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リアクション
第1章 赤のテスカトリポカ
祭壇の前に立ちはだかるディアボロスから、祓魔師たちは赤い髪の子供を保護することに成功した。
当然、虚構の魔性は彼らを追ってきたが、なぜか取り戻すことなく逃走させてしまった。
「まったく来ないみたいやけど。あいつ…本当に諦めたんか?」
「うーむ、相手はかなりの嘘つきらしいからのぅ。油断してはならぬぞ、陣」
「んなことするかってーの、ジュディ」
やつは気が緩んだところを襲ってくるかもしれない。
だが、それは今すぐとは限らず、またその時は…確実に何らかの手段を使ってくるだろう。
「私たちを緊張しっぱなしにさせて、疲労を与えることも狙いの一つなのかもな」
疲弊して隙を見せれば、トラトラウキ・テスカトリポカを奪われる。
仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)の言葉に、彼らは赤い髪の子供へ視線を当てる。
子供はまだ目を覚まさず、ヒュプノスの声でぐっすり眠ったまま、七枷 陣(ななかせ・じん)に背負われている。
「いきなり大きな子持ちになったみたいじゃな?」
「―……はっ!?」
「ふっふっふ…。そう赤くならずともよいではないか♪」
「おまっ、こんな時に何言ってるんや!」
「ジュディ、冗談はその辺にしておいてやれ」
今にも本気で怒りそうな雰囲気の陣を見た磁楠は、ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)の口に手をやり黙らせた。
「ミリィ、こちらに近づくような気配はないかな?」
「ありませんわ、お父様」
アークソウルに触れたミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は、首をふるふる左右に振った。
「なら先生方へ手短に報告を済ませてしまうか」
「我がしてこうかのぅ。探知は任せるのじゃ」
万が一に備え、その間に黒フードの者たちがやってこないか、宝石で警戒してもらい手早く報告メールを送る。
エリドゥの宿に待機している2人の教師は、ジュディから受け取った文面をすぐさま開いた。
「ふむふむ。例の赤い髪の子供を、無事に救出したんですかぁ〜!」
嬉しそうに喜ぶエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の傍ら、不安ごとが的中してしまったラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)は、どうしたものか…と考え込む。
「おやラスコット先生、嬉しくないんですぅ?」
「救出できたことはよかったけどね。うーん…なんていうか、例の子供の存在がねぇ」
「報告メールでも確認しましたけどぉ。魔性として覚醒しても、暴れるような悪い子ではないのでしょう?」
「まぁね。問題は、心臓を対の存在のほうに与えられてしまった時のことだよ」
「むむ…!確かに対が向こうにある限り、今後も狙ってくる可能性がありますぅ〜」
無事に保護できたとしても、対となる黒のテスカトリポカの存在を常に警戒しなくてはならない。
その対策も考えなければならないかとエリザートが悩む。
「でも、それは後々として、今はこの任務を遂行してもらうことが重要ですからねぇ。それといただいたメールにあった、保護後の行動についてですが〜…」
「外の様子を考えれば、エリドゥへ帰還するのは無理だろろうね」
その騒ぎからしてボコールの襲撃があったのだろう。
町への接近は危険だと判断する。
メールには一度、ディアボロスが追っていたという文面もあった。
相手は虚構の魔性。
諦めたと思わせ、取り戻しにやってくる可能もある。
退散させるまでは、町へ近づかないほうがよい。
そう考えつつ、ラスコットとエリザベートは続きの文面を読む。
「むぅー。保護した子が、災厄の元となるほうの心臓を欲しているのですかぁ〜」
「仮に得てしまったとしても、暴れるようなことはしないのだけど。彼ら的には、死なせたくはないということだよね、校長」
「ですよぉ〜。そうならないためには、二人を近づけないほうがよいでしょうねぇ」
欲する対象物を、すぐ手にできるならば躊躇なく奪うはず。
確実的に想定したエリザベートは、返信メールの文章を打ち込みながら言う。
外の砂地ではジュディが、“まだこぬのぅ…”と返事を待っていた。
着音が聞こえたとたん、さっそくメールを開く。
「う〜む…。災厄の元がやつらの手にある限り、再び狙ってくる可能性があるとな?」
文面からして、保護して終わりということではなさそうだ。
「確実ではないしても、油断するなってことやね?」
「そうじゃな、陣」
「で、続きは?」
「対となるテスカトリポカが死ぬ結果に至らないようにするためには、その子を近づけてはいけないようじゃ」
「自然に考えれば、やっぱそうだよね…」
ジュディの説明を聞き、2人を傍においてはいけないと五月葉 終夏(さつきば・おりが)も理解する。
「―…トラトラ、うーん……トラちゃんの今後も考えなきゃいけないし、難しい問題ね」
「トラちゃんはないだろ」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)のネーミングに対して、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は呆れたように嘆息する。
「失礼であろう」
「だって舌噛みそうなんだもん」
夏侯 淵(かこう・えん)にまで注意されてしまい、眉をハの字にしてしょげてしまう。
「私もとりあえず…、トラちゃんでいいかなって思ったんだけどなぁ」
「終夏さんも!?ルカだけじゃなかったのね♪」
「―……名前のことはさておき、片がつくまで目覚めさせないほうがいいだろうな」
話しが脱線しそうになり、ダリルは軽く咳払いをして会話を修正する。
「プリンや心臓を連想させる話しは、やめておくべきじゃ」
砂嵐での出来事や、攫われた時のこと。
それを欲することを思い出すような話題は、聞かせないでおくべきかとジュディが言う。
「町のほうには、まだ戻らないほうがいいのでしょうか?」
この子供を連れて戻ってよいものか、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はエリドゥのほうへ目を向ける。
「いや、まだ無理のようじゃな。ボコールの連中が、町を襲撃しているようだからのぅ」
「確か…北都さんたちが待機してましたよね」
「うむ。加勢が必要な状況か分からぬが。我らが行くわけにはな…」
そこへ行ってしまえば、必ずこちらに集中するだろう。
隙あらば子供を取り返しに襲ってくるはず。
そう想定したジュディは被りを振った。
「ここにおっても見つからないとは限らぬが、迎え撃つ準備は常に出来るじゃろう?」
「えぇ、分かりました…」
「ルカたちはここで待機ってことかしら」
「状況を見て、移動することはるじゃろなぁ」
「助けに行く判断も…、難しいところなんですね。(皆さん、どうかご無事で……)」
「ミリィ。私たちがするべきことは助けに行くことだけが、全てではないよ」
町の人や仲間たちが呪いに苦しめられていないか、怪我をしていないか。
不安げに見やるミリィの髪を優しく撫でた。
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