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ぶーとれぐ 真実の館

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ぶーとれぐと少年探偵の最終章




The family of Norman

ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと) 清泉 北都(いずみ・ほくと)  リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)  雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)



真実の館での約束の3日間が終わって、やっぱりルディのバカは真実になんて到底たどりつけなかったんだろうなー、とか思っていたら、あら、あら、私の知らないところでいろいろな出来事があったらしく、大広間での打ち上げパーティーは、初々しいカップル(家具職人のアーヴィンの養子のオリバーと上流階級の貴族の娘のキャロルですって、私はどっちも知らないんだけど、どういうことなのかしらん)を中心に大いに盛り上がって、事件自体の謎もいつの間に解決してたみたいで、へぇ、これだけ集まれば、やっぱりなんとかなるもんだね、と感心しているセリーヌです。

いま、大広間には事情により館から途中退場された方々以外は、今回のイベントに参加した人全員が集まっていて、館のスタッフさんたちもふくめて、その数およそ200名以上、わいわいがやがや賑やかなパーティの真っ最中なのですが、アンベール男爵もニコニコ談笑してるし、ルディの報酬の追加について交渉するのなら、いましかないかなと、思うんだよね。

勝手にママンの亡霊に悩まされていたルディのアホは、やつが言うところの天使のヴァーナー・ヴォネガットちゃんと神の子の清泉北都くんにはさまれて養生してます。
ヴァーナーちゃんがとってきたお菓子を食べさせてもらったり、北都くんにお話しをしてもらったりですねぇ、ほんとに情けないです。

ニトロのボケは、リカイン・フェルマータちゃんにつきまとって鉄拳をもらって、雷霆 リナリエッタ姉さんが連れてきたプロプロの女の子たちにもいいようにあしらわれて、一人で強いお酒をガンガン飲んだあげく、結局、床にへたりこんでます。
ロックスターって、こんな感じで○ロをノドにつまらせて死んだりするんだけど、ニトロもそうなりゃいいのに。
私の同居人は二人ともそんな調子なので、私ががんばらないと。

ほんと、ウチの家計はいつだって破綻してて、沈没どころか、私たちは海底で暮らしてるようなもんなんだからね。
ルドルフ兄弟には、そこらへんを少しは自覚して欲しいわ。

ボブの髪と麻のシャツ、ショートパンツにサスペンダー。
壁につけられた姿見鏡に写った自分の赤い瞳を私は、のぞきこむ。
よし。
ルディのためじゃなくて、私はほんとうに男の子の格好が好きなんだよね。
実はコスプレ全般がキライじゃなくて、自分以外の誰かになれる気がするし、余裕があればいろいろしてみたいんだけど、バカアホ兄弟にひやかされるのはイヤだよな。
しかも、予算がないんだもん。
ま、しかし、コスプレの予算よりもいまは、明日、明後日の食費です。
アンベール男爵様。よろしくね、っと。

「セリーヌさん。私を呼びましたか」

「えっ。まだ呼んでなかったと思いますけど」

私の思いがテレパシーになって彼を引き寄せたのか、いつの間にか、背後にアンベール男爵が立っていました。
男爵様。気配なく近づかれるのは、こわいのですが。
彼は、がっしりといいガタイをした、口髭がトレードマークのロマンスグレーのおっさんです。
めずらしく、お隣に美人さんを連れてないですね。

「男爵様。私に御用ですか」

「いえいえ失礼。きみに呼ばれたような気がしてね。
私の思い違いだったかな」

カンが鋭いですね。さすがです。
むきなおって私は、男爵に頭をさげました。

「このたびは、御懸念されていた件が無事解決して本当によかったです。
私もルドルフ神父も、彼の弟のニトロも、心からうれしく思っています。
ところで、実は、おりいってご相談がございまして」

「ほう。きみから相談を受けるとは、光栄だな。
遠慮なくなんなりとお申しでを」

私の肩にかるく手をおき、男爵はまるで理解力にあふれた父親のように、親しげに微笑みます。
マジェでは、裏社会の支配者と呼ばれるとともに、社交界一のプレイボーイとも噂されているこのおっさん、ひょっとして私に気があるのか。
自分でもいうのもなんだけど、私の容姿はそこそこだとしても、パーティで男装してる10代の女の子を誘う推定40代のおっさんなんて、プレイボーイにしても、好きものすぎるんだが。
筋金入りの変態だ。
ぶるぶる。

「すでにご存じかと思うのですが、今回の件の最中に、ルドルフ神父が具合を悪くされまして、どうやら、以前に亡くなった彼の母親がこの館にいる、との幻想にとらわれたようなのです。
神父は、もともとひじょうに繊細で感受性の強い気質の持ち主です。
3日間のここでの生活は、彼の精神を痛めつけ、疲弊させました。
いま、現在、神父は気丈にふるまっているようにみえますが、あれは私が医師に頼んで処方してもらった薬の力なのです。
薬がきれれば、彼はまた痛めた心を抱え、憂鬱な時間をすごすことになるでしょう」

「なるほど、つまり、私に神父の現在の状況を考慮して、特別手当を払えとでも」

はい。正解です。
薬はウソですが、ルディがおかしくなったのは事実ですから。
おかしいのは、いつもですけどね。

「喜んで。彼には世話になった。神父だけでなく、彼の弟のロックスターにも」

「ご理解いただきありがとうございます。男爵様」

おかげでしばらく、生活費の心配をしなくてすむかもしれません。

「きみに感謝されるのは不思議な気分だ」

男爵は、今度は私の肩に腕をまわし、体をくっつけてきた。
おい、おっさん、やりすぎだぞ。
私の体のむきを変えさせ、2人並んで鏡の前に立つ。

「グルジエフ兄弟のパートナーとして、きみに苦労をかけさせてすまなく思っているよ。
本当は、きみはあの2人のパートナーなどではないのにね」

「おたわむれを、残念にも、私は兄弟2人の」

「いや違う。
きみは二人と出会う前の自分の過去をおぼえているかい。
血ぬられた争いと背徳に満ちふれた、端倪すべからず闇の眷属を。
ほら、鏡をよくみつめてごらん」

片腕で私の体をおさえたまま、男爵はあいている手を自分の頭にやり、髪をつかむと、一気にはぎとった。
カツラなの!
さらに顎の下からマスクをはがすように顔の皮を上にめくりあげる。
ほ、本物の顔じゃない。
この人、変装してたわけ。

「ひさしぶりだ。我が妹よ。家族がむかえにきた。
我が忌まわしき妹、セリーヌ。
セリーヌ・ゲイン」


銀髪、死仮面を連想させる青白い顔、血の色の瞳、耳障りな声。
いま、私の横にいるのは。

「あんたは、犯罪王」

「よろしい。
たしかに、お兄さま、はないな。
キ○ガイ。愚兄。人殺しとでも好きに呼ぶがいい」

彼は布きれを私の顔にあてた。
薬物を染み込ませていたらしく、強い刺激臭で世界がぐるぐる。
意識が薄れる。

「いやだ、るでぃ、にとろ」