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あの時の選択をもう一度

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第三章 被害者救済


 イルミンスールの町。

「……また例の奴か。もしそうならこれで四度目か。これまでの数々の悪事を見ると何か可哀想な事情を持つ奴でも同情はできないな」
 陽一は町の惨状を見渡しながらこれまで遭遇した魔術師の所業を振り返り憤っていた。
「そうですね。別人の可能性もあると聞きましたが、この様子だと真っ先に考えるのは……」
「あの悪い人だね」
 陽一の話を耳にした御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)とパートナーのノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が言葉を挟んだ。
「私達は被害者を警備が出来る安全な場所に集めて治療をする事をエリザベート校長に相談してから犯人から被害者への再接触を警戒しようと思います。今までの事件から鑑みて可能性は限りなく低いですが」
 舞花は協力し合うためにも陽一に自分達の行動について話した。
「もしもがあった時の事を考えると適切だと思うよ。俺は救助に回るから」
 陽一はそう言って被害者救助のため舞花達と別れた。刻一刻と事態は悪化しているのでこれ以上お喋りしている時間は無いのだ。
「舞花ちゃん、わたしも頑張ってお手伝いするよ!」
「お願いします、ノーン様」
 舞花とノーンも行動を開始した。まず、『イノベーション』でエリザベートに被害者をどこか安全な場所に集めて治療を施す事を相談した。人命が掛かっている事もありすぐに了承され、適切な場所を用意して貰った。
 しばらくして情報組からの事件の詳細や解決策などの報告も次々と人命救助組にも伝えられて行った。

 陽一は他の人命救助組と共に舞花がエリザベートから使用許可を貰った安全な場所へと被害者を運び込み、他の協力者が用意した布の上に寝かせ、体温低下を防ぐため近隣住民や他の協力者達が用意した毛布やタオルケットを被害者に掛けていった。
 子供には近くで火を焚きチョコスライムに窒息しないように包み込ませ、ゆりかごのように揺らしてチョコの甘い匂いと心地良い振動で覚醒させていく。
 覚醒待機被害者が大勢待つため可能な限りの人数をトランポリンのように大きく広げた漆黒の翼の上に寝かせてから翼を波打つように動かし、刺激を与え覚醒させていく。
「……大丈夫かな」
 陽一は時々、ヒスミの救助の具合をちらちらと確認する。見知った者だけに心配だが、頼りになる人達ばかりなので自分は後で様子を見に行けば良いと考え、他の被害者を覚醒させていった。

 手芸店、出入り口前。

「ダリル、またあの魔術師だよ。毎度大迷惑ばっかり起こして……とりあえず、ヒスミ達を助けよう!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は店を出た時にエリザベートからの知らせを受け、よく知る双子と被害者を助けるために人命救助に向かう事にした。
「そうだな。確か被害者は安全な場所へ移動されている最中だったな」
 とダリルは今の状況を確認する。現在は舞花の提言で安全な場所へ被害者を移動させている途中なのだ。
「ルカは下に敷く布を買うよ。冷たい地面や床の上に被害者を寝かせるのはいけないと思うからウールか何かの分厚い生地を沢山買ってくる。ダリルは倒れている人達をお願い」
「あぁ」
 ルカルカはもう一度店に戻り、ありったけの分厚くて暖かな生地をロールごと買い、カードで一括で支払おうとしたところで住民を助けるためだと知った店主が代金はいらないから早く行って助けてあげてくれとルカルカを応援した。店主だけでなく周りにいる住人達も自分達の町を護るのは自分達の仕事だと被害者を助ける救助者達の手助けをしていた。ちなみに事件後、片付けぐらいは手伝いたいと町の人達が生地をきちんと片付けた。

「……リーブラ、あの二人を助けに行くぞ。あいつらには迷惑を掛けられてばっかりだが、かわいい後輩だからな……助けてやらねーと」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は事件を知るなり、犯人を追うよりも双子の事を気に掛けた。迷惑だけでなく面白い体験をさせて貰った事もあるので放っておけなかったのだ。
「もちろんです。今頃、きっと不安でたまらないはずですわ。生まれた時からいた人が倒れたのですから」
 リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は双子が兄弟仲良く叱られている姿を思い出しながら言った。あれだけ仲が良いだけにキスミは心が押し潰されそうなほど不安だろうと想像するのは容易かった。
「行くぞ」
 シリウスはリーブラと一緒に双子の元に急いだ。

 エリザベートからの依頼後。
「またあの魔術師なのね。双子も巻き込まれたらしいけど、どうする?」
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は匂いのきつい果物を買い込んでいる葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)に訊ねた。
「まずはヒスミから聞き込みをするでありますよ!」
 吹雪は紙袋から果物を手に取りながら答えた。
「そうね。それから集まる情報を元に今回とこれまでの事件の分析をしてみた方がいいかもね。それにはまずヒスミを起こさないといけないわね」
 コルセアはあれこれと考える、がまずはヒスミを覚醒させてからと話が落ち着いた。
「それは任せるでありますよ!」
 吹雪は手に取ったヒスミ覚醒のために購入した果物を紙袋に戻しながら双子にとっては嫌な予感しかしない気合いを入れていた。
 吹雪達は双子の元へ急いだ。

「ヒスミちゃんが大変なのだ。すぐに助けてあげたいのだ!」
 ヒスミが被害者となった事を知った天禰 薫(あまね・かおる)は犯人捜しよりもそちらを優先する事に決めた。
「……しかし、巻き込む側が今回は巻き込まれる側か」
 熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)は思わず一言。双子を助ける事に異存は無いが、トラブルメーカーの双子が何かに巻き込まれるとは思いもしなかったので。
「ピキュキュピピキュッ!(わたぼもヒスミお兄ちゃんを助けたい!)」
 わたげうさぎロボット わたぼちゃん(わたげうさぎろぼっと・わたぼちゃん)も可愛らしい真剣な顔。
 薫達は急いで双子の元に向かった。