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【みんなで楽しむ! ピクニック特集】

 今を生きる人々の多種多様な人間模様ーー主に、様々な恋愛模様というものは、その一つ一つにドラマがある。
 私は、ヒラプニラ南西部の丘で開催されている卯月祭に潜入した。この卯月祭では、婚活を中心とした様々なドラマが毎年生まれているそうである。
 丘の中腹を散策していると、楽しそうに過ごしている人たちが見受けられる。まずは、身内でピクニックを楽しんでいる人々を取材した。



 丘の中腹で席取りをしているジェイド ウォルフ(じぇいど・うぉるふ)の元に、広瀬 鉄樹(ひろせ・てつき)たち四人が連れ立って帰ってきた。
「悪いな、ジェイド。退屈だっただろ?」
「ジェイド、ご苦労様。大変だったでしょ?」
 鉄樹とウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)は交互にそう言って、広めのレジャーシートに腰を下ろした。
「すみません、ジェイドさん。遅くなってしまいました」
 ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)も申し訳なさそうに座った。
「退屈はしなかったが……お前達と行動した方がよかったと後悔はしているよ」
 レジャーシートを押さえていた荷物をしまいながら、ジェイドは言葉を続ける。
「それで、祭りは楽しかったか?」
「とっても楽しかったです! そうだ、これ、ジェイドちゃんへのお土産です♪」
 一番最後にシートに座った広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)が、手にしていた袋をごそごそと漁り始めた。
「私にか?」
「はい! みんなお揃いのウサギのお守りです♪」
「ありがたく頂戴しよう」
 ウサギを象った小さなお守りを手に取って眺めるジェイド。
「でも、ファイやママ、ウィルちゃんにたくさん男の人が話しかけて来てちょっと大変でしたです〜」
 ウィルが素早く同意するように頷いた。
「いくら丁重にお断りしても食い下がる人たちばかりで……騒ぎを起こすわけにもいかず、大変でした」
「そうだったのか」
 ジェイドの言葉に、荷物の片付けを手伝いながらウィノナが「そうなのよ」と頭に手を当てて答える。
「鉄樹が離れた時、個人団体問わずに男達がわらわら声をかけてくるかけてくる。戻ってくるまでの間は全く祭りが楽しめなかったよ」
「なるほど……。こちらも、ただ座っているだけなのに、なぜか声をかけてくる奴らが後を絶たなくてな」
「ジェイドさんも、ナンパされていたんですね」
 ウィルの方を見て、ジェイドは小さく溜息をつく。
「適当に追っ払ってたが、それでもへばりついてくる奴らを何人か叩きのめしたりもしてな……場所取りは、疲れる」
「まあ、ファイも含めてみんなかなり外見がいい部類に入るだろうからな。声をかけられるのも仕方なかったかもしれないが」
 鉄樹の言葉に、ふふふ、とウィノナが小さく笑う。
「鉄樹がしつこい男に『俺の連れをあまり困らせないでほしいんだけどな?』って肩を掴んだ時、かっこよかったね〜♪ ジェイドにも見せてあげたかったよ?」
「ですね。鉄樹さん、とっても凛々しかったですよ。あの後誰も寄ってこなくなって助かりましたし」
 ウィルもウィノナの言葉にうんうんと頷いて、ジェイドを見た。
「一応護衛の役目は果たせたか。私のパートナーとしては、それくらいは軽くこなせてもらわないとな?」
「……ウィノナさんもジェイドも茶化さないでくれ。俺は声をかけただけだからな?」
 困ったように笑う鉄樹。
「ふふ。あのかっこいい鉄樹にナンパされたら、落ちちゃう子も結構いるんじゃない?」
「て、鉄樹さんはそんなことする人ではないですよ! ……あ。な、何言ってるんだろう」
 つい言葉が出てしまい、と焦るウィルを見て、ウィノナは口元に笑みを浮かべた。
「さ、食事にしましょうか」
 ウィノナはウィルを見ながら取り仕切るように言った。五人は手分けをして、いくつかのバスケットを取り出して並べる。その蓋を開ければ、色とりどりのおかずやご飯が詰め込まれている。全て、ファイリアが作ったものだ。
「うん、とっても美味しい。ファイの作った料理は、ママ一番大好きだよ」
 見た目にも鮮やかなおかずに手を伸ばしながら、ウィノナはファイに笑顔を向けた。
「美味しく食べてもらえるのは、何回見てもとっても嬉しいのです♪」
「うむ。なかなか悪くない味だ。もう一つ食べてもいいぞ、うん」
 ジェイドも、嬉しそうな表情でファイリアの弁当に手を伸ばす。
 美味しそうに食事をする皆の中で、ウィルの表情だけが少し曇っていた。実は、ウィルもお弁当を作ってきていたのだが、ファイのように皆に美味しいと言って食べてもらえる自信が持てず、尻込みをしているのだ。
(やっぱり、今回は引っ込めて練習を積んでから……)
 そんなウィルの様子を見て、ウィノナが小声で耳打ちをする。
『ウィル、ここで出さないとせっかくの努力が台無しになっちゃうよ? 勇気を出しなさい』
 ウィノナにぽん、と背を叩かれたウィルは、
「あ、あの!」
 と声をあげた。
「これ、はじめて作ってみたんですけど……」
 そう言ってウィルが取り出したのは、サンドイッチのバスケットだった。恐る恐るといった様子で蓋を開くと、早速鉄樹が手を伸ばした。
「……お、結構うまいな。初めてでこれだけ出来れば上出来だと思うよ」
 サンドイッチを頬張った鉄樹はそう言って、二個目のサンドイッチをつまんだ。
「ふっふ〜ん♪ よかったね、ウィル。鉄樹が美味しいだってさ〜♪」
「は、はいっ! 本当にうれしいです!」
「ウィルちゃん、とっても頑張ったです! 必ず美味しいのですっ!」
 ファイにも褒められ、ウィルは心底嬉しそうな満面の笑顔を浮かべる。
「……あ。す、すいません。少しはしゃぎすぎてしまいました」
 赤くなったウィルとサンドイッチのバスケットを交互に見るのは、ジェイドだ。ウィルの作ったサンドイッチをつまみ、口に入れる。
「……そこそこの美味さは出ているが。……いいだろう、次は私が作ってやる」
「……ジェイド、お前、料理できるのか……?」
 鉄樹の声が届いているのか届いていないのか、ジェイドの中でライバル心が燃え上がったようだ。

 そんな五人の楽しげな雰囲気は、丘の一画でいつまでも続いている。