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あの時の選択をもう一度

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あの時の選択をもう一度
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第一章 選ばなかった選択をもう一度


 素敵な家に大きな庭。

「今日はいい天気だね……何読んでるの?」
 吉木 詩歌(よしき・しいか)は青空を見上げ深呼吸をした後、にこにこ顔で椅子に座って読書をしている父親に振り返った。詩歌に気付いた父親は本から顔を上げて優しく微笑みながら本のタイトルを教えた。
「面白いの?」
 詩歌は可愛らしく小首を傾げながら父親に訊ねた。
 ちょどその時、手作りのお菓子を抱えた母親がやって来た。
「うわぁ、私の大好きなお菓子! いただきまーす」
 詩歌はテーブルに駆け寄ってちょこんと椅子に座るなり、次々とお菓子を口に頬張っていく。
 その結果、
「……むぐっ、もぐっ」
 喉を詰まらせてしまった。苦しそうにする詩歌に母親は急いで飲み物を手渡した。
「んー、もう大丈夫だよ。おいしいから、もう一個!」
 と飲み物を飲んで落ち着いた詩歌がもう一つ食べようとお菓子に手を伸ばした時、風が通り抜け詩歌の髪を揺らすと共に風に混じっていた懐かしい声が詩歌の耳に入って来た。
「……れ?」
 懐かしい声は詩歌の目から涙をこぼれさせた。
「……何か懐かしい声がしたの。早く帰って来てって」
 心配する両親に詩歌は正直に自分の気持ちを話した。
 父親はもしかすると現実の世界で詩歌を呼ぶ大切な人の声かもしれないと言った。
「……大切な人……私の……でも……何も覚えてないよ」
 詩歌はぼんやりと目の前にいる大切な両親を見つめる。聞こえて来た声は懐かしいと思うけれど今覚えているのは目の前に両親がいて幸せな時間を過ごしている事だけ。
 父親は詩歌にその記憶が無くとも心のどこかで忘れずにいたのかもしれないとそんなに詩歌を大切に想う人から詩歌を取り上げて自分達だけが幸せになる訳にはいかないと言った。
「でも……出来ないよ……私……」
 詩歌は首を振り、新しい涙が流れる。父親の言葉通りだとしてもそんな事は出来ない。両親と別れるなんて。こんなに幸せなのに。
 母親が自分達は十分に詩歌と過ごせて幸せだったからその人の元に帰ってあげてと言う。
 しかし、詩歌は
「……そんなの……ここで……お別れなんて」
 泣きじゃくり両親との別れを悲しむ。
 母親は泣きじゃくる詩歌の両手を握りしめながら泣かないで、笑顔でお別れしたいなと優しく言った。
「……うん……泣かない……泣かないよ」
 詩歌はこくりとうなずき、涙を両手で拭いて別れの悲しみを押し隠したぎこちない笑顔を浮かべた。母親は笑顔で詩歌の事を誰よりも愛してると伝え、父親はどんなに離れていてもずっと見守っているよと言って詩歌を力強く抱き締めた。泣かないと決めた詩歌の目から次から次へと涙が溢れ、景色が滲み、詩歌の世界は終わりを迎えた。

