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遺跡と魔女と守り手と

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遺跡と魔女と守り手と

リアクション


プロローグ

「それじゃ、ここでお別れだね」
 ニルミナスの村その東部に位置する入り口で熾月 瑛菜(しづき・えいな)アテナ・リネア(あてな・りねあ)にそう声をかける。
「うん。瑛菜おねーちゃん気をつけてね」
 ここから瑛菜は北東に進み鍾乳洞へ。アテナはそのまま東に進み森に向かうことになっていた。
「前村長。アテナのこと頼んだよ」
「こちらは瑛菜さんの方と違って危険はありませんよ」
 瑛菜の言葉にニルミナスの前村長はそう答える。前村長はアテナとともに森へと行くことになっていた。
「私の方こそ娘のことを頼みます」
 ミナホ・リリィ(みなほ・りりぃ)。誘拐されたニルミナスの村長を助けるのが瑛菜の役目だ。
「ま、あんたに頼まれるまでもないよ」
 大なり小なりこういった依頼を受けることは瑛菜にとって少なくない。いつも通りとも言える。
「……瑛菜おねーちゃん。もしもミナホちゃんが――」
「――その時はその時だよ。結局やることはそんな変わらない」
「……え?」
 アテナが何かを言おうとする前に瑛菜はアテナの質問に答える。
「あたしがアテナの悩みにいつまでも気づいてないはずないだろ?」
 アテナが何を知りその悩みに至ったのか瑛菜は知らない。だが、村で集めた情報にアテナの様子を合わせて大体のことを察していた。
「てわけだから、こっちのことは何も心配しなくていい。あのこ連れて帰ってくるからそこでいろいろ話すんだね」
 そう言って瑛菜はアテナに背を向けて歩いていく。
「……パートナーの言うのはいいものですね」
 どこか憧憬を感じさせる声で前村長はアテナにそう言う。
「……うん」
 胸の中でもやもやしていたものが大きく晴れるのを感じながらアテナは頷いた。



「……で、来たわけだけど」
 鍾乳洞。その奥。アルディリスと呼ばれる遺跡都市の封印の前で瑛菜はそう呟く。
「どうやってこの封印解くんだよ」
 遺跡都市へと続く道は封印で閉ざされている。
『くすくす……その封印を開ける方法は知られているはずだけれど』
 カツンと小さく音を立てて粛正の魔女ミナと呼ばれる存在が瑛菜の後に現れる。
「……あんたが粛正の魔女?」
 フードを深く被ったそれに瑛菜はそう聞く。
『嬉しい嬉しいわ。ゲームの招待にこれだけ来てくれるなんて』
 その場には瑛菜以外の契約者の姿もあった。
「……質問は無視かよ」
 話が通用しなさそうだと瑛菜は溜息をつく。
『くすくす……ごめんなさい。答えるまでもない質問だったから』
「……やっぱ性格悪いなこの魔女」
 想像通りだと瑛菜。
(……話が全く通じない狂人じゃない。嘘にまみれた悪人でもない)
 あえていうなら……。
「……壊れてる」
『さて、この封印だったかしら。開ける術はあなたたちも知っているはずだから任せてもいいのだけれど』
 瑛菜のつぶやきを拾うことなくミナは続ける。
『今回は私の招待。私が開けましょう」
 そう言ってミナは遺跡へと続く道をふさぐ壁に手を当てる。そうしてすぐにその壁がなくなった。
『ただ、知っての通り、この先は死の病……あなた達は遺跡病と呼んでいるのかしら? それが蔓延しているわ』
 その対処までは面倒見ないとミナは言外に言う。
「あんたに心配されなくても予防薬があるから大丈夫だよ。人数考えるともう一度日が登る前までは遺跡内にいれる」
『くすくす……それまでに私を三度捕まえてちょうだいね」
 そう言ってミナは一歩遺跡へと踏み込み契約者たちへと振り返る。

『それじゃあ、楽しい鬼ごっこを始めましょうか』


「それで、アテナは何をしたら『森の守り手の試験』に合格できるの?」
 森についたアテナは前村長にそう聞く。
「……何をすればいいというのもあれな質問ですが……とりあえずゴブリンやコボルトたちと交流してください」
 それが契約者の試験だと前村長は言う。
「んーそれだけでいいの?」
「まぁ、契約者であればさすがに一ゴブリンより弱いなんてことはそうそうないですからね」
 いかにこの森に住むゴブリンやコボルト達が異常な耐久力を持った存在であっても、ある程度経験を積んだ契約者に一対一で勝てるような存在ではない。
「……いまいち何を認められればいいのかとじゃアテナ分からないんだけど」
「強さも認められなければならない人達もいるってだけの話です」
 契約者であればそれは確かめるまでもないと。
「ん、よく分かんないけどやらないといけないことは分かった。ゴブリンやコボルトと仲良くすればいいんだね」
 とりあえずそう理解するアテナ。

「それでは、森の守り手の試験を始めましょうか」


 そうして時を同じくして村の今後を左右する大事が始まった。