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学生たちの休日12

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海京の年越し



「艦内各員に告ぐ、今年一年世話になった土佐への恩返しだ。隅々までぴっかぴかに磨きあげろ。以上!」
 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)が、土佐の艦内放送で各部所の乗組員に告げました。今日は、全員で土佐の大掃除と整備を行っているのです。
 配置は、各分隊ごとということになっています。
 湊川亮一は、高嶋 梓(たかしま・あずさ)や通信科分隊や航海科分隊と一緒に艦橋の掃除をしています。さすがに艦の中でも一番大切な場所の一つですし、精密機器が集中しています。
「人が増えた分、去年よりは楽……かもしれませんね」
 パタパタとコンソールにハタキをかけながら、高嶋梓が言いました。
「そのつもりなんだがな。人が多いと、汚れも多くなるからなあ」
 そう言いながら、湊川亮一もせっせと艦橋を掃除していきます。
「これが終わったら、居住区エリアだな」
「それでは、私はこの後、食堂や医務室の掃除を指揮しますね」
 順番を考えつつ、湊川亮一と高嶋梓たちは大掃除を続けていきました。
 なにしろ、土佐は、ニルヴァーナなど、いろいろな場所を転戦してきた戦艦です。その分、見えない箇所の損傷なども蓄積していました。ここで、新しい年にむけて、完璧な状態に整備したいものです。
 機関室では、アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)が、機関科分隊を中心として蒸気傾奇者などにも手伝ってもらって、徹底的な整備を指揮していました。
「なにしろ、今年はエンジンを酷使する遠征が多かったですから、相当な負荷がかかっているはずです。特に念入りに調整をお願いします」
 アルバート・ハウゼンが、先頭に立って巨大なエンジンをチェックしていきます。その様子は艦橋からの監視カメラからも確認できますが、調子が悪いのかアルバート・ハウゼンの姿はぼやけてしまってよく分かりません。
「艦内モニタの調整がイマイチのようだな。再調整を頼む」
 それを見て、湊川亮一が高嶋梓に命じました。
 一方のアルバート・ハウゼンの方も、ちかちかとインジケータが瞬いているカメラを見て、故障しているのを確認しました。
「あれは、ハードの交換ですね。早く直して、ちゃんと私の全身を映してほしいものです」
 そうつぶやく、影の薄いアルバート・ハウゼンでした。
 一方、イコンデッキでは、ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)が、甲板科分隊や整備分隊と協力して大掃除を敢行していました。
 戦闘では、破損したイコンの即時修理などを担当したイコンデッキです。現場で急遽交換したイコンパーツなどが、あちこちに隠れて転がっていたりします。中には、味方機に付着した敵機の残骸なんていう物騒な物も発見されました。
「発見した不要品や残骸は、そこのコンテナに詰めてくださいませ。いっぱいになり次第、閃電に運んでいただきます」
 あわただしくイコンデッキを行き来する整備用車両に声をかけながら、ソフィア・グロリアが指示を与えていきました。ブルドーザーのブレードや、工作機のマニピュレータで残骸を集めてきた乗務員たちが、イコンデッキの端におかれたコンテナに廃棄物を詰めていきます。
『次はこれですね』
 イコンデッキに着艦したジェファルコンベースの閃電から、山口 順子(やまぐち・じゅんこ)の確認する声がソフィア・グロリアにも届きます。
「ええ、お願いします。赤いコンテナから、搬出してください」
『了解しました』
「赤からです」
 外部スピーカーでソフィア・グロリアに返事をした後、山口順子がメインパイロット席の岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)に告げました。
「こいつだな」
 指示された赤いコンテナのハンドルを閃電のマニピュレータで掴むと、岡島伸宏が慎重に持ちあげました。そのままフローター出力を調整して、ホバー移動しながら海京の船舶ドック内にある指定箇所へと運びます。
 こうして一箇所に集められた資源は、分類された後、リサイクルされることになっています。それすらもできない素材の場合は固められて海京の貯蔵ブロックに封印されます。こうして、バランサー代わりに利用されているわけです。
 何度か往復すると、とりあえず艦外に廃棄する残骸はなくなったようでした。
「次の指示が来ています。外装の洗浄です」
「了解だ」
 山口順子が次の指示をもらうと、岡島伸宏がドック内に用意されている給水ホースをイコンの手に取りました。フロートの給水装置と、そこからのびた長大なホースというシンプルな機器ですが、これで海水を吸い上げて高圧水流で土佐の外壁を洗浄するのです。ある程度のこびりついた貝類や、細かい凹凸内の付着物などはこれで落とすことができます。
 簡単そうではありますが、手に持ったホースを破損しないスピードでの移動と、船体表面と一定距離を保ったままの移動、細かい部分の分析と、意外と繊細な操作を要求される作業です。
「まあ、こうゆう作業のデータもとっておけば、何かの役に立つだろうさ」
「ええ。パターンデータは記録しておくわ」
 そう自分に言い聞かせる岡島伸宏の言葉に、山口順子が真面目に答えました。