■■■

「しーちゃん! しーちゃん! どうしたんですか。起きて下さい。しーちゃん!」
 不知火 緋影(しらぬい・ひかげ)は買ったばかりの本を抱えながら通りで倒れている詩歌を発見するなり抱き起こし、体を揺すったり声をかけるも無反応。偶然、買い物に来て目に付いた本屋に入り、早々に購入する本を決めた詩歌に本を渡され、自分の本と一緒に勘定を済ませ本屋を出た時、店の出入り口に詩歌が倒れていたのだ。
「……眠っているようには見えぬのぅ」
 セリティア クリューネル(せりてぃあ・くりゅーねる)も詩歌が倒れている事に少しは驚くもすぐに状況把握をしようとして詩歌の顔を覗き込んだ。
「それじゃ、しーちゃんに一体、何が起きたんですか? しーちゃん! しーちゃん!」
 緋影はセリティアに一言訊ねるとまた詩歌に呼びかけ続ける。
「……わしらと同じ状況の者がおるようじゃな」
 セリティアは冷静に周囲を観察し、異常事態が起きて詩歌はそれに巻き込まれたと理解した。
「……どうしましょう、しーちゃんの体が冷たくなって行きます。このままだと……」
 緋影は次第に冷たくなる詩歌の身体に嫌な予感がよぎり、ますます取り乱す。
「落ち着け、わしの目を見ろ。絶対に詩歌は死なぬ。わしらが助けるのじゃ」
 『心理学』を持つセリティアは緋影を落ち着かせなければ詩歌を助ける事など出来ないと考え、緋影の前に立ち、きつい口調で叱咤した。助ける側が取り乱してはどうにもならないのだ。
「……助ける……ですか。何をすれば……」
 ようやく自分を取り戻した緋影は厳しい青い目を見つめた。
「……そうじゃな。この様子だともしかしたら夢かそれともそれに類する別の世界に精神が囚われているのかもしれぬ。だとすれば、何かしら外部から刺激を与えてこちら側に引き戻すのが効果的やもしれぬ。正しいか調べなければならんが、今は一刻の猶予も無い」
 セリティアは今まで読んだ書物からこの状況を理解する手助けや知識を引っ張り出し、ようやく別世界に囚われているのではと仮説を立てた。
「……分かりました。やってみます」
 緋影はこくりとうなずき、早速始める。正しいかどうかはともかく出来る事があるのなら今はするだけだ。
「……しーちゃん、帰って来て下さい。お願いします、しーちゃんがいないと寂しいです」
 緋影は詩歌の手を握り、必死に呼びかけを始める。
 しばらくしてすぐに救助に奔走する者から安全な場所への移動を指示される共にセリティアは自分の推測を話すとその推測は皆に伝えられる事となった。詩歌を運ぶ間も緋影は常に呼びかけ続けていた。目的の場所に着くなり急いで毛布を掛け、詩歌を現実に引き戻そうと頑張る。その間、セリティアは現在の状況を被害者の関係者や情報収集組とやり取りをしていた。何も分からないでいる事が一番危険なので。
「……最近、イルミンスールで悪さをしている魔術師とは厄介じゃな。姿形も掴めぬとは」
 集まった情報を確認終えたセリティアは厳しい顔をしていた。
「しーちゃん、ワタシ達を置いてこのままいなくならないで下さい。早く目を覚まして下さい」
 緋影の必死な言葉は風に乗り、詩歌の耳に届いていた。
 そして、詩歌は両親が魔物に殺される事なく一緒に暮らす幸せな世界から戻って来る事が出来た。

「……ここは……ひーちゃん……くーちゃん」
 現実に戻った詩歌が最初に目にしたのは空ではなく声の限り呼びかけ続けていた緋影とセリティアの顔だった。
「しーちゃん!」
 詩歌の無事に緋影の声にはたくさんの水分が混じっていた。
「……ごめんね」
 詩歌は心配させた事に謝った。
「そんな事どうでもいいです。しーちゃんが無事で良かったです!」
 緋影はぎゅっと詩歌を力一杯抱き締めた。
「ふむ」
 セリティアは安心した顔で詩歌達のやり取りを見守っていた。
「……ひーちゃん、クーちゃん、大好き!」
 詩歌は緋影に抱き締められたまま自分を心配し大切に想ってくれる人が側にいるのが嬉しくて思わず満面の笑顔を緋影とセリティアに向けた。胸の奥に両親の言葉を抱きながら。
「……無事で何よりじゃ」
 詩歌の言葉に照れたセリティアは顔を赤らめそっぽを向いた。

 地球。朝、とある家の自室。

「……んー、妙な声を聞いたと思ったら夢か」
 匿名 某(とくな・なにがし)はぼやっとした顔で目を覚まし、むくりと起きるなりもそもそと寝間着から部屋着に着替える。
「……んー」
 一人のためか発する言葉は極端に少ない。のろのろと自室のドアをほんの少し開け、隙間から自分が発する音以外聞こえないかどうかを確認した後、朝食を食べるために自室を出た。今の時間両親はいないようだ。
「……」
 某は適当にお腹を膨らませてからもそもそと自室に引っ込んだ。

