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【大罪転入生】物語の始まり

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【大罪転入生】物語の始まり

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二章


「良くここまで辿りつたな! だが、ここまでや! あんたらなんか一瞬で終わりなんよ!」
 ぺロ子達の前方、蛮族達が突き立てたらしい巨大な丸太の上で声を張り上げているのは憤怒の化身サタ子。周囲には今にも襲いかかろうとしている形相をしている蛮族達が待機している。
「…………」
「……ブリュンヒルデ。大丈夫かい?」
 モモンガの状態でベル子の肩に乗っかっているぺロ子。だが、力なくへばっている様子を見て心配した涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が声をかけた。
「…………」
 だが、視線を少し動かしはしたものの、反応はなし。
「まぁ、大した事ないから心配しなくても少しすれば元に戻るにゃぁ」
「大した事ありますわ!」
 ベル子が言うや否やすぐさま反応を見せたぺロ子。
「ひ、人の大事な初めてを……!」
「初めて……? あぁ、キスの事かな?」
「っ!?」
 涼介の言葉にビクッとあからさまに警戒を始めるぺロ子。
「えぇと……何かあった?」
「それはもう情熱的で熱い百合的展開があったにゃぁ」
「思い出させないでくれやがりますか!?」
「まぁまぁ落ち着いてモモにゃん♪」
「落ち着けるなんかありません……って誰ですの……?」
 ブルーのウィッグにグリーンのカラーコンタクトでポップアップイラストの出立ちで登場したのは富永 佐那(とみなが・さな)。コスプレをしていてパッと見ではぺロ子には誰か分からなかったらしい。
「海音☆シャナです♪」
「え……? って、別に誰でも良いですわ。それよりモモにゃんってなんですか!? 私はブリュンヒルデ・アイブリンガーって名前があるですわ!」
「まぁまぁ♪ しかし、モモにゃんはカワイイのです〜♪」
「……はいにゃ」
 何かを察してベル子がぺロ子を差し出した。
「ちょっと! 何をしやがりますか!?」
「この流れは抱かせてあげるべきかなぁと思ってにゃぁ」
「ありがと! う〜ん♪ 良い抱き心地ですね♪」
 つかさずぺロ子を受け取りギュッと抱きしめ、頬擦りする佐那。
「……可愛いです」
 そして、隣で羨ましそうに見ていたソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)が佐那とは逆側からぺロ子を抱きしめる。
「ちょ……ちょっと、苦しいですわ……!」
「ははっ、大人気だね」
「そんなこと言ってないでさっさと助けるのですわ!」
「モモンガ……名前は桃太郎とかどうでしょうか?」
「桃太郎じゃねぇです! ブリュンヒルデ・アイブリンガーというちゃんとした名前があるのですわ!」
 ソフィアが目を輝かせて出した名前を即座に否定するぺロ子。
「ちょっと、あんたら! うちをスルーするのやめるんよ!!」
 ちょっとスルーされてイライラするのか地団駄を踏むサタ子。
「ほら、みなさん。彼女も怒っていらっしゃるのでその辺にしては……?」
 騒いでいるみんなを止めようとしているのはエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)
「…………」
 そんな中、ベル子の後ろで静観しながらも周囲に気を配り護衛をしている大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)
「(……モモンガ状態のぺロ子か……あれはあれで触ったらもふもふのふかふかで気持ちいいのだろうな。だが、本来のぺロ子……ブリュンヒルデの姿を是非とも拝んでみたい! それにはチュ〜をしなければいけないのか……。しかしモモンガ状態で、チュ〜をするのはつまらない。出来れば人間の状態。いや、それよりもベル子にチュ〜したい! あの、メイドで眠そうなところとかたまらない……!)」
 表情を表に出さず真面目に護衛しているように見えるのだが、頭の中はピンク色に染まっていた。
「ベル子ちゃん。こっちに目線くれるかのう?」
「……こうかにゃぁ?」
 そして、騒ぎに混ざらず少し距離を置いているベル子をデジカメで撮影しているのは大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)
 とにかく敵がいるのにフリーダムだった。
