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リアクション
★プールとアワビとプロレスと健康とストーカー★
「……とりあえずアワビ焼いておくか。あ、飲料もこのままじゃまずいよな」
慣れた様子でアワビを焼く準備をしていたセリスは、ハッとした様子で飲料の入ったクーラーボックスを見た。しばらくは大丈夫だろうが、マネキの言動を考えると長時間ここにいなければならない。
さて、どうするか。
「あ、いたいたセリス! クーラーの使用許可もらってきましたよ」
どこかへと行っていたメビウスが戻ってきた。後ろには小さな冷蔵庫と、それを運ぶプールのスタッフがいる。
「いや〜助かります。店を出してくれてた人がいなくなって」
「すみません、そこだと冷蔵庫置けないので場所少し移動してもらって良いですか」
てきぱきと作業が進み、いつでもアワビを焼いて販売できる状態になった。セリスはスタッフたちに礼を言ってから、アワビを焼き始める。
(もうすっかり慣れたな……喜ぶべきかは悩むが)
「どんどん焼いてくださいねー。外は暑くなってましたし、師匠にはとっておきの秘策があるみたいですから」
「……秘策、か(今度は一体何を企んでいるのやら)」
自信満々なメビウスだが、セリスからしてみればそこが一番不安だったりする。
「あ、すみませーん。コーラとアワビ1つくださーい」
「はーい。ありがとうございます」
しかしすぐやってきたお客第壱号の注文を受けて、焼きたてのホタテを器に載せて渡す。メビウスがビールを取り出し、代金を受け取る。
プールを見渡せば、先程よりも明らかに客の人数が増えていて、焼く個数を増やすべきかとセリスは自然と新たなホタテを手にする。
「やっぱ暑くなったらプールだよな」
「うーん、たくさん泳ぐぞ」
「へぇ。外のプールってこうなってるんだな。家のとは大分違うな」
「おや、随分と大きな滑り台ですね」
「イキモさん。あれはスライダーって言うんですよ」
などという会話になんとなく耳を澄ませ、そういえば先ほどメビウスも暑くなってきた、と言っていた事を思い出したセリスの動きが止まる。
(はっ、まさか!)
マネキの企みに気づいてハッとするセリスに対し、メビウスは気づいているのかいないのか。客の呼び込みをして、セリスに作業の手を動かすように指示を出す。
(いや知らない。俺は何も知らない)
(ふふ。良く分からないですけど、この機会に大儲け、です!)
ちなみに後日、気温上昇原因がアンテナと判明し、アンテナは撤去……されなかった。電波効率がよくなるのが事実だったため、気温を上げる装置の機能だけ外して使用することになったのだ。
効率がよくなったため、気温上昇については今回は不問になったようだ。それでも数日間拘束されたマネキだが。
「ふふふ。我をこれぐらいで貶めようとは、ハーリーも甘い」
あまり反省はしてなさそうだ。
* * *
「プール楽しかったな。アワビも美味かったし」
「そうっすねー」
プールから満足して出てきた一行がぶらぶらと歩いていると、1人の男性社員が大声を上げた。
「ろ、ろざりぃぬだって!」
誰もがは? と振り返ると、1つの店前に飾られた花輪に書かれた名前のことらしい。魔法少女ろざりぃぬ。
「知り合いなのか?」
「え? 何言ってるんすか、社長! プロレスラーのろざりぃぬですよ!」
「れすらー?」
「……まさかここでこの名前を見ることができるなんて、しかもプロレスショップとか……寄っていいっすか? いいっすよね?」
「あ、ああ」
勢いに負けたジヴォートが頷くと、社員は「ひゃっほー」と叫びながら店内へと入っていった。看板には『ラストライド』とあるが、ジヴォートには何のお店かよく分からなかった。
とにかく中へ入るか、と足を踏み入れる。
「Welcome to Agartha is Last Ride!(アガルタisラストライドへようこそ)」
そう涼やかな声で歓迎される。団体で来たジヴォートたちを笑顔で出迎えるのは富永 佐那(とみなが・さな)だ。
「あなたが店長さんっすか? あの、ろざりぃぬさんとはどんな関係で? って、ああああ! 数量限定の伝説のフィギュアが、え、わぁっこれは」
「ふふふ。実は友人でして……どうぞゆっくり楽しんでいってください。他の方はカフェもありますから、よければこちらへ」
「ああ……その、悪い」
社員のあまりのはじけっぷりにジヴォートが謝罪するも、佐那は「いえいえ、喜んでもらえた様で何よりです」と笑った。
ラストライドへ花輪を送ったろざりぃぬ、とは九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)のリング名だ。
「喜んでくれるかな」
そう数日前に友人の開店祝いをかねて送ったローズは、自身の店(というより診療所)の改装に追われていた。とはいっても工事自体は終わっているので荷物の整理だけだが、診療所も通常運転しつつなので中々に忙しい。
改装した場所は診療所の本棚があった場所。その壁が取り払われ、あらたに広めのガーデンテラスが設置されていた。外観やそこに設置された木製のパラソル付きテーブルやチェアーは診療所に合わせたデザインとなっている。そのチェアーに座り、ローズはシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)と昼食を採っていた。