 再び自室。

「……まずは」
 某はパソコンを付けてネットサーフィンをして時間を過ごし始める。それがいつもの日常。
 しばらくして
「……何か買って来るか」
 時折、何かを買うために唯一の外出先であるコンビニ行って何かを買って帰宅するとそのまま自宅に引っ込んでまたパソコンの前で過ごす。本日は、飲み物やお菓子片手にパソコンの前で過ごした。コンビニに行く以外は一歩も部屋を出ない。そんな生活が中学二年から続いている。
「……同じだな」
 ぼそと自嘲的に某はつぶやいた。自分の姓名と同じで誰のためにも存在しない、世界で一番無意味で無価値な空間。そんな緩やかに誰からも忘れられて死んでいくような世界こそが今の某の全てだった。外では浮遊大陸がどうこうと賑やかなのに某だけ昨日も今日も明日も同じ一枚絵の生活。
「……何か飽きたな。暇潰しに噂の大陸でも調べてみるか」
 某はいつも似たような場所をネットサーフィンするのに飽きて噂の大陸について調べ始めた。
 その結果妙な記事を発見する事が出来た。
「……ネットを使っての契約か、俺には関係ないな。まぁ、冷やかしがてらに行ってみるか」
 ネットでの契約に大した興味も持たず某は契約を募集している場所を見てみる。
 様々な種族の写真が並ぶサイトに辿り着いた某の目に一番に入って来たのは黒髪ツインテールの可愛らしい守護天使だった。
「……黒髪の守護天使、って思い切り幼女じゃねえか。コイツと契約する奴はロリコンだろ」
 そう吐き捨てるも某は優しい笑みを浮かべるその守護天使から目が離せなかった。
「……何だこの気持ちは今初めて見るはずなのに凄く暖かい気持ちになる」
 某は胸の奥にじんわりとわき上がる妙な心地よさに眉を寄せていた。その間も視線はパソコンの液晶画面の奥で微笑む守護天使に向けられていた。
 突然、某はきょろりと周囲を見回し始めた。
「……誰もいない、よな」
 と首を傾げた。なぜか自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたのだ。こんな腐敗した世界にいる自分の名前を呼ぶ者などいるはずもないのに。
「……この声」
 やはり聞こえて来る声に首を傾げる某。心地良くて愛しさがわき上がる声。声を聞いている内に自分の『世界』はここではない気がしてくる。
「 ……そうだ、俺の世界はここじゃない。俺の『世界』は……」
 一瞬だけ某の脳裏に大切な人の顔が浮かぶ。そして、某はパソコンの奥で微笑む守護天使の写真の下にある“契約をする”にマウスポインターを合わせクリックをした。それと同時にこの世界もクリックされ現実世界へと移動した。

■■■

「某さん!?」
 結崎 綾耶(ゆうざき・あや)は倒れている某を発見し、駆け寄る。二人で買い物をしていたはずなのにいつの間にか意味不明な出来事に巻き込まれていた。
「某さん、どうしたんですか?」
 綾耶は某を抱き起こし声をかけるも反応が全く無い。
「……他の人も私達と同じみたいですけど、一体」
 いろいろ疑問が浮かぶも某の事を第一に考える綾耶は嫌な予感が胸に迫るのを押さえて周囲を確認した。自分達と同じ状況下に置かれている人があちこちにいる事に。
 この後すぐに人命救助を担当している者から安全な場所と推測された解決策を教えられ、力を貸して貰いながら移動して安全な場所に寝かしつけた。

 安全な場所。

「……某さん、身体が冷たくなって」
 綾耶はぎゅっと某の手を握り、『テレパシー』で何度も呼びかけてみるが反応が無い。毛布を掛けてお湯で暖めたりしているのに冷たさは収まるどころか酷くなっていくばかり。そのため『護りの翼』の光の翼が某を包み込み、死を遅らせようとする。
「……某さん、戻って来て下さい。まだお買い物は終わっていませんよ。私、一人でお買い物をするのはイヤです」
 綾耶は水分の多い目で目を閉じた某を見つめた後、『幸せの歌』を歌った。遠くにいる某の元に届く事を願って。
 優しい歌声は某の胸を温めるも引き戻す事は出来ない。
 歌っていた綾耶はめざましい反応が見られない事に歌を中断し、
“……某さん、目を覚まして下さい。お願いです。私は某さんとやりたい事いっぱいあるんです。なのにこのままお別れなんて絶対イヤです! だから、私の元に帰って来て下さい!”
 『【古王国の祈り】守護天使用』をしながら『テレパシー』で必死の呼びかけをする。未だ目覚めぬ恋人を映す茶色の瞳は悲しみと恐怖で潤んでいた。このままここで某を失うなど考えたくもない。今日は楽しい一日になるはずだったのに。事件に巻き込まれ某がこんな目に遭うなんて思いもしなかった。
“某さん!!”
 某を思う気持ちで得た力で声なき声は遠くにいる某の耳に届き、某を目覚めさせた。

