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リアクション
「ふむ、今年も濃ゆい新入生が来たみたいだな。ちょいと注意してかかろうか」
パーティ用の食器類の追加注文を受けた雑貨「いさり火」の店主ハイコド・ジーバルス（はいこど・じーばるす）は、入り口で倒れている男子生徒たちを見て、ソラン・ジーバルス（そらん・じーばるす）と顔を見合わせた。
「たしかに、ね。あ、ハコ、先に納品しておくから新入生見てきなよ。卒業生としてハメを外しすぎる子は注意してあげてね。あと、シンクとコハクの面倒よろしくね？」
「ああ、じゃ、納品頼むな」
「はーい」
商品を持って裏に回るソランを見送ると、ハイコドは会場へと足を踏み入れる。
すぐに中央付近で大立ち回りを繰り広げる陽菜都の姿が見えた。
「ふぅむ、この子……少なくとも奥義は身につけられるだろ……」
その動きを見ると思わず感嘆の声が漏れた。
二人の子供たちが眠っていることを確認すると、陽菜都に声をかけてみる。
「君、ちゃんと武術やればいいんじゃないか？ 筋良いよ」
「え、わーーー！ ごめんなさいっ！！」
陽菜都は褒めてもらっているのに相変わらず攻撃してしまう。
「ちょっとごめんよ」
ハイコドは片腕で拳を逸らし、逆拳に備えると、陽菜都の手を押さえ込んだ。そのまま身体を使った触手で押さえ込もうとする。
「もう駄目じゃない、新入生にそんなコトしちゃ！ 触手出すんじゃないの！」
が、後ろから響いたソランの声に、咄嗟に距離を取る。
「ごめんなさいね、ハコ……夫が変な事しちゃって。大丈夫？ 痕とか残ってない？ 悪い人じゃ無いから許してあげてね？」
「だ、大丈夫です。私のほうこそ殴り掛かっちゃって……」
押さえられた痕が残っていないか腕などを次々に触りながら確認するソランの目は完全に陽菜都の胸に集中していた。
よだれをたらさんばかりのその姿を見て、やれやれとハイコドはため息を漏らす。
「陽菜都ちゃんだっけ？ 気をつけてね、俺の嫁さん両性愛者だから君みたいな可愛い子、標的になるよ。エロい意味で」
「ええええええええええっ」
「ソラ！」
ハイコドはソランの肩を掴むと陽菜都からひっぺがした。
「あ、ゴメンナサイッ！ ハコサン？ ジョウダンデスッテ、クドイタリシナイカラソノコブシオサメテクダサイ」
「思いっきり口説きかけてただろ」
「そ、そんなこともなくもないんだけど、だって……だって、胸おっきぃんだもん！！」
「どんな開き直りだよ！ ほら、シンクとコハク頼むぞ」
「はーい」
叱られたソランは、大人しく、眠っている子供たちのところへと行くと抱きかかえた。
「騒がせて悪かったね。色んな意味で。本当に筋は良いと思うから興味があったらやってみると良いんじゃないかな」
ハイコドは簡単にいくつか型を見せると、ジーバルス一家は会場を後にした。
「人数が多いとさすがに料理の減りも早いな」
陽菜都の男性恐怖症克服に協力したいというヨルディア・スカーレット（よるでぃあ・すかーれっと）の手伝いのためパーティーに参加した十文字 宵一（じゅうもんじ・よいいち）は料理を一手に引き受けていた。
「何か企んでいる気もするが……まあ大丈夫だろう」
「大丈夫だよぉ。すっごくおいしいもん！！」
「……ケーキの話か」
いつの間にか調理場に張り付いていたマリエルが、味見と称して出来上がったばかりのプチケーキをほおばりながら言った。
「会場の料理はまだ間に合ってるのか？」
配膳を買ってでたマリエルが、料理を順次会場に運び込む役割を担当したため、宵一は会場の様子がほとんど把握できずにいた。
「うん。でもまだまだ食べられるよ」
「……君の話か」
飛び跳ねそうな勢いで主張するマリエルに宵一は苦笑いをもらす。
「もう少し作ったら俺もいったん会場に戻るか。ヨルディアも気になるが、男性諸君の誰かが羽目を外しすぎて暴れてしまうかもしれないしな」
可能な限り影から参加している女性たちを守らねばと、宵一は手早くデザートの仕上げに入った。
「陽菜都さん、ちょっと時間もらえるかしら？」
「あ、はい」
短時間であまりにも事件が起こりすぎて、ふにゃっと座り込んでいた陽菜都の前に、アリス・バックフィート（ありす・ばっくふぃーと）が座った。
「パーティーはどう？」
「楽しいんですけど……やっぱり皆さんにご迷惑をかけてしまって……」
「正直、少し何かやっただけで治るものでもないと思うの。でも、少しでも効率よく治せたほうが良いと思うから。少し話を聞かせてもらえる？」
「もちろん！」
アリスの言葉に陽菜都は嬉しそうに頷いた。
「では、ドクターお願いします」
「ドクター・ハーサンだ。アリスを通していくつか確認したいことがある。鉄拳を躱しながらは効率が悪いであろう？」
「お手数かけます……」
アリスの首輪に内蔵されたマイクから、ドクター・ハーサン（どくたー・はーさん）がいくつか質問を投げかける。
陽菜都の応えを一通り分析すると、ハーサンは即座に判断を下した。
「荒療治ですぐに治る類ではないな。陽菜都が思っている以上に根深いものがあるようだ」
「そう……ですか」
「今回の集まりはかなり荒療治に近い。無理はしないほうが良いであろうな。こういった症状は、焦らないほうが結果的に効率が良いものなのだよ」
ハーサンの言葉に陽菜都は頷く。
「今回は、楽しむことを優先すれば良いと思うぞ。さて、アリス」
「はい。ドクター。陽菜都さん、では私はこれで失礼しますね」
ハーサンから撤収の指示を受けたアリスは、陽菜都に一礼するとハーサンの元へと戻っていった。