実はこのガーデンテラス。シンがプロデュースする軽食(薬草茶も)の店になるのだ。診療所とも繋がっているため待合室の役割もかねている。ガーデン部分には今は何もないが、食用に使える薬草を植える予定だ。
「ふぅっお昼休憩おわりっと……シン。後は何かある?」
「そうだな。もうすぐ食器類が届くはずだから、ローズはそっちを……っと。来たみたいだな」
ちょうどタイミングよくやってきた配達業者から荷物を受け取り、また作業が始まる。シンはローズの手伝いではなく、ガーデンスペースへと向かい、ハーブを植えていく。
椅子やテーブルについてもそうだが、配置にはかなりこだわっているらしく、時折手を止めて考え込んでいた。
「赤い花が咲くからこれはここで……いや、こっちの方がいいか」
アトリエ【ベルエキップ】の店主は、かなりお洒落さんらしい。彩にまでこだわっている。
「そういえば、ベルエキップってどういう意味?」
「さあな」
ローズの問いにそっけなく答えたシンだが、仲間。良き友の意味であり、その名を持つ店がローズのアトリエの隣に在る。
「食器の整理終わったよ。あとはすることある?」
「いや、あとは俺だけでも大丈夫だ」
「そう? じゃあ、ちょっと出かけてくるね」
「Welcome to……ローズさん! 来てくれたんですか?」
「うん。改装の方も一段落ついたから」
ラストライドへやってきたローズを、佐那が少し驚いて、しかし喜んで出迎えた。さっそくスパーリングを見せようかと思ったものの、額に浮かんでいる汗を見てまずはカフェの席へと案内した。
「どうぞ。カクテルのコークスクリューにヒントを得て作った『WMD〜KOパンチ〜』です」
「ありがとう……んむ。おいしい」
「よかった」
他にも白身魚に栄養食品を粗く砕いて衣にして揚げたフィッシュ&チップス『サイモン・システム(Simon System)』というメニューもある。コレを食べながらやってきたお客さんに観戦してもらおうと思っているのだ。
そして少し休憩した後、店の置くにあるリングへと案内する。そこでは少し前にやってきた一団もいて、そのうちの数名が感動の叫びを上げている。
「どうすっか社長!」
「おおおおおっすっげーかっこいいな!」
「でしょでしょ?」
そんな様子や、練習をしているレスラーたちを眺めて、ローズは「良いお店だね」と笑った。佐那も礼を言いながら笑い返し
「このお店を人々の記憶に残る様なお店にしてみせますよ――Never,ever!(絶対に、永遠に)」
* * *
その日の観光を終えて宿へと戻ったジヴォートたちは、今日回ったところの感想などを話しながら楽しく夕食をとっていた。
「19時10分。ジヴォートたちと同じ宿に入り夕食をとる……あれ。そういや土星くんってご飯は別に必要ないとか言ってたような……食事については要検証っと」
宿は酒場にもなっていて、そのうちの1つの席に座った笠置 生駒(かさぎ・いこま)が、なにやら必死にメモを取っていた。そこには
『9時15分、C地区で小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と接触。どうやら弐号改造のための素材運びを行う模様」
『11時50分。広場にて昼休憩。この時土星くんは何も口にせず』
『12時40分。広場にてジヴォートたちと遭遇。素材運びを中断し、ショッピングモールの案内を始める』
『13時05分。ショッピングモールにて、自分を模したお菓子を食べている様子を複雑な顔で眺めて、時折うがーっとどこかへ向かって叫ぶ』
・
・
・
などなど、今日一日の土星くんの行動が書かれていた。直接いじろうとして怒られたためか、後をつけてその行動を知ろうと考えた、のだろうか。
「それにしても、普段はどこで寝てるんだろう。……やっぱり土星くんは興味深いね」
明日もがんばって後を追いかけないと、とメイドさんによって運ばれてきた食事へと手を伸ばした。――ちなみに、土星くんの普段の寝床は移動式住居の土星くん専用スペース(制御するさいに入る場所)だ。
(そういえば、ここ酒場なのになんでメイドさんがいるんだろうか。……土星くんの趣味?)
そのときに土星くんが「ちゃうわい!」と唐突に誰かへツッコミをいれたとかいれなかったとか。
土星くんがツッコミを入れているさなか、席を立ったイキモの元へ、ルカルカとリネンが駆け寄って声をかける。
「今日はどうだったかしら」
それは普通の会話のようだった。
「ええ。とても順調で、楽しかったですよ」
「そっか。それは良かったね」
「私たちも喜んでもらえるよう、全力を尽くすから」
「楽しみにしててね」
「はい、お願いします」
たったそれだけの会話であったのだが、偶然通りがかったプレジは首をかしげた。少し違和感を覚えたのだ。
とはいえ主の父親と恩人たちを問い詰めるようなことは出来ない。さらに言うなら、彼らが良からぬことを考えるはずもなかったので、プレジはしばし様子を見ることにした。
(イキモさまたちは一体何を……?)
予測を立てつつ、プレジは明日の予定を組むためにガイドのフェイミィへと声をかけるのだった。
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