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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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 土産コーナー。

「ノーン様、この珍しいキーホルダーをお土産にどうでしょうか?」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は厄払いの妖力が込められている珍しいキーホルダーを手にしながらノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)に言った。ちなみに舞花は女湯、氷結精霊のノーンは冷湯を楽しんだ後だ。丁度、覗き見騒ぎが終わった頃だった。
「素敵だね……ねぇ、舞花ちゃん、あの人」
 ノーンはキーホルダーを褒めた後、元気の無い様子で物色している女性に注意を向けた。
「……ユルナさんですね。どうしたんでしょうか。とても元気が無いようですが」
 舞花はキーホルダーを元に戻し、ノーンが示した人物を確認した。以前、舞花達が宝探しを楽しんだホラーハウスを経営する女性ユルナ・キサラであった。
「お仕事の方、上手くいっていないのかな。お話しに行こう!」
 ノーンはユルナの元気の無さからそう判断し、励ましに行った。何せユルナは亡き父親のせいでホラーが嫌いでいつもど派手な格好をしているので。
「あ、ノーン様」
 急いで舞花も続いた。
「ねぇ、どうしたの? 元気が無いよ」
 ノーンが愛らしい笑顔でユルナに話しかけた。
「……あっ、二人はあの時の」
 振り向いたユルナは知った顔に明らかにほっとした表情を見せた。
「はい、あの時はとても楽しませて貰いました。それで今日は、どうしたんですか? ホラーハウス関係でこちらに?」
 舞花は丁寧に挨拶をしてから訊ねた。
「うん。スタッフと一緒に来たんだけど。本物はやっぱり違うね。でもここで帰ったら馬鹿にされるし」
 怖いものが苦手なユルナは溜息をつきながら答えた。
「ヤエトさんにですか? 相変わらずなんですか」
 ユルナが頭に浮かんでいる相手を知っている舞花は笑みをこぼしながら言った。言葉とは裏腹にユルナは兄であるヤエトの事をそれほど嫌っていない事を知っているから。
「……スタッフがここのチラシを貰ったんだけど、アタシが渋っているとそれを聞きつけて余計な事を言うのよ。お母さんに愚痴ったからそこから洩れたんだとは思うんだけど」
 ユルナは過ぎた苛立ちが再燃焼したのか表情が苛立っていた。
「心配しているんですね」
「だね。それで今は何しているの?」
 キサラ兄妹の仲を知っている舞花とノーンはにこやか。
「部屋で一人でいるより怖くないかなと思って、でも知っている人に会えて少しほっとしたよ。スタッフみんなあちこちに研究だとか言っていなくなって」
 ユルナは心底ほっとしているのかゆるんだ表情で舞花達を見た。
 そんなユルナを放って置く事は出来ず、
「良ければ一緒にお鍋でも食べませんか? 一人よりはずっと心強いはずです」
「そうしようよ。お鍋は人がたくさんの方が楽しいから」
 舞花とノーンは鍋に誘った。そもそも鍋は人数が多い方が楽しいから。
「ありがとう!!」
 ユルナは明るい表情で感謝を述べるのだった。
 その時、
「すみません、猫又を捜しているのですが、よろしいでしょうか?」
「猫又?」
 袴を着た白猫顔、猫又姿の少年と物色していたコルセアのやり取りが舞花達の耳に入って来た。舞花達はユルナに断りを入れてから駆けつけた。

