕たちは境界線にいないほうがいいのかな?」
「当たり前でしょ。相手は2人なんだから、1箇所に集まったら狙えって言ってるようなものよ」
彼らが潰しにかかっているのは使い魔を使役する者たち。
樹とアウレウスが1つの場所に集まってしまっては、2人同時にそこを襲ってくるからだ。
「レクイエム君、石化の魔法が!」
「分かってるわよっ」
アークソウルでペトリファイの石化に対する抵抗力を上げて章たちを守る。
「へぇ、頑張るじゃん?オカマ野郎♪」
「一々うっさいのよ、アンタ」
挑発して精神を乱そうとする者をキッと睨みつける。
「そろそろ潰れちまいなよ」
ハンドベルの力によろめく仲間に目配せして合図を送り、神速で距離をとって炎の礫を放った。
「…エキノ、踏ん張れるか?」
「かか様…っ」
「―…っ。(な、何だ…急に眩暈が…うぅ、こんな時にっ)」
呪いの抵抗力を得るため、エキノに吸収され続けていた樹の精神力が尽き、エキノは帰還状態になってしまう。
再度ビフロンスを取り込んだ者が、“やった、1人潰してやった!”と歓喜の声を上げた。
―……そのすぐ後、ハンドベルの音色で正気に戻ったビフロンスが離れたのだった。
「チィッ、役に立たないやつだなぁ」
炎の魔性を取り込んでいる者は不可視化し、黒フードの者を回収しようとするが…。
「1人でどうするつもりだ?」
ベルクに阻まれてしまい、連れて逃走することは出来なかった。
「チクショウがぁああぁあっ」
「(また呪いを使うつもりか?)」
黒フードの者を後ろへ蹴り飛ばして身構える。
しかし、狙いは自分たちではなくセシリアたちだった。
「こっちに炎が…。タイチ、伏せて!きゃぁああっ」
セシリアは太壱を突き飛ばし、自分だけ炎の礫をくらい火の玉化する。
「この野郎ーーーっ!!」
「へっ、どこ狙っているだか」
可笑しそうに笑い、地獄の天使の翼で空へ舞い上がり酸の雨をかわす。
「十分遊んでやったからねぇ。そろそろ仕事に戻るかなぁ〜」
「だったらその前に、中にいるやつを解放してもらうか?」
ベルクは逃走しようとする者の背後をとり、エアロソウルの風の力を引き出して突風を起こす。
すかさずフレンディスが贖罪の章を唱え、章の術力の範囲を広げた。
光の鞭に打たれた対象は地面に墜落してしまった。
「おい、親父、オカ魔道書!説得は2人に任せた!」
「えっと…んー。そもそも、火山を噴火させたら、どちらに溶岩が流れるか貴方は考えてますか?」
「アンタたち、黒フードに丸め込まれてここ来てるんでしょ?よく考えてご覧なさいな、この火山が爆発したらどこに影響が出ると思う?」
乱暴で低い声音が少女の声に変わり、“知らない…分からない……”と声を震わせて言う。
「僕の計算では山の裾野の穀倉地帯です…農作物に与える被害は甚大ですね」
「…あらん、ありがと英霊さん。そーゆーことなの。アンタたちが好きな麦わらを燃やすとか、暖炉でごうごう燃えるのとか。そんなささやかな楽しみっていうヤツ?それが金輪際できなくなっちゃうってワケ、こういうのって楽しいと思う?」
“大切、…・・・な…作物、…は、生命、…を、…育む、モノ。楽…しみ…?……温かく、…するの…好き。”
今の意識の主はビフロンスのようだ。
途切れ途切れに言い、器から離れていく。
「やはり人のようにも見えるが…」
ビフロンスが離れ、ただの人型に戻った相手をグラキエスが見下ろす。
「―…グラキエス様、ビフロンスたちは?」
「もう行ってしまったようだな」
2度の憑依で能力が低下しすぎ危険な状態の仲間を連れて、去っていたビフロンスをすでに見送っていた。
「おや、そうでしたか」
「人を嫌いになってしまわなければよいが…。そっちはどうだ?」
「ええ、元の姿に戻せました」
エルデネストは火の玉にされたセシリアを呪いから開放したと告げた。
「そうか、よかった…」
「念のためアウレウスのウィオラが作った解毒薬をお飲みになられてはどうでしょう。皆には、私が配っておきました」
