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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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「あっ、あなたは……えぇ。そうよ。このイルミンスールのごみ屋敷の主が珍しく親友を宿に招待してくれたのよ。それで店を休んで来たの」
 歌菜に気付いたササカが真っ先に反応した。雑貨屋『ククト』はこの日のために臨時休業している。
「そうなんですか。素敵ですね」
 歌菜は仲の良い二人の様子に微笑ましくなった。
「えぇ。掃除も洗濯も食事も作らなくていいから今日は幸せ」
 ササカは湯に入り、開放感に満ちていた。いつもは自分の店の営業と親友の世話に追われゆっくりする時間が無いから。
「その開放感分かります。私もいつも家事を担当しているので……とは言え、少し手伝っては貰っていますけど」
 ササカと同じ理由で寛いでいたセレスティアが会話に加わった。
「いいわね。私はほぼ全部よ。あの子の親友と言うより保護者みたいな。物忘れも激しいし悪筆だし」
 ササカは溜息をつきながらオルナをちらりと見た。明らかに疲れ切っている。
「大変ね。せっかくの温泉なんだから楽しまなきゃ。とくにこの美肌効果!」
 リーズがササカを励ました。
「そうね」
 ササカは励ましにうなずいた。
「はぁ、あればっかり。ごみの分別だって前よりやるようにしたのに」
 歌菜と話し込む親友を尻目にオルナはいじいじし始める。
「気に掛けてくれる人がいるのはいい事だと思うけど」
「溜息つくなら今日は親友孝行をしたらどう?」
 マリエッタとゆかりがそれぞれ励ます。
「……親友孝行……いいね。それ、やるよ、アタシ……って言っても何やればいいんだろ」
 二人の励ましを受けたオルナはすっかり元気になり、力拳を作るも何も閃かず元気を失った。
「だったら、何か体にいい物を御馳走するとかはどう? ここの女将に効能抜群の妖怪料理を教えて貰うとか」
 リーズはふと閃いた一つの提案を出した。
「それいいね。妖怪料理か。しかも調合にも活かせそうだし。ありがとう!!」
 調合をよくするオルナはリーズの名案に手を叩いて喜んだ。
 この後、ゆかり達は出て浴衣に着替えから部屋に戻り、続いて歌菜も出てヨンも長湯に耐えられず出てのぼせ気味となった体を部屋で休ませた。別の女湯では大騒ぎを起こしていた。
 セレスティアとリーズはあちこち湯巡りをして1、2時間風呂に入っていた。
 ある湯に入った時、
「とても気持ちいいですね」
 セレスティアは隣のリーズに楽しそうに声をかけた。
「……そ、そうね、これで肌も綺麗……に……なる……」
 答えるリーズの顔は真っ赤かでろれつも回らず、ふらりと体が傾き始めた。
「だ、大丈夫ですか!」
 セレスティアは慌ててリーズを支え、湯から出た。
 すぐに宿の人に部屋で休んでいる唯斗を呼び出して貰った。
「おい、のぼせてぶっ倒れたと聞いたぞ。何やってるんだ」
 すぐにやって来た唯斗はリーズの様子に呆れた。ちなみに湯を楽しんだ後だ。
「ん〜、あ、唯斗」
 浴衣を着たリーズは床に寝させられ、セレスティアが団扇で扇いで介抱していた。明らかに初心者の勘違いで起きた事だ。
「……ったく、リーズが世話をかけたな」
 唯斗はリーズを呆れの目で見た後、セレスティアに礼を言ってからリーズを起こして肩を貸して立たせる。
「……ありがとう」
 まだのぼせ状態から復帰していないながらもリーズはきちんとセレスティアに礼を言った。
「いえ、大丈夫ですか。よければ手伝いますよ」
 心配なセレスティアは立ち上がり、手を貸そうと申し出た。
「いや、大丈夫だ。そっちの邪魔をして悪かったな」
 唯斗はこれ以上セレスティアに迷惑を掛ける訳にはいかないと断ってそのまま部屋に行った。
「お気を付けて」
 セレスティアは唯斗達を見送ってから自分も部屋に戻った。

「……マリー、本当にやるの?」
 温泉と買い物を楽しんだゆかりは卓球コーナーに来ていた。夕食まで休もうと思っていたところ、マリエッタにせがまれてここに来た。そこまではいいのだが、別台のプレイヤーが問題であった。
「カーリーが言いたい事は分かるけど、他の人がいるから大丈夫よ。はい、ラケット」
 マリエッタは同じく別台を一瞥した後、ラケットを手渡した。別台では双子を含む六人のプレイヤーがいた。ゆかりは何か騒ぎに巻き込まれるのではと危惧していたのだ。
「……少しだけなら」
 仕方無くラケットを受け取るゆかり。
「それじゃ、始めよう」
 マリエッタの合図で勝負は始まった。
 少しのはずが、実力は拮抗しラリーが続いてなかなか勝負が決まらない。どちらが勝ってもおかしくはない状況。
「なかなかやるわね、マリー」
「カーリーも」
 一つも取りこぼしのない二人。
 しかし、勝負には必ず勝敗があるもの。この勝負にも。
 その勝者は
「誘うだけはあるわね、マリー」
「プロポーションには負けたけど卓球には勝ったわ」
 マリエッタであった。この後、汗だくになった二人はまた温泉に入った。
「……二度も温泉に入ることになるなんてね」
「入った分だけお肌が綺麗になるからいいんじゃない」
 ゆかりとマリエッタは二度目の入浴も楽しんでいた。
 湯上がり後、自分達が出て行った後双子がまたやらかした事を知った。

