空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

悲劇の歴『磔天女』

リアクション公開中!

悲劇の歴『磔天女』

リアクション


「……わあ。明倫館がお化け屋敷みたいになってるね、やっしー。夏のお祭りだったら大歓迎なんだけどってそんな冗談言っている場合じゃないね」
「せっかくやしお化け屋敷デートでもしよか? ……な〜んてな。そんな洒落が通じる状況やないみたいやねぇ〜」
「そうですね。まだ中に残っている学生がいるかもしれません。学内をしらみつぶしに探しましょう!」
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)日下部 社(くさかべ・やしろ)、そしてサイアス・カドラティ(さいあす・かどらてぃ)は明倫館内を見回し、眉をハの字に下げた。サイアスのパートナーであるウィル・ラグイア(うぃる・らぐいあ)ルナ・シャリウス(るな・しゃりうす)も頷いた。
「こんな事態になった原因が何であれ、今は学生達の発見と救助が最優先であろうな」
「ええ。5人も入れば大丈夫でしょう。全員で、というよりは、二手に分かれて捜索を行った方がよさそうです」
「せやな。ほな、俺はオリバーと校舎の右側を当たってみるわ。左側はサイアス、ウィル、ルナ。任せてもええか?」
「はい。全力を尽くしてみせます」
「無事な学生を見つけたら、どうする? 我は学生の安全確保の為にも、発見した現場に留まり続けるのは好ましくないと考えるが」
「そうだね。何か事件解決の手がかりを持ってる人がいるかもしれないと思う。ひとまず護衛しながらここに来てもらうのはどうかな?」
「成程、五月葉さんの意見に僕も賛成です。僕達自身の安否も分かりますし」
「分かったわ。じゃあ、無事な学生を見つけたら、ここに誘導する。これで良いわね?」
「決まりやな。ほな、行こか。気ィ付けて頑張ろうな。アス、ウル、ルーナ! 行くでオリバー!」
「うん、やっしー!」
 社と終夏が勢い良く駆け出して行く。その後ろ姿を見送りながら、サイアスははにかんだ。
「……アスって、もしかして僕のあだ名?」
「サイアス、ちょっと嬉しそうね?」
「いや分からぬ。どう発言したら良いのか戸惑っている可能性もある」
結局、「こうしてはいられない。僕達も行きますよ、ルナ、ウィル」とサイアスが走り出したので、ルナとウィルは互いに顔を見合わせてからクスッと微笑むと、サイアスの後に続いた。



4 
 明倫館の出入り口付近。度会 鈴鹿(わたらい・すずか)一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)は不安そうに瞳を瞬かせている。
「……ダメ。出ない」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が落胆し、不在を告げる機械音の鳴る携帯を見つめた。傍にはルカルカのパートナーであるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、顎に指をあてて考え込んでいる。以前ルカルカは『夏雫』を観覧したことがある。それを見て感銘したルカルカは、主催者である華摘に会いたいと思い、ダリルを伴って葦原明倫館を訪れていた。
「会場管理者には華摘の連絡先がイベントの実行に当たって伝えられてる。会場使用の申込書に連絡先電話を書くのはデフォじゃん? いけると思ったんだけどなぁ」
「葦原のサーバーに会場管理についての記載があったが、これは直接探し回るしか手がないようだな。一応メモを取っておこう。華摘と直接連絡を取ることは不可能、と」
「あ、あの……!」
 鈴鹿が、おずおずと手を挙げた。
「悲哀さんと私は舞い人として舞台に上がった為、華摘さんと顔は合わせています」
「はい、鈴鹿さんの言う通りです。華摘さんは多忙だったので、中々お会いは出来ませんでしたが……」
「おー、ラッキー! 鈴鹿と悲哀の舞いは私も見たよ。鈴鹿はすっごいキレイだったし、悲哀は中性的な舞いと2人で舞うシーンが印象的だったなぁ」
「ルカ。話が逸れている」
 おっと、とルカルカが頭をコツン、と軽く叩いた。
「じゃ、人相から目撃譚を辿って探し出すわね。悪いけど華摘の人相、教えてくれる?」
「分かりました。私も手掛かりを求めながら探しますが、彼女も無事とは言い切れませんね。ひとまず、私は華摘さんがよく過ごしていた場所に心当たりがあります。そちらを重点的に探してみますね」
「私も、華摘さんを探しつつ、文献を調べてみたいと思います。確かあの時の物語では舞は怨霊を静める為に行われていたけれど、もしやあの舞が呪術的になにかの役割を果たしてしまったとしたら……。事実が分かれば、白塗り人間の方々とも繋がると思います」
「了解。途中で白塗り人間と出くわすかもしれないけど……。みんな、気をつけて」
互いに頷き合うと、ルカルカとダリルは校舎の右側、鈴鹿と悲哀は左側へ駈け出した。


 華摘を探しているのは、ルカルカ達だけではなかった。葦原明倫館へ、教導団大尉としての公務で出張に訪れていた水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)と、パートナーであるマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)も、事件解決の為に動いていた。
「そもそもの原因が、私達が舞い人として舞った『夏雫』に関係しているんじゃないかしら? となると手がかりとしては『夏雫』自体にあると見た方がいいかもしれないでしょう。それ以外に、葦原明倫館にこのような異常事態が発生する理由が思い浮かばない」
「カーリーはさすが鋭いね。あたしも事件解決を手伝うよ。でも、なるべく無理しないでね?」
「ええ。でもそうなると、華摘に話を聞いた方が手っ取り早いわね……」
 2人も『夏雫』で舞い人として出演した。ゆかりは女の優しさを、マリエッタは魔の想いを表現し、大変好評を得たと噂であった。舞いの稽古中に華摘と顔を合わせたことがあるので、彼女が無事であるなら見つけるのは容易い。
「……とはいえ、状況が余りにもひどい状態だから、もしかすると既に華摘は逃げているか、あるいは救助すべき学生たちの中にいるかもしれないわ。まずは救助に当たる人たちと連携して、無事に救出された学生たちから華摘の人相などを聞き込みたいわね」
「それなら、さっき日下部さん達が集まってたところに行ってみよっか? さっき見たんだ。確かこの近くだったと思うし」
「そうね。というかあなた、よく見てたわね」
「まーね! たまには役に立つでしょ?」
「そんなことないわ。あなたと一緒だと、私結構落ち着くのよ。たまには、なんて言い方止めなさい?」
「カーリー……」
 マリエッタはにっこりと笑うと、ゆかりの腕に抱きついた。ゆかりは少し驚いたが、もう片方の手でよしよしとマリエッタの頭を撫でると、気を引き締め直す。
「こんなに多くの白塗り人間を避けながら華摘を探しだすのは骨が折れるけど、無理なんて言ってられないわね。行きましょう」
「うん!」