「ありがとう。気配りが上手だな」
甘い解毒ジュースを一口飲み微笑する。
「どうしたんだ、ベルク。そんなに怖い顔をして…」
不機嫌そうに顔をムスッとさせているベルクを見て首を傾げた。
「逃げようとしてたから追っていったんだけどな。どこまで精神力が持つかわんねぇし、別のやつに遭遇したら厄介だから戻ってきたんだ」
仲間の疲労はまだ回復しきっていないし、フレンディスと2人だけでは追いきれないと判断したのだった。
「魔性を助けることが出来たのだから、深追いしないほうがいい」
「こちらもいかがですか、グラキエス様」
「あぁ、もらおう。(ふぅ…、なんとかビフロンスを助けることは出来たが…。やっぱり、この暑さは厳しい)」
グラキエスは悪魔の妙薬を受け取り、飲み干してエルデネストに寄りかかった。
「刀真、スピードを落として」
「え…でも、イテッ!」
月夜に口答えは許さんと玉藻の尾で背を叩かれた。
「皆とはぐれちゃうと大変だもの。依頼の相手を発見するまでお願いね?」
「ああ、…うん。分かってるって」
刀真はヒリヒリ痛む背を擦って頷く。
「ねぇオヤブン。ずっと揺れているみたいな感じがするね」
「これって火山地震だよな」
止まったかと思えば、また微震によって景色が僅かに揺れている。
「レイカさん、ソーマ。まだ気配を感じない?」
佐野 和輝(さの・かずき)のテレパシーで、応援要請として呼ばれた清泉 北都(いずみ・ほくと)が言う。
メンバーの人数と所持魔道具が何か、確認するために定期連絡を行っている彼は、レイカたちのところは人手が足りないさそうだと判断した。
北都のパートナーの2人も同行し、小型飛空艇オイレにレイカを乗せてあげたのだった。
「―…私のアークソウルが?」
ペンダントの中の宝石が、鈍い色合いを見せたことに驚きながらも、精神を集中して何の気配なのか探る。
「これは…5人いますね。(この反応は、魔性を取り込んだ者がいる…ということでしょうか)」
頭の中のイメージマップに、動き回る複数の点のポイントを感じ取る。
「北西の辺りかと…」
「どうする?全員で行ったほうがいいか?」
「いえ、それではばらばらに逃走されてしまうかもしれません。何人かは、少し距離をとって来てくれるとよいかと思います」
「俺たちが先行するか。一輝たちは後からついてきてくれ」
「あっ、その前に呪いの対策をしておかないとな」
「火の玉にされては何も出来なくなってしまうからね。…クローリスさん」
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)の膝に乗っている少女は、彼が何を頼みたいのか理解し、手の中に花を咲かせてそよ風へ散らす。
空を舞い弾けた花びらは甘い香りとなって漂う。
「ありがとうございます。では、先に行きますね」
振り返らずに微笑したレイカは、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)たちとターゲットの気配の方へ向かう。
「確かに5人いるようだな…」
「気配を捉えきれる者だけを狙いましょう。……和輝さんからテレパシーが。(…はい、ええ…発見しました。万が一の時は、そちらで追っていただければと…)」
もしも逃走された場合、和輝たちのほうで追ってもらえるように伝え、そのままテレパシーをつないだままにしてもらう。
「これ以上近づいては、気づかれてしまいますね。…とどきますか?」
「うん、やってみるよ」
北都は声のボリュームを下げて言い、裁きの章を詠唱する。
リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)もパートナーの後に、すぐ発動出来るように唱え始めた。
熱毒の術で火山を刺激している炎の怪物は、祓魔師たちに気づかず酸の雨を被ってしまう。
「こっちに気づいたみたい。リオン!」
