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リアクション
祭に向けて2
「あ、ここ可愛いと思わない?」
デジタルビデオの映像を見て九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)はそう言う。
「可愛いけど……この猫もう少し目立たせられないかな?」
ローズ同様に映像を見ながら冬月 学人(ふゆつき・がくと)はそう返す。
「でもそうすると猫の出番ばかり多くならねぇか?」
同じように映像を注視しながらシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)は疑問を呈す。
「……そうだね。猫の数が多いからどうしても出番は増えるけど、それを考慮しても偏ってる……かな?」
シンの疑問に斑目 カンナ(まだらめ・かんな)はそう答える。当然カンナもデジタルビデオの映像を真剣な眼差しで見ていた。
「……っと。一旦休憩しようか」
デジタルビデオの映像が終わりローズがそう提案する。残りの三人も特に異論なく頷き休憩に入る。
「けど、大分形になってきたね」
先ほどの映像を思い出してローズはそう言う。ローズたちが見ていた映像。それは彼女たちの祭における企画、動物たちと音楽を組み合わせた出し物を撮ったものだ。
「……曲が完成したばかりだ。これからだよ」
ローズにそう返すのはこの企画の練習の中心にいるカンナだ。カンナが作った曲を使うのだからそれは当然なのかもしれない。またオリジナルの曲でなくとも4人の中で一番音楽に詳しいのは間違いなくカンナだった。
「……まだまだ調整が足りない。祭までの時間を考えるとギリギリかも」
そんなカンナがそう言うのだからそうなのだろうとローズと学人は思う。
「一応指示に関しては足元のシートに貼り付けるけど……動物たちと息を合わせるのだけは誤魔化しが効かないからね」
どこでどういう指示を出せばいいかは、パフォーマンスをする場所等を書き込みすることで補助にはなる。けれどその指示も動物たちと息が合わなければ意味は無い。
「成功のためには僕達がよく考えてパフォーマンスを練らないと」
動物たちのできるパフォーマンス、動物たちとの意思疎通の割合。そうしたことを考えていかなければならないだろう。
「なんかこうして話し合うの、文化祭を思い出すなあ、楽しい。絶対成功させようね」
「そうだね」
「……当然だよ」
あたりまえのことだと学人もカンナも答える。
「……ところでシンはどこいったの?」
さっきから姿を見ないけどとローズ。
「動物たちのお菓子を用意すると言っていなくなりましたよ」
「……休憩時間なのに勤労なことだね」
カンナの言葉に自分たちも企画の相談して同じようなものじゃないだろうかとローズは思った。
「ほら、味見頼むな」
そう言ってシンは自分に懐くパラミタドーベルマンに試作したお菓子を食べさせる。
「ん……反応は上々かな」
もう少しだけ手を加えれば犬用のお菓子は完成しそうだとシンは思う。ただ問題は猫や兎ようのお菓子を作らないといけないことだ。
「けど……もうすく祭なんだよなぁ」
何ヶ月も準備してきた祭。その日はいつの間にか随分と近い。
「……そしたら、動物たちともお別れ…………お前とも会えなくなるのか」
たまになら会えるかもしれない。けれど今のように会えることもうない。
「祭……かぁ」
そう言ってシンは自分に懐くパラミタドーベルマンを撫でるのだった。
――イコナの3分クッキング――
「今日は秋のお芋でスイートポテト作りますの! 手順は――」
そう言ってスイートポテトの作り方を説明していくイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)。
「――そしてここに予め作っておいたスイートポテトがありますの」
スイートポテトを取り出すイコナ。そうしてスイートポテトを作り始めてからジャスト3分。完成品が登場した。
「というわけでミニいこにゃたち! 行って皆さんに配ってくるのですわ! スープも……って、?」
イコナの命令に従うミニいこにゃたち。それと一緒に動き出すスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)に違和感を感じてイコナは注視する。
「これは……影武者さんですの! 偽スープですわ!」
調理場から抜け出し本物のスープを探すイコナ。そして案の定、ユニコーンの住処内にふかふかベッドを広げて眠っているスープの姿を発見する。
「スープー〜……」
怒りの表情でスープに近づくイコナ。その勢いのまま布団を剥ぎ取る。
「プリンが…ひとつ食べてもまだみっつもあるでござる……」
布団を取られながらも至福そうな顔で寝言を言うスープ。起きそうな気配はない。
「お・き・る・の・で・す・わ・!」
ぺちぺちとスープの額を連打するイコナ。
「うぅ……イコナ殿痛いでござる」
「どうしてこんな所で寝ているんですの!」
「拙者は……その……ティー殿に頼まれて、ラセン殿の護衛をして居ったのでござる……これは誰にもヒミツでござるよ……」
眠そうな様子でスープはそういう。予め影武者がバレた時のために用意していた言い訳のためすらすらと言えていた。
「……ここには今ラセンさんはいらっしゃらないのですわ」
「……………………え?」
スープが寝ている間にリリアがラセンを連れだしており、この場にラセンの姿はない。
「……スープはおやつ抜き。プリンも没収ですの!」
言い訳虚しく(むしろ火に油)スープはイコナの大目玉を食らうのだった。
「……はい、綺麗になりました♪」
パラミタクロウサギのブラッシングを終えてティー・ティー(てぃー・てぃー)はそう言う。インファントプレイヤーを使うまでもなくそれくらいの意思疎通は出来ておりパラミタクロウサギはティーの膝の上から飛び降りる。
「それじゃ、次の子ですね」
クロウサギの後にティーの膝上に乗ってきたシロウサギをティーはまたブラッシングを始める。
「……もし、芸が覚えられなくても、……覚えても結局引き取り手が見つからなかったりした時も安心してくださいね。ずっとここに居ても大丈夫ですから」
インファントプレイヤーを使い、その場にいる動物たちに伝える。
「住処ですか? 確かに今住んでいるところはいつまでもいるって言う訳にはいかないですけど、新しい住処を鉄心が一晩で作ってくれるうさ」
「……流石に一晩では無理だぞ」
ティーの無茶ぶりを聞き届けたのか家造りをしていた源 鉄心(みなもと・てっしん)はティーに近づいてきてそう言う。
「鉄心。家造りはどううさ?」
「一応設計図とか材料はひと通り準備終えたからあとは組み立てていくだけかな」
今やっている鉄心の家造りだが、何も動物たちのためだけというわけではない。鉄心達自身がこの村を拠点の一つを持っていたほうがいいと思っての行動だった。と言ってもやはり、動物たちのためというのも無視できない大きな理由だ。
「それじゃやっぱり一晩でやれるうさ」
「……だから流石に一人じゃ無理だって。それに今はステージ作りの方も知らんふりとはいかないだろう」
だから組み立てはステージ等祭りの準備がある程度目処が立ってからだと鉄心は言う。
「まぁ、予想以上にゴブリンやコボルト達の労働力が大きいみたいでステージとかは予定より早く完成しそうという話だ。そうしたら村から人手をを貸してくれるという話だよ」
村長であるミナホは鉄心の家を作りたいという話に一も二もなく承諾をした。それどころか積極的に家造りに手伝わさせてくださいと。
「この忙しい時期に……大丈夫うさ?}
「大丈夫だと信じたいけど……。……とにかく、村長のおかげで祭の日までには家が完成しそうだよ」
祭の日。その日が一つの節目になりそうだった。
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