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リアクション
第一章
「フェイミィがいない!? あのエロ鴉、まさか……!?」
パーティー当日の朝、わなわなとふるえる拳を必死に押さえながら、リネン・エルフト(りねん・えるふと)はすぐさま会場へと向かった。
「大丈夫よ。ちゃんとサポートするから! でも、ちょっと運命の人見つけちゃったから行ってくるね!」
「マナ……また運命の人、見つけちゃったのぉ?」
パーティー会場の中央に設置された椅子に遠山 陽菜都(とおやま・ひなつ)を座らせると、小谷 愛美(こたに・まなみ)は凄まじい勢いでどこかへ向かっていく。
しょっぱなから予想通りの動きをするパートナーに、マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)はため息を漏らした。
「しょうがないなぁ……あ、陽菜都、あのケーキおいしそうだねぇ。ちょっと取ってくるね!」
「えええええええええええええええええ」
そんなマリエルにも放置され、陽菜都は所在なさげにあたりをきょろきょろと見回した。
パーティーにはだんだん人が増えてきており、男性の姿も見受けられる。
また自分の拳が暴れてしまうのではないかと、気が気ではなかった。
「遠山陽菜都か?」
「はっ、はい!!」
突然声をかけられ慌てる陽菜都をよそに、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)はがしっと陽菜都の肩を掴んだ。
「巨乳で明るく男嫌い!? それを直すなんてとんでもないぞ!」
「へ?」
「いいか! その認識は非常に正しい! 男なんかにその素晴らしい乳を! 尻を! 渡す必要なんてないんだ!!」
「え、えっと……」
あまりの勢いにたじろぐ陽菜都だが、フェイミィは自分の話にうんうんと自分で頷きながら容赦なく話を進めていく。
「そうだよ! 同性同士で愛し合うことの何が悪いんだ! オレがその素晴らしさを教えてやる!!」
「すみません、話がよく分からな……きゃあああ!!」
迫ってくるフェイミィから距離を取ろうと後ずさっていた陽菜都に後ろから近付くと、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は両手で陽菜都の胸を押さえた。
「陽菜都ちゃんおっぱいが揺れまくっているぜ! このままじゃ、毛細血管がちぎれておっぱいが痛くなって、まともに学園生活を送るのも大変になっちゃうぜ!」
「やめてくださいーーーーっ!!!」
条件反射で繰り出される陽菜都の拳を避けながら、ゲブーはなおもその手を放そうとしない。
「おっぱいが揺れて痛くならないように俺様が手ブラでサポートするぜぇ! む、顔が赤くなっただと!? しかたがないなー俺様に惚れてしまったか!」
「そんなことありませんっ!!」
「「このモヒカンがあっ!!!」」
陽菜都が恥ずかしさで顔を真っ赤にして叫ぶのと、フェイミィと、駆けつけた桜月 舞香(さくらづき・まいか)が全力でゲブーを引きはがすのが、ほぼ同時。
「だから男なんてロクなもんじゃないんだ! だからこのオレが……!」
「エロ鴉ーーーーーーーーーーーーー!!!」
「んぎゃー!!」
鼻息荒く、押し倒さんばかりの勢いで陽菜都に迫っていたフェイミィが瞬間的に吹っ飛ぶ。
「え!?」
「うちのエロ鴉が迷惑かけたわね……はじめまして、OBのリネンよ。……まぁ一方的に知られてるかもだけど」
「と、遠山陽菜都、です……あの……今……あの人ふっとばし……あれ……?」
風のような勢いで飛び込みフェイミィを殴り飛ばしたリネンは、そんなことなかったかのように陽菜都に手を差し出した。
「あたしは百合園の桜月舞香よ。よろしくね。陽菜都」
一緒に手を差し伸べてくれた舞香にも支えられて、陽菜都は起き上がる。
「俺様と……子供で百万のモヒカン軍団を作る為……に……子作りを前提にお付き合いしてやるぜー……」
笑顔で話しかけるリネンと舞香の足元から途切れがちに聞こえてくる声に陽菜都が下を見ると、ゲブーがごく自然に二人に踏みつけられてピクピクしていた。
「え、えーと……」
「まぁ私から言えることってあまりないけど……変に意識しすぎるのもよくないかな。私もそうだったし。苦手って認めて、好きな人ができちゃったら……けっこう話せるようになっちゃった」
「でも、こーゆーのがいるから困るのよね」
戸惑う陽菜都をよそに、リネンと舞香はごく普通に、何も起きていないかのようにゲブーを踏みながら話を続ける。
