空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

2023春のSSシナリオ

リアクション公開中!

2023春のSSシナリオ
2023春のSSシナリオ 2023春のSSシナリオ 2023春のSSシナリオ

リアクション



●『結に元気になってもらおう!』

「――それでね、その時――」
「…………」
 プレシア・クライン(ぷれしあ・くらいん)が昨日はこんなことがあった、その前はこんなことがあった、というような話を堂島 結(どうじま・ゆい)にするものの、肝心の結は心ここにあらずといった様子だった。
(私が、サクシード……全然、実感湧かないなぁ)
 結の心を最近騒がせているのは、自身のサクシードへの目覚めであった。常人とはかけ離れた感覚や空間認識能力を持つサクシードは、地球とパラミタ、二つの世界が交わることによって双方の進化が促された結果現れた、次の段階へと進んだ人類とされ、“継人類”とも呼ばれている。しかし、サクシードに対する見解は専門家の間でも分かれ、詳しいことは分かっていない。
 かく言う結も、自分の何が変化したのかは全然分かっていなかった。
「もーーー!」
「うわぁ! ……ど、どうしたの、プレシアちゃん?」
 突然バンッ! と机を叩かれ、結が飛び上がってプレシアに目を向ける。
「結、最近おかしいよ! なんだか悩んでるみたいだし元気ないし。
 元気の無い結なんて結じゃないよ!」
「そ、そうかな。そんなこと無いよ、ほら私元気だよ、うんっ」
 痛いところを突かれて、結は顔をひきつらせつつガッツポーズなぞしてみる。しかしそんな気休めが、パートナーであるプレシアに通じるはずもなく。
「こうなったら私が、絶対、結を元気にしてみせるからねっ!」
 そう言って立ち上がり、出て行ってしまう。
「はぁ……。ごめんね、プレシアちゃん……」
 開けられたままの扉を見つめて、結がぽつり、と呟く。
 プレシアが自分のことを気にしてくれているのが分かっているから、サクシードのことは気にしないようにと思うけれど、やっぱり気になってしまう。
「はぁ……」
 何度目かになるか分からないため息が漏れる――。


「結、おはよーーーっ!
 さ、私とお出かけするよーーーっ!」
「うわぁ! プレシアちゃん、入るならノックして私着替え中だってばっ」
 数日後、バーンッ! と扉を開けて入ってきたプレシアが、結を空京の街へ連れ出そうとする。結は抵抗しつつも支度を整え、プレシアと外へ出る。
「出たのはいいけど、プレシアちゃん、どこか行く所決めてるの?」
「うん! あのね、結、ラーメン好きでしょ?
 私があるお店にお願いして、結の特製創作ラーメンを作ってもらえることになったの!」
「ほ、ホントにっ!?」
 ラーメンと聞いて、結の目が瞬く間に輝く。結は自他共に認めるラーメン中毒であり、どんなラーメンであっても美味しく食してしまう。ラーメン好きが高じて創作ラーメンなるものを日々編み出しているが、それを食べた人はもれなく別世界へ旅立ったまま戻って来なかったり、現実に帰るのを拒否したり、人生の意味を考え直したりする……ことがあるらしかった。
「は、早く行こうプレシアちゃん!
 あぁ……究極のラーメンが私を待ってるわっ!」
「わぁ、ま、待ってよ結ー!」
 今度は結がプレシアを引っ張る形で、二人は件のラーメン屋へと向かう。


「へいらっしゃい! おっ、待ってたよお嬢ちゃん」
 威勢よく出迎えた店主が、ちょっと待ってなと笑いかける。多分、本人は心から笑っているつもりなのだろうが、結とプレシアにはどうもその手の道の人にしか見えない。
「……ねぇ、ここ大丈夫なの?」
「うーん、魔法少女に縁のある店だから、って聞いたよ私」

 小声で話す結に、プレシアも小声で答える。実はこの店は『INQB』がバックにあり、プレシアが魔法少女であるというのを知っているからこそプレシアの持ち込んだレシピを受け付けてくれたのだが、当の結とプレシアは知る由もない。
「へいお待ちっ! カラフルスパークルラーメン、味わいなっ!」
 そうこうしている間に、結特製創作ラーメンNO.49『カラフルスパークルラーメン』が二人の前に運ばれてくる。
「こ、これは……!
 これだわ! 私が想像した通りの一品がここにある……!」
 感動の眼差しでラーメンを見つめる結。そのラーメンはまず麺にいちごペーストが練り込まれ、スープはオレンジ果汁100パーセントをベースとした特製スープ、カスタードクリームと生クリームをこれでもかと盛り付け、鮮やかなビーンズをまぶし、仕上げにメロンとチョコソースをかけた、ラーメンと言うにはどうひっくり返っても無理だろうという代物であった。
(うげぇ……見た目は凄い綺麗だけど、これ、ラーメンなんだよね……)
 プレシアがげんなりとした顔で、目の前のラーメンを見つめる。何故自分の分まで運ばれてきたのか文句を言いたかったが、向かいの結が幸せそうな顔を浮かべて「おいしーい!!」と食しているのを見られただけでも、まぁいいか、と思えた。
「ほら、プレシアちゃんも食べないと、のびちゃうよ!」
「えっ……た、食べるの? 私も?」
 結が期待の眼差しで、プレシアを見つめる。
「…………えぇい!」
 そのプレッシャーに負け、プレシアが麺をつまみ、一息にすする――!

