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ぶーとれぐ 真実の館

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ぶーとれぐ 真実の館

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シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)



わざわざくる必要もなかった気がするのですが、ちょうど事件も解決したばかりですし、次の依頼にとりかかるまでの時間つぶしに、3日間、ここに滞在するのも悪くはないでしょう。
事件の真相はすでにみえてしまっていますが、記憶を失った探偵助手とシェリルがどんな冒険をするのか楽しみですね。

豪華なシャンデリアが吊るされた大広間の隅の安楽椅子に腰かけ、背中をもたれかけて、少女は、自分の他に誰もいない空間を眺めていた。
絨毯、ソファー、大理石のテーブル、高価な家具ばかりがおかれた広い室内は、人がいないとまるでアートか、箱庭のようだ。

ここに最初に入ってくるのが誰なのか、推理でもしてみましょうか。
しかし、これでは、推理ではなく直観力のテストですね。

自分の考えに1人でほそく笑み、少女はポケットからだしたパイプをくわえる。
見た目は普通の木製のパイプだが、実際は煙草ではなくハッカパイプだ。
少女、マジェスティックにも事務所をかまえる多忙な私立探偵であるシャーロット・モリアーティは、真実の館での3日間の終幕の場面を夢想した。

ここで、あきらかにされる秘密は。
おそらく。
それを知ってしまったら、もう、元には戻れないかもしれませんね。

足音が聞こえた気がして、目線をそちらにむけた。
螺旋階段を降りてきたのは、この館の持ち主であるアンベール男爵と、深紅のイブニングドレスを着た長身の見覚えのない人物、腰まで髪のある20代くらいの女性らしい。

男爵の新しいお相手ですか。

2人が前にくるとシャーロットは椅子から立って、頭をさげた。

「お招きあずかりまして光栄です。
シャーロット・モリアーティ、この3日間は探偵として行動させていただきます」

「こちらこそ、来ていただけて感謝いたします。
あなたとはお互いに自己紹介は必要ないでしょう。
他のゲストの方たちも続々といらっしゃっているようだが、時間が時間だし、みなさん、今夜はおとなしくされている方が多いようだ。
シャーロットさん、あなたはさっそく調査開始ですかな」

短く刈った黒髪に四角い顎、形をきれいに整えた鼻の下の髭、広い肩幅、厚い胸板、ひきしまった体、年齢不詳の紳士、アンベール男爵は、いつものように親しげにほほ笑みかけてくる。

「失礼ながら、私、今回は特に調査をする予定はございません。
必要ないかと思います」

「ほう。それは、なぜ」

「すでに犯人はわかっているからです」

これはウソでもハッタリでもありません。あなたには、それがわかっているはずです。アンベール男爵。
シャーロットがまっすぐに見つめても、アンベールは微笑を崩さない。

「今夜は、よくその言葉を聞くな。
さっきも魅惑的なご婦人に同じ言葉を聞かされたばかりですよ。
が、私が知りたいのは事実ではなく、真実です。
彼女がご存じなのは事実であって、私が望むものではありませんでした。
せっかく情報をいただけたことには感謝して、3日間が終わったあとの打ち上げでは彼女の店にまたお世話になるのを決めましたがね。
とにかくここはコート(法廷)ではありません。
正直、私は犯人が誰で、罪人がどんな罰を受けようと興味はないのですよ。
たとえ、調査はしなくても、あなたが真実をみつけられたら。いつでもルドルフ神父に教えてあげてくださいますか」

真実ですか。
それもまた人に聞かずとも、男爵自身が胸に手をあてて考えられた方がいい問題なのかもしれませんね。

シャーロットが笑みを返すと、男爵の横にいる人物は少しだけ口元をゆるめた。

「こちらの方は、どなたです」

「ああ。紹介が遅れてすまない。
こちらのご婦人は、ここでの3日間の私のお相手だよ」

「よろしければ、お名前を教えていただけますか」

「彼女は、ミス、うーん、ミスGでいいだろう。
秘密の多いご婦人なんだ。
私に会いに自分からこの館にきてくれた。
これ以上は、彼女についてはノーコメントにさせてくれ」

シャーロットは、G本人に聞いたつもりだったが、答えたのは男爵だった。
Gは男爵によりそったまま、一言もしゃべらない。

なるほど。わけありのミスGですか。
メイクの上手な、おきれいな方ですね。

「わかりました。しかし、3日間限定とは、今回もまた男爵はご結婚される気はないようですね」

「ハハハッ。まぁな」

シャーロットの言葉を長年、恋多き男として浮名を流してきた男爵へからかいと受け取ったのか、男爵は豪快に笑うと、Gと揃って広間を去っていった。
シャーロットは、また椅子に腰かけてパイプを口にする。

もし、男爵が一緒になりたいと願ったとしても、Gとではムリでしょうね。
彼女は、実在しない人物なのですから。