「あーもう! みんな、いてこましてやるんよ!!」
『おー!!』
 流石にキレたのか。サタ子が問答無用で蛮族をけしかけ始めた。
「むっ……! 敵が動いた!」
 それを一番に察知したのは剛太郎。頭の中はピンク色になっていても敵の動きはしっかりと察知していたようで小銃で向かい来る蛮族達に射撃攻撃を始める。
「ほら、みなさん。敵が動きはじめましたよ!」
「そうだね。遊んでいる場合じゃなさそうだ」
「この心地よい肌触り……ずっと触っていたくなりますね♪」
「遊んでる場合ではないって言われたばかりでしょう!? さっさと――」
「ん〜♪ ちゅっ♪」
 怒鳴りつけようとしたぺロ子の唇に佐那がキスをした。呪いが一時的に解除され、元の姿へと戻ったブリュンヒルデ。
「な、ななな!? 何をするんですかぁぁぁーー!!」
 真っ赤な顔で叫ぶブリュンヒルデ。
「……あれだけちゅーされたのにまだ、慣れないのかにゃぁ?」
「ちゅーなんて慣れるわけねぇですわ!!」
「さて、可愛い娘成分充電完了なのですっ! さぁ、ヒルダさん、行ってください!」
 佐那が聖獣:麒麟を召喚。素早くブリュンヒルデをその麒麟へと乗せる。
「えっ? いやちょっとま――」
「ゴーですっ☆」
 佐那の合図と共に突然すぎて話についていけてないブリュンヒルデを乗せて聖獣:麒麟は神風の如く走り出した!
「ヒルダさーん! これだけは忘れないでくださいね☆ ヒルダさんのソレは妄想の中でこそ、最大限に生きるものなのです♪ その痛さを一番の強さに換えましょう!」
「どういうことですのぉーーーー!!??」
 ブリュンヒルデの叫びも虚しく麒麟はどんどん遠ざかる。
「……あぁ。見てて痛々しい妄想とかそういうものの事かにゃぁ」
「さぁ、涼にゃん☆ 協力して蛮族を止めましょう〜☆」
「もちろんだ。だが、それよりもブリュンヒルデを一人で行かせて大丈夫なのかい?」
「それなら剛太郎さんと藤右衛門さんが追いかけて行ったので大丈夫だと思います」
「そうか。なら、私たちはその道を切り開くとしよう」
 涼介がリュートを手にする。
「まずは私の出番ですねっ♪」
「うおっ! あぶねっ!」
 佐那が加減しつつグラウンドストライク、ヘルスパークを用いて、威嚇。蛮族達を左右に押しのける。出来た一本道を麒麟、そして少し後ろを剛太郎と藤右衛門が駆ける!
「――憤怒よ去れ、心に喜びあらんことを」
 その間に禁じられた言葉と神降ろしで自身を強化。リュートで音を奏で幸せの歌をカーニバル・オブ・チャンピオンを用いて威風堂々と歌い始める。
「……あれ? 俺は一体何に怒っていたんだ……?」
 その威厳ある歌に次々と蛮族達がバーサク状態から元に戻っていく。
「……桃太郎は無事に着いたみたいです」
 ソフィアがレビテートでブリュンヒルデ達の動きを確認し、降りてくる。
「うん。それは良かった。これで一安心……かな?」
「そんなわけ行くかぁ!!」
 涼介の歌で大半の蛮族が無力化出来たが、少数の深い怒りを持つ蛮族達までは無力化出来なかったらしい。
「イライライライライライラ!!」
「ふーっ! ふーっ!」
 あまりにも怒りのレベルが高いのか獣染みた蛮族までいる。
「……皆さまは、何を激しておられるのですか?」
 それの様子を見ていたエレナが一歩前に出て、蛮族達に話しかける。
「その怒りは、心からのものでは無く与えられたもののはずです。どうか鎮められて――」
「うがぁっ!!」
「きゃっ!」
 話を聞いてしびれを切らしたのか、蛮族の一人が丸太を投擲。エレナの横を通り過ぎる。驚いたエレナが尻餅をつく。
「危ないっ!」
 そのまま飛んできた丸太をソフィアがフォースフィールドを展開。発生したバリアに弾かれた丸太はそのまま勢いをなくし地面に転がる。
「…………」
「エレナさん、大丈夫か!?」
 涼介の言葉をスルーして無言のまま立ち上がったエレナ。
「あれは相当怒ってますね……」
「そうなのか?」
「今に見てれば……」
「……少し、頭を冷やしませんこと?」
 エレナはにこやかな笑顔を蛮族達に向け、その言葉と共に召喚獣:リヴァイアサンを召喚。
「皆さま、怒りのあまり頭から湯気が出ていらっしゃいますし、これで冷えて頂ければ幸いですわ♪」
「ぎゃぁぁ!! なんで俺たちまでぇーー!?」
「俺達何もしてねぇぇよぉぉーー!」
 リヴァイアサンが大量の水を作り出し、蛮族達を押し流す。
「今日は特別に奮発して差し上げますわね♪」
 追撃とばかりにホワイトアウト発動。あっという間に水が凍り、あたり一面に蛮族達の彫刻が出来上がった。
「これはまた派手にやったね……」
「ふふっ♪ それで少し頭を冷やしてくださいね♪」
 笑顔ながらも恐怖を感じさせるエレナは氷の彫刻となった蛮族達に言い放ったのだった。