「あたしも男嫌いだからなんか親近感が湧くわね。 陽菜都、貴女が無理に性格を直す必要なんて無いわ。どうせ男どもなんて下心むき出して近寄ってくる奴ばっかりなんだから、 遠慮なく叩きのめしてやればいいのよ」
「ま、シャンバラにおいて真に危険なのはむしろ同性だとも思うけどね。コレとかね」
体制を立て直し陽菜都に飛びつこうとしていたフェイミィの首根っこを掴みながらリネンが苦笑いを浮かべる。
「リ、リネン……」
「もう1発ぶち込めば分かるかしら?」
逃げようとバタバタするフェイミィを笑顔で押さえつけながらリネンは片手で陽菜都に紙を渡した。
「力が必要な時は声かけてちょうだい。荒事なら頼りになれると思うわ」
「あ、ありがとうございます」
空賊団の連絡先が書かれた紙を、陽菜都は大事にポケットにしまう。
「じゃあ、ちょっとこのエロ鴉シメてくるから。モヒカンは任せていいかしら?」
「もちろんよ」
「じゃ、またね」
舞香の返答に頷くと、リネンは陽菜都に手を振り、暴れるフェイミィを引きずって会場の外へと颯爽と出て行った。
「さて、と。いい? 陽菜都。これからこの危険なパラミタで生活すれば、女と見れば甘く見て襲い掛かってくるような敵と何度も戦う事になるわ。 貴女のその鉄拳は立派な武器になるわよ。その見事な胸で敵を惑わせて叩きのめす! その技はむしろもっと磨きをかけるべきだわ。男を殴る時の人体の急所についてレクチャーしてあげるわね」
「俺様は、決してそんな下衆なことは考えてないぜ。ただその揺れるおっぱいを守るために」
「たとえば、ここよ」
「んぎゃーーーー!! おっぱいがーーーーー!」
ふたたびわきわきと手を動かしながら陽菜都に近づこうとしたゲブーの鳩尾に舞香がハイヒールのつま先で蹴りをぶち込んだ。
「陽菜都、あなた入る学校間違えてるわ。 百合園にいらっしゃい。いつでも歓迎するわよ」
笑顔でそう告げると、舞香もまた、ゲブーを引きずりながら会場の外へと去っていった。
「えーと……」
「あの義務感、胸以外のところで使えばいいのにな」
少し離れたところからかけられた声に、陽菜都が振り向く。
「さすがにこの距離だと話しづらいな」
「わー! ごめんなさいごめんなさい!!」
正面から歩いてくるエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)に陽菜都は謝罪しながら拳を繰り出す。
「あー、そのままでいいから聞いてくれ。俺はエヴァルトってもんだ。貴方の先輩ってことになる」
綺麗に拳を受け流しながら、エヴァルトは何でもないように話を続ける。
「なんというか、無理に男性恐怖症を治そうとしなくてもいいと、俺は思う。いや、いつかは治さねばならんが、急ぎすぎることはない。女性なんだ、男性への警戒心を無くすのは避けた方がいい」
「は、はいっ!」
「男の俺がどうこう言うのもなんだが。とりあえず、怖いからと殴るのであれば、それだけは早急に治すことだ」
そこまで言うとバックステップで一気に距離を取る。
「だが……一般生徒とはいえフルボッコにするだけある、見事に力の乗ったパンチだった。いいセンスだ」
「あ、ありがとうございますっ」
思わぬ一言に陽菜都はぺこりと頭を下げた。
「可愛いお嬢さん、お近づきのしるしにどうぞ」
「わー! わー!!!」
ミニ向日葵などで可愛くまとめられた小さなブーケを持ちながら笑顔で近づいてくるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に、陽菜都がわたわたと慌てる。
「気にしなくていいよ。あ、俺はエース・ラグランツ。君は?」
「わ、え、遠山陽菜都です」
「ありがとう。これでもう友達。だよね」
陽菜都の拳を優雅に躱しながら、エースが笑顔で語りかける。
「うーん。ブーケだと少し邪魔になってしまうかもしれないね」
そう呟くと、拳を避けながらパパッとブーケをバラし、コサージュのようにアレンジする。
「え、凄い!!」
「そうかな? 意外と簡単なんだよ、こういうアレンジって」
思わず声を漏らした陽菜都との距離を一瞬で詰めると、胸元にコサージュを付けてすぐに距離を取った。
「ほら、とっても可愛い。ガーベラと薔薇をアクセントで入れてみたんだけど、正解だったな。ところで、今俺はかなり君に近づいたわけだけど、恐怖心とか嫌悪感はあった?」
「い、いえ。全然っ」
「うーん……恐怖症というよりは突発性男性攻撃症とでも名付ける方が正しいんじゃないか……という気がするな。ま、主役の君をあんまり独り占めするわけにもいかないし、また今度是非ゆっくり話でもできたらいいね」
「はいっ」
付けてもらったコサージュを見ながら、陽菜都は頷いた。
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