「(せめて北都の術を受けた者に当たれば…。もう少しです、頑張ってください)」
心の中で取り込んだ者の意思に勝てるようにビフロンスを応援し、いくつもの光の球体を飛ばしてターゲットの傍で破裂させる。
全員には命中しなかったものの、北都の術にかかっていた者は膝をつき、もう2人は体勢を立て直してこちらへ向かってくる。
残りの者は火山を噴火させるべく逃走した。
レイカはすぐさま和輝に“追えそうな位置にいればお願いします。無理そうであれば、近くにいそうな方に頼んでください”と伝えた。
「あれ、ずいぶんと元気なようですね?」
SPと体力を徐々に低下させているはずだが、仕事の邪魔をされて殺気立った相手は影の翼で迫ってくる。
「術の効果を与えたのは中にいる魔性のほうだよね?早く離れて、リオン」
不思議そうに首を捻るリオンに、距離をとるように言う。
「あわわっ、はい。ソーマッ」
「まったく面倒な相手だな」
小型飛空艇オイレの速度を上げて離れ、ふぅ…とため息をついた。
「章の効果は主に邪悪な者…でしたよね。器のほうにも聞くんでしょうか」
「メールにはそうあったな」
「あ!そうでしたね。じゃあ、黒フードの本体のほうにも使ったほうがよいですか?」
「ええ…。魔性を開放しても、器だった者を逃してしまうかもしれませんからね」
逃さないためにもそのほうがよいとレイカが言う。
「分かりました!」
「お待たせ。…玉ちゃん、裁きの章を唱えて」
刀真の後ろから顔を覗かせ、月夜は玉藻に魔力防御力を下げるように伝えた。
「(器の中のにいる者にやればよいのだな)」
付き合いだからとイヤそうな顔を見せず、小さく頷いて裁きの章を唱える。
酸の雨を被ろうとも相手は構わず3人のほうへ向かってくる。
「あれ?効いてないのかな」
「まったくではないだろうが、機械に憑依するような者ではないからな。(ううむ、…刀真が月夜との約束を忘れなければよいが)」
強化したほうの章の力よりも、効力が劣ってしまうのは仕方ない。
月夜が言う“気分”というよりも、真剣に強化を考えたほうがよいかと考える。
ひとまず今ある手持ちのもので、自分たちがやれることをするしかなく、月夜に哀切の章を使うように言う。
彼女は“分かった、玉ちゃん”と言い、ハイリヒ・バイベルを開いて唱える。
魔性を取り込んだ者は、フードの下からニタリと笑みを見せ、ファイアストームを放ち詠唱の邪魔をする。
パートナーの盾になるべく刀真は絶零斬で炎の嵐を相殺した。
だが…、向こうも知恵を持つ者。
他の1人がポイズンヒートを炎に紛れさせていたのだった。
「ぅうっ……熱ッ」
刀真は焼けるような熱気に呻く。
「イェアァアアアァアッ。祓魔師ども、バーベキューにしてやるァアァアーッ」
「あわわ、北都!なんかハイな方がいますよっ」
「下がってリオン。…あうっ」
アブレーションにホワイトアウトの猛吹雪を気化させられ、宮殿用飛行翼でリオンがいる方へ退く。
「姿が見えなくなった…」
「北都さん、まっすぐ来てるんだよ!」
ルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)は炎の翼で飛び、彼の袖を袖を引っ張りアークソウルで探知した位置を知らせる。
「この…、チビスケがッ」
「んん〜〜っ。わぁー!?」
ブリザードと北都のホワイトアウトで、炎の爆発を相殺しようとするが吹き飛ばされてしまう。
「むー、悔しいんだよ」
「章使いに術の対処をさせるわけにはいかん。羽純と2人でやれるな?」
パートナーの小さな身体を受け止めた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が言う。
「ぜんぜんいけるんだよ!」
「ゆくぞ、ルルゥ」
「うん、羽純おねーちゃん」
元気よく返事をしたルルゥは炎の翼で気配の元へ向かった。
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