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【水先転入生】龍と巡る、水の都

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【水先転入生】龍と巡る、水の都

リアクション


第一章

「これは……想像以上だな」
 ゴンドラ乗り場に集まった人々の数の多さに、ソフィア・アントニヌス(そふぃあ・あんとにぬす)は驚きの声を上げた。
「こんなに注目していただけるなんて嬉しいです」
「だが、船頭の数が足りないだろう」
 嬉しい悲鳴を上げるディーナ・トラパーニ(でぃーな・とらぱーに)とソフィアの前に、二つの影が歩み寄った。
「あたしも手伝うよ! ドラゴンの扱いなら慣れてるし、ヴァイシャリーはホームだから!」
「俺もやってみようかな。ちょうど良い機会だしな」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)セルマ・アリス(せるま・ありす)の提案に、ソフィアとディーナは顔を輝かせた。
「助かる。ドラゴンはこちらでも用意しているが……」
「あ、あたしはレッサーワイバーンがいるから大丈夫!」
「そうか、ではゴンドラのところに案内しよう。ディーナ、セルマ、そちらも頼んだぞ」
 ソフィアはミルディアと共にゴンドラのところまでやってくると、一台をミルディアに引き渡す。
「ねね、ソフィアさん、ドラゴンって翼の音がうるさいから、お客さんとのやり取りにインカムがあったほうが良いと思うんだけど」
「ふむ……たしかにな。すぐに用意する」
 ソフィアがそう言って振り返ると同時に、控えていた側近のピウスがすっと一礼するとすぐにその場から消えた。
「え、今なんかいた?」
「ああ。インカムの手配を頼んだ」
「お待たせいたしました」
「早っ!! あ、ありがとう……」
 驚くミルディアの反応を気にした風もなく一礼すると、ピウスは再び物陰へと消えた。
「ドラゴンの扱いも土地勘も問題ないだろうから……まずはミルディアのゴンドラからスタートしてもらっても構わないだろうか?」
「うん、もちろん!」
 早速ソフィアは待っていた人たちをミルディアのゴンドラに誘導すると、手を振って出発を見送った。
「ようこそ! これから街を案内しながら、ドラゴンならではのパフォーマンスもご覧にいれますね!」
 ミルディアの言葉に乗客からは拍手が起こる。
 手慣れた調子でレッサーワイバーンを操りながら見える景色を紹介していくミルディアに、乗っていた子供たちが嬉しそうにはしゃいでいた。
「さぁ! 今度はどんなの見てみたい?」
 その言葉に、子供たちから様々な声が上がる。
「よーし、特別だからね」
 そう言うと、ミルディアは一度レッサーワイバーンからゴンドラを外すと、アクロバット飛行を見せる。
 子供たちから歓声が上がると同時に、空中に向かって炎を吐いて見せた。
 あまり見ることのできないパフォーマンスに、子供のみならず大人たちからも盛大な拍手が上がるのだった。

「どんなドラゴンにしますか?」
 一方のセルマは、ディーナと共にドラゴンを選んでいた。
「咆哮で意思疎通はできるから、基本的にはどんなドラゴンでも大丈夫だと思うけど。お客さんを乗せることを考えると、大人しめの子が良いかな」
「でしたら、このドラゴンはいかがですか?」
 ディーナに示されたドラゴンは、ゆっくり起き上がると、セルマに向かって頭を差し出してくる。
「……なでて欲しいんじゃないの?」
 首を傾げるセルマに中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)が言葉を挟む。
 セルマが軽くドラゴンに触れてみると、気持ちよさそうに目を閉じた。
「人に慣れてるみたいだね。このドラゴンなら安心かな」
「良かったです。では、よろしくお願いします」
 セルマと中国古典がゴンドラの準備を整えると、ディーナがゴンドラへとお客さんたちを誘導した。
「じゃあ、行こうか」
 セルマは手綱を取ることはせず、口頭でドラゴンを誘導していく。
 始めはどうしたら良いのかとセルマを振り返り振り返りしながら微妙に進んでいたドラゴンだったが、指示に合わせて方向さえ合わせれば、自由に動いて大丈夫というセルマの言葉に、ゆっくりとスムーズに進み始めた。
 中国古典は、ゴンドラの前方に座り乗客のほうに向くと、周囲に広がる水路をイメージした流れるような曲を二胡で演奏しはじめる。
 時折はねる水で二胡を濡らさないよう気を付けながら、雰囲気に合わせて曲を変えていく。
 セルマは、ドラゴンに目的地や方向を指示しながら、街の見せ場ではいったん停止させるなど、うまく調整しながら進んでいく。
 途中、突然横の水路から飛び出してきたドラゴンに驚き、セルマたちのドラゴンがスピードを上げてしまった。
 乗客たちからは驚きの声が上がったが、中国古典が咄嗟に全員をいったん中央部に集めると、ゴンドラの揺れはすぐに収まる。
 その隙にセルマがドラゴンを安心させると、すぐにまた安定した進みに変わる。
 再び二胡を手にした中国古典の演奏に、乗客たちもまたゆったりとゴンドラからの風景を楽しんだ。

 楊 霞(よう・か)泉 美緒(いずみ・みお)も乗客を乗せると、水路へと進み始めた。