「少し長風呂になってしまったが、歌菜はまだみたいだな」
 月崎が出て来た。歌菜は温泉で楽しくお喋り中。
「それにしても疲労回復の効果は抜群だな。さすが妖怪の湯」
 月崎は入浴前よりも随分体が軽くなっているのを実感していた。
「歌菜が出て来るまでゆっくり待つとするか」
 月崎はマッサージチェアで珈琲牛乳でも飲みながらまったりしていた。
 珈琲牛乳を飲み干して少し時間が経ってから
「ついつい長風呂になっちゃった」
 浴衣を着た湯上がり美人の歌菜が出て来た。
「あっ、羽純くん、待たせてごめんね。後でマッサージをサービスするから、許して!」
 待ちぼうけ状態の月崎に気付くなり歌菜は駆け寄り両手を合わせて上目遣いに可愛くごめんなさいをした。
「あぁ。そっちも効果はあったみたいだな」
 月崎は文句一つ口にせず、歌菜が気付いて欲しい事に気付いていた。本当はそれだけではなく浴衣姿にも眼福だと思ったが、これは内緒。
「あっ、気付いてくれた? さすが私の旦那様♪」
 歌菜は花が咲いたような顔で月崎の腕に絡んだ。旦那様のために綺麗になって本人に気付いて貰ったからとても嬉しくて仕方が無いのだ。
「……で、土産でも見てみるか?」
「見る。買いたい物があるんだ」
 訊ねる月崎ににんまりと答える歌菜。買う物はもう決まっている。
「それなら土産を見てから部屋に戻って食事にするか」
「賛成!」
 月崎と歌菜は仲良く腕を組みながら土産コーナーに寄った。
 そこで歌菜は沼御前愛用の洗髪料を購入した。
 買い物を終えたら真っ直ぐ部屋に戻り食事にした。

 部屋。

「これが名物の鍋」
「見た目は普通だな」
 これが歌菜と月崎が鍋を目の前にした感想だ。
 どこをどう見てもただの鍋。
「……(どうぞ、食べて下さいな)」
 女将は手振りで鍋を勧めた。表情があればおそらくは笑顔で。
「では、いただきまーす」
「いただこうか」
 歌菜と月崎は同時に鍋に箸を付けた。
 そして、一口。
「美味しい!! 口の中で旨みがじゅわーって広がって」
「それだけじゃないな。デトックス効果か」
 口の中で広がる美味さと体内の毒物を浄化する力を感じる二人。
「良かったらレシピとか教えてくれると嬉しいんですけど」
 歌菜は箸を置き、鍋について訊ねた。
「……(レシピですか。ほとんどここで採れた物で)」
 女将は鍋について話し始めた。最後は筆談で細かな事を教えていた。
「なるほど、そうですか」
 歌菜は筆談メモを確認した。
「この酒と羊かんも妖怪製なのか?」
 月崎は用意された酒とデザートについても訊ねた。
『お酒はネネコ河童の女々さんが自製し羊かんは小豆洗いの宗右衛門さんが作った物です。妖怪以外が飲んでも大丈夫ですよ』
 女将は筆談にて料理情報を伝え、席を後にした。
 歌菜と月崎は鍋を食べ尽くし、仕上げのデザートも美味しく頂いた。
「……これはなかなか」
 特にかなりの甘党である月崎は大変満足していた。

 食事を終えた後。
「このお酒、さっぱりしてて美味しいね」
「そうだな」
 夜の帳が落ちた庭を眺めながら歌菜と月崎は晩酌していた。
「羽純くん、マッサージしてあげるね。温泉で待たせちゃったお詫びの」
 ふと歌菜は約束を思い出し、酒器をテーブルに置いてから月崎の後ろに回った。
「それじゃ、有り難く受けるか」
 月崎は酒器を零さないようにしっかり持ってから約束を果たして貰う事に。
「今日は来てよかったね♪」
 歌菜は月崎の肩を叩きながらこぼす言葉は明るく弾んでいた。
「そうだな。効能抜群の温泉に美味しい料理に……」
 月崎も同じく満足。何よりこうして夫婦で同じ時を過ごせる事が何より良かったと思っている。どんな素敵な宿に行ったとしても一人ではつまらなかっただろうと。
「綺麗な夜景、だね。それに羽純くんも一緒だし♪」
 歌菜もまた月崎と同じ気持ち。月崎は顔が見えなくても妻が笑顔である事は知っていた。
「……歌菜、交代だ」
「うん! お願い」
 今度は月崎がお返しとばかりに歌菜をマッサージした。
 仲良し夫婦の晩酌はもう少し続いた。