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今日はハロウィン2023

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 クッキー屋。

「飾り付けはこんな感じでいいかな」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は自宅から連れて来た薔薇達を飾り終え、満足そうに見ていた。その姿は魔王の角と世界樹のワンドなどで魔王の扮装をしていた。コスプレイベントに本物が混じるのはつまらないと考えハロウィンサブレは貰うも未使用のままだ。
「まるで黒薔薇の魔王とその従者ですね」
 デビル付け羽と玩具の牙などで悪魔な執事のエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が感想を一言。王を一人歩きはまずいと従者姿をチョイスしたのだ。
「そうだね。それよりこのサブレ、通りを見る限り何も無さそうだけど、あの双子が作った物だと考えると意図的にやり過ぎるか戻れなくなるとか何かありそうな気がするよ」
 エースは通りを歩くモンスターに目を移しながらも全く油断していなかった。何せあの双子の作った物。何も無いのは逆に不自然だ。
「そう考えるのが普通ですよね。効き目がとんでもない事になったり。とりあえず、調べてみましょう」
 エオリアは『サイコメトリ』でハロウィンサブレに触れた。
 双子が監視の下ハロウィンサブレを作製する姿、二人だけになった途端、こっそり余計な効果付きと思われるハロウィンサブレを作っている様子が読み取れた。分かったのは、通常のハロウィンサブレのレシピだけだった。
 読み終わったのを見計らい
「どうだい?」
 エースが訊ねた。おおよその予想はしながら。
「……一部のクッキー以外ほぼ問題は無さそうですね」
 そう言うなりエオリアは読み取った事を全て話した。
「その一部のクッキーが気になるね」
 エースはその一部のクッキーに嫌な予感を抱いた。
 その時、
「トリック・オア・トリート!」
 陽気な双子が登場。
「やぁ、絶好のタイミングに来てくれたね」
 エースはにこやかに双子を迎えた。
 その笑顔を見るなり
「……絶好って……キスミ、他の所に行くぞ」
「おう」
 双子は嫌な予感を感じたのか逃げようとエース達に背を向けた。こういう所は相変わらず勘が良い。
「残念だけど、行かすわけにはいかないよ。エオリア」
「任せて下さい」
 エースの指示を耳にするなりエオリアは『行動予測』とこれまでの経験から双子の先を行き、ピコハンで動きを止めた。その隙にエースが『エバーグリーン』で成長させた薔薇の茨で双子を捕獲し、『ヒプノシス』によって完全に動きを封じてから
「まるで童話のお姫様みたいだねぇ」
 エースが魔王らしい不敵で今にも取って喰らうかのような笑みを浮かべつつ双子を見下ろしていた。ただ、双子がゾンビとフランケンで何とも美しくはないが。

 数分後。
「……って何するんだよ。俺達何も悪い事してないぞー」
「そうだそうだ。ハロウィンを盛り上げようとしただけで」
 目覚めた双子は不満を口にしながらもぞもぞと何とか茨から逃れようとする。
「まだ何も聞いていないのに聞かれるのが分かっているんだね」
 エースは表情を柔らかくした。
「……」
 図星を突かれた双子はあらぬ方向に目を泳がし、エースと顔を合わせまいとした。合わせると全てを吐きそうなので。
「一部のサブレに何かしていたみたいですけど、何をしていたんですか?」
 エオリアがエースとバトンタッチして追求を始めた。
 途端、
「!!」
 エオリアの言葉に表情を変えた双子はじっとエオリアをにらんだ。
「顔色が変わりましたね。さぁ、話して下さい。それまでこのままの状態ですよ」
 あくまで優しい口調で追求を続けるエオリア。
 その言葉が本当だと笑顔から感じ取った双子は
「……全部同じじゃつまらないから。でもたったの三枚だけだぞ」
「そうだぞ。当たりサブレみたいな」
 ハロウィンサブレについて話し始めた。
「それでどんな物を作ったんだい? 使用した素材とかを教えて貰おうかな」
 エースが双子曰く当たりハロウィンサブレについての細かな情報を求めた。
「見た目がほんの少し変わるやつとか、二段変化するやつとか……後は何だっけ?」
「ヒスミがやり過ぎて効き目が三時間から三日に延びたやつ」
 双子は大人しく当たりサブレ全部の素材と効果を話した。
「効果については、君達の言葉通りみたいだね。身体にも異常は無さそうだし」
 『薬学』を持つエースは得た情報から双子の言葉が正しい事を確認した。
「何、疑ってるんだよ。大丈夫だって、ほら」
 キスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)は口を尖らせて言いながら通りでハロウィンサブレによって見た目が成長した事に驚いている魔女っ子になった参加者の方にあごをしゃくった。参加者はすぐにどこかに行ってしまった。
「ほら、喋ったんだからこれをはずせよ」
「約束は守れよ」
 早く悪戯をしたい双子は身の自由を訴える。
 しかし、
「という事で解除クッキーの製作を手伝って貰うよ」
 エースは双子の戒めは解かず話を続ける。それぞれ効果が違い、少々複雑のためと解除クッキー作製に手間が掛かるため双子に手伝わせようと考えている。そもそも犯人である双子が作製するのは当然の事。
「という事ってどういう事だよ」
「話したらこれをはずすって事だったろ。身体に影響は無いんだからいいじゃん」
 双子の方は不満たらたらだ。悪戯する時間を奪われるのだから。
「確かに悪影響はありませんが、三日もハロウィンの姿では日常生活に支障が出て来るでしょう。後で美味しいお菓子とお茶を御馳走しますから手伝ってくれますよね」
 エオリアは優しい笑顔で正論と手伝いを強制する。
「……もし手伝わなかったら?」
 念のためにとキスミが恐る恐る拒否した時の事を訊ねた。
「さぁ、どうなるんだろうね」
 エースはまた魔王の笑みを浮かべて答えた。
「ハロウィンを盛り上げたいという親切心でちょっとやっただけなのに」
「何でこうなるんだよ」
 双子は自分達に選択権が無い事を嘆きつつも自由になりたいためにエース達の言う通りにした。自業自得だろという話ではあるが。
 早速、双子の戒めを解いて製作に入った。その際、調薬友愛会の人達に聞いたハーブなどを応用して作り上げたが、使用されたのは、効果時間延長クッキーを食べた人だけだった。他の二種類は使用者を驚かせながらも何とか当たりサブレと成り得たらしい。
 双子は解除クッキーが完成するなりエオリアに御馳走になってから逃げ去った。
 その後、エース達はハーブクッキーを作り、お菓子を求めて訪れる子供達などの相手に追われた。