「……どうかされたんですか? また親分さんを探しているのですか?」
 駆けつけるなり舞花はすぐに訊ねた。
「そうなんです……あ、あなたはいずぞやの……そちらは」
 答えるシロウは舞花を見て以前花見を一緒に楽しんだ相手だと認識する共にノーンを不思議そうに見た。
「わたしはノーンだよ! シロウちゃんだよね、よろしく♪」
 シロウとは初対面のノーンは元気に自己紹介して手を差し出した。シロウの事は舞花達から聞いていて知っているのだ。
「はい。よろしくお願いします」
 シロウは丁寧に挨拶するなりノーンと握手をして仲良しとなった。
 それが終わると
「それで他の土産コーナーにはいなかったの? 花見の時に腹痛を起こしていたわよね」
 コルセアが心当たりを訊ねた。花見では猫又とは直接関わってはいないが、事情は知っている。
「……それが大量に食べ物などを買い込んだ後で」
 シロウは溜息をつきながら答えた。
「それだったらどこかで食べてるかもしれないよ?」
 ノーンが人差し指を立てながら言った。
「……そう思って捜しているんですが、どこにも見当たらなくて、しかも二口女の双葉さんもいなくて……あの二人犬猿の仲ですから迷惑を掛けている気がして……親分はまた猫又定例会議をサボっていますし……はぁ」
 シロウはまた大きな溜息をつく。
「猫又定例会議ってとても大切なんだね」
 好奇心旺盛なノーンは会議について訊ねた。
「はい。あちこちで暮らす猫又が一カ所に集まって話し合いをするんです。度々欠席しているので親分好印象じゃないんですよね。とても強いのに……」
 シロウはやるせない様子で話した。
「良かったら捜すのを手伝うわよ。丁度、こっちも一人行方知れずがいるから」
 ふとイングラハムがいつの間にかいない事に気付いたコルセアはシロウに手伝いを申し出た。
「そうしてくれるとありがたいです」
 シロウは申し訳なさいっぱいの顔でコルセアの申し出を受けた。
「では、お任せしますね」
「早く見つけてあげてね」
 舞花とノーンはコルセアにシロウの事を託す。手伝いたいが、ユルナがいるので。
「えぇ」
 コルセアは舞花達に快く託された後、シロウと一緒に捜索を始めた。
 舞花達は、宿の人にユルナのスタッフに言伝を頼んだ後、自分達の部屋にユルナを招いた。

 舞花達が宿泊する部屋。

 舞花達とユルナは賑やかに名物の鍋を楽しんでいた。
「美味しいですね……とても頭も体もすっきりします。鍋の効果でしょうか」
 舞花は具材をたっぷり盛った椀をつつきながら言った。
「これも美味しいよ」
 ノーンは新メニューの料理を楽しんでいた。
「……本当、二人がいてくれて良かったぁ。本物の妖怪がいる中で一人で鍋なんて出来ないから」
 舞花達に料理を勧められながら食べるユルナは心底の感想を洩らしていた。よほど一人が心細かったようだ。
 そんな時、
「ねぇ、ねぇ、見て窓の外がとっても綺麗だよ」
 ノーンが窓の外に広がる夜空に気付き、食事の手を止めて指し示しながら言った。
「とても綺麗な夜空ですね。人里離れた山奥ですから空気が澄んでるのかもしれませんね」
「……本当だね。綺麗……来て良かったかも」
 舞花とユルナも食事の手を止め、澄んだ夜空に輝く星々に見入った。
 この後、舞花達は星空を満喫しながらユルナのスタッフが戻って来るまで雑談などをしたりして彼女の相手をした。スタッフが戻って来るなりユルナは深々と頭を下げて舞花達に礼を言ってから部屋を出て行った。舞花達が休んだのはその後だった。

 翌日、舞花は昨日決めていたキーホルダーを購入して陽太達へのお土産にした。
 そしてノーンは、
「のっぺらぼうさん、とっても楽しかったよ! ありがとー、また来るね!」
 見送りをするのっぺらぼう夫婦に元気にお礼を言っていた。
 舞花は帰路の途中、陽太達にメールと一緒にユルナと撮影した写真や夜空などを送信した。陽太達は楽しげな様子に喜んでいたという。後は帰って土産話をするだけ。
「早く帰ってお話したいね。おにーちゃん達が会ったシロウちゃんにも会ったし」
「そうですね」
 ノーンと舞花は仲良く家路を急いだ。