「……」
 綾耶と出会わなかった世界から帰還した某はゆっくりと起き上がった。
「某さん!!」
 某の目覚めに気付いた綾耶は抱きついた。
「……綾耶」
 某はしっかりと恋人を抱き締めた。
「心配したんですから……某さんが倒れてて……どんどん冷たくなって……私……」
 ずっと不安の渦中にいた綾耶は安堵からわんわんと大声で泣き始めた。
「……綾耶、心配かけてごめんな。綾耶のおかげでこっちに戻る事が出来たよ。ありがとう」
 どれだけ綾耶に心配をかけてしまったのか知った某は心から詫びた。
 そして、
「……俺の『世界』はここだな」
 某は愛おしそうに腕の中で泣いている綾耶を見つめていた。

「……こうやって皆我を置いていくんですね。強化人間になった時から判っていましたけど」
 ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)セルマ・アリス(せるま・ありす)オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)の結婚式の招待状を見つめていた。招待状にはミリオンに向けた二人からの感謝の言葉が特別に添えられていたが、ミリオンは中身の確認などはしていない。
「……所詮、人なんて、信じれば絶望で返ってくるという事ですね。オルフェリア様は違うとずっとずっと思ってましたが、いや違うと思いたかったのですが」
 ミリオンはぐしゃりと招待状を握り潰し、ゴミ箱に捨てた。ミリオンにはオルフェリアの結婚を受け入れる事が出来なかった。オルフェリアがミリオンの全てだった。これまでも、そしてこれからも。しかし、それは突然壊れ、ミリオンの心はどうしようもなく空虚だった。
「……誰も、我を必要とはしていない」
 ミリオンはぽつりとつぶやいた後、静かにこの場を去ってあてもなく歩き出した。

 果てしなく広がる青空の下、どこからともなく賑やかで幸せに満ちた声が聞こえてくる。
「……」
 ミリオンはふと声のする方を見ると遠くから結婚式場が見えた。しかもオルフェリアとセルマの結婚の会場。なぜだか近くまで来てしまったようだ。
「……」
 ミリオンは向かおうとはせず、遠い世界の出来事のように式場の方を見つめるばかり。
 脳裏には結婚式に向けて衣装や料理、招待客リストの作成など幸せな忙しさを楽しむオルフェリアとセルマの姿が浮かび、自分に向けられた言葉を思い出す。
「結婚してもミリオンはオルフェの親友なのですよ」
 オルフェリアは満面の笑顔をミリオンに向けながら言った。
「……オルフェは幸せにするよ。だから心配しないで」
 オルフェリアを大切にするミリオンにオルフェリアは必ず幸せにすると約束するセルマ。

「今日、結婚式を終えるあの人の姿を、我は見たくない……さようなら、オルフェリア様、皆さま」
 ミリオンはぽつりと届かぬ最後の別れを口にしてから式場から目を逸らして歩き始めた。

 あてもなく歩いていたミリオンの足が急に止まった。
「……これは」
 ミリオンは胸の奥からわき上がる心の叫びにたまらなくなった。先ほどまでは感じなかったのに。
「……我は一人でも生きていける……生きていけるのに……何故我はこんなに辛いのでしょうか?」
 ミリオンはあまりの辛さに胸に手を当てた。一人で生きる事ぐらい大した事のないはずなのに。心の辛さはなぜか止まらない。
 そんな時、どこからともなくミリオンを呼ぶ声がした。
「……我の名前……誰かが我の……名前を呼んでる?」
 周囲を見回すが声の主はいない。だが、声はやむことはない。耳に入るのは二種類の声。
「……誰が……あぁ、こんな風に……誰かに必死になって呼びとめられるのは初めてかもしれない……この声は……」
 ミリオンはゆっくりと聞き覚えのある声に向かって歩き始めた。
 そして、辿り着いたのは大切な人と親友が待つ世界だった。