 『カラフルスパークルラーメンの こうげき!!

  つうこんの いちげき!!』


「――!?」

 まず襲い掛かる、オレンジ果汁100%をベースにした特製スープの予想を遥かに超えた味。
 それは例えるならば、ドリンクバーでオレンジとうっかり混ぜてはいけないものを混ぜてしまった時の衝撃のゆうに10倍は記録するであろう衝撃。

 『カラフルスパークルラーメンの こうげき!!

  つうこんの いちげき!!』


「――――!?」

 次に襲い掛かる、いちごペーストを練り込んだ麺の食感。
 口の中で膨れ上がり、味覚の衝撃を余すこと無く拡散してくれる。

 『カラフルスパークルラーメンの こうげき!!

  つうこんの いちげき!!』


「――――――!?!?」

 そして、カスタードクリームと生クリームのコラボレーション、ビーンズとメロン・チョコソースが絶妙に絡み合い、ありとあらゆる感覚を揺さぶり、破壊し尽くす。

 『プレシアは たおれてしまった!』

 慈悲の欠片もない暴力的なラーメンに、プレシアのような通常の味覚しか持たない者が耐えられるはずもなく、きゅう、と倒れ伏しそのまま動かなくなる。
「はぁ、幸せだわ……」
 結はそんなラーメンも、美味しく平らげてしまう。これもサクシードに目覚めた効果なのかもしれない――。


「プレシアちゃん、大丈夫?」
「うぅぅ、ひ、ヒドイ目に遭ったよ……。
 地獄に落とされるのと天国に上がるのを108回繰り返す夢を見たよ……」
 店を出て、プレシアが無事に現実に帰ってこれたことを心から喜ぶ。やはり結の特製創作ラーメンは結だけが食べるように、見張っておかなければならない、そう誓うプレシアであった。
「この後はどうするの?」
「そうだねー……私達魔法少女だから、人助けをしようよ!」
「うーん、人助けをするのはいいけど、そうそう困っている人いるかな?」
「いるわよー、日々事件事故大事件が起きるのがパラミタなのよ!」
「そ、それってどうなのかな……」
 プレシアのノリに押される形で、困っている人を助けることになったのはいいが、いくらパラミタと言えども平穏な日もあるということで、街の中心部からぐるりと円周上に歩けど歩けど、事件らしい事件は起きない。空京ともなればそれなりの警備組織が組まれていることもあり、近年の犯罪率は低下傾向にあった。
「もーーー! どうして今日に限って事件がないのよっ!」
 その内プレシアが飽きて、自らの光条兵器『クラージュ・シュバリエ』をぶんぶん、と振り回し始める。
「プレシアちゃん、危ないってば。誰かに当たったらどうするの」
「そうですよー、魔法少女が人様に迷惑をかけてはいけません」
 聞こえた声に二人が振り向けば、魔法少女のコスチュームに身を包み、杖を手にしたまさに魔法少女と言わんばかりの少女が立っていた。
「豊美ちゃん!」
「はいー。結さんとプレシアさんは空京巡りですか?」
「うん、そんなとこ。豊美ちゃんはお仕事中?」
「はい。街の皆さんに平和をお届けするのが、魔法少女のお仕事ですから」
 『豊浦宮』の代表であり、みんなの憧れの魔法少女、{SNL9998963#飛鳥 豊美}がにっこりと微笑む。
「うーん、自信たっぷりに言えるのって凄いなー。その姿勢は私も見習いたいな」
「じゃあ結も私と魔法少女をもっと頑張ろう!」
「いや、それとこれとはまた別というか……」
「頑張り方は人それぞれですよー。結さんは結さんの頑張り方で、やってみてくださいー」
「私なりの、頑張り方……。
 うん、そうだね。ありがとう、豊美ちゃん。お仕事頑張ってね」
 ぺこり、と頭を下げて、とん、と地面を蹴って空に舞う豊美ちゃんを、手を振って結とプレシアが見送る――。


「はぁ……結を元気にさせてあげるつもりだったのになぁ」
 日が沈みかける頃になって戻って来るなり、プレシアが残念そうに呟く。プレシアとしてはあまり今日の目的を果たせていないな、と思っていた。
「ううん、そんなこと無いよ。プレシアちゃんの気持ち、私、嬉しかった。
 ありがとう、プレシアちゃん。私、これからも悩むことがあるかもしれないけど……頑張ってみる」
 けれども、結はそんなプレシアに笑顔で微笑んでくれた。
「……そっか。ううん、こっちこそ今日は付き合ってくれてありがとね、結!
 私に出来る事があったら言ってね!」
 プレシアも結にお礼を言って、そして互いに笑い合う。

 休みの日の、二人の楽しいひとときが過ぎていく――。