■■■

「ミリオン、どうしたのですか!?」
 店の外で待つミリオンが倒れる姿を見てオルフェリアは血相を変えて店を出て駆けつけた。
「ミリオン!」
 オルフェリア達と一緒に買い物に来ていたセルマも慌てて駆けつけた。
「急に倒れてどうしたのですか!? どこか痛いのですか!?」
 オルフェリアは倒れたミリオンを抱き起こし、訊ねるが返事は返って来ない。
「そうは見えなかったけど体調悪かったのかな? こんな所で寝ていたら風邪引くよ」
 セルマも心配そうにミリオンの顔を覗き込む。
「返事が返ってこないのですよ。眠っているようなのです。おかしいのですよ。呼んでいるのに」
 オルフェリアはセルマに不安そうに訴えた。
「オルフェ、このままは不味いからミリオンをどこか安全な場所に移動させよう」
 セルマは周囲に起きている異変に嫌な予感を抱きつつもこのままミリオンを地べたに寝かせるわけにもいかない。
「は、はい。オルフェも手伝うですよ」
 オルフェリアは急いでうなずいた。ちょうど人命救助に携わる人から安全な場所への移動と推測された解決策を教えられてからセルマがミリオンを背負い、オルフェリアが荷物を持って移動した。移動が終わるなり配布された毛布をミリオンに掛け、オルフェリアとセルマは必死に呼びかけた。
 それからしばらく後、
「……これは最近ここで悪さをしている魔術師の仕業なのか。ミリオンをこんな目に遭わせて許せない」
 セルマは情報収集組から事態の原因を知らされ、親友を巻き込んだ魔術師に憤りを感じた。
「ミリオンはオルフェの親友なのですよ。早く起きるのです! オルフェはずっとミリオンと居たいですよ」
 オルフェリアは必死に呼びかける。時々、ミリオンが何を考えているのかオルフェリアでも判らなかったり怖い事もあるが心からずっと一緒にいたいと思っている。
「ミリオン、俺もオルフェも心配してるんだよ」
 セルマも必死に呼びかける。
「……両親が戦争で死んで、誰も居なくて一人で居る時にミリオンが居てくれたからオルフェはここまで生きてこれたのですよ? だから……ミリオン……起きてくれないと……これまでの分の“ありがとう”もこれからの分の“よろしく”も言えないままさようならなんて、オルフェは悲しいです」
 オルフェリアは次第に冷たくなって行くミリオンの身体に不安を感じ、声にもそれが混じっていた。
「ミリオンは、オルフェにとっても、セルマにとっても……大事な親友なのですよ? だから、目をあけて欲しいのです」
 オルフェリアはミリオンの左手をぎゅっと握り締め、目を潤ませながらミリオンの顔を見つめる。
「そうだよ。ミリオン、駄目だよ。このまま起きないなんて許さない! 帰って来て!」
 セルマもミリオンの右手を握り必死に呼びかける。軽く体温を感じ取るために握った手からは冷たさが伝わってきたから。
 オルフェリアとセルマの心がこもった呼びかけは孤独になったミリオンの耳に届いた。
 そして、こちら側へと導いた。

「……」
 ミリオンは孤独な別世界から戻って来た。
「ミリオン!! 良かったのですよ〜」
 オルフェリアはミリオンが目覚めた事に気付くやいなや力一杯抱き締めた。
「……オルフェリア様」
 ミリオンは自分を抱き締めるオルフェリアをぼんやりと見つめていた。
「ミリオン、身体に異常は無いか?」
 セルマが念のため異常が無いかを確認。
「……いたって無事です」
 ミリオンは一度自分の身を確認してから答えた。
「ミリオンはオルフェとセルマの大親友なのです! だから勝手に居なくなったりするの、禁止なのですよ!!」
 オルフェリアはミリオンにくっついたまま顔を上げ、頬を膨らませながら言った。
「オルフェの言う通りだよ。俺もオルフェもとても心配したんだ。急に倒れたりしないでよ。まぁ、また倒れても遠慮無く起こすけどね。本当に良かった」
 セルマも安心の笑顔を浮かながらいつの間にかミリオンの頭に手を置いていた。
「……何をしているんですか」
 セルマの手に気付いたミリオンがツッコミを入れた。
「いや、ほっとしてつい」
 セルマはミリオンが怒っているのかなと思いながらも軽く受け流すだけで置いた手を離す事はしなかった。