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学生たちの休日12

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空京の年越し



「どれ、ブースの設営は終わったかのう?」
 アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が、空京即売会会場で柊 真司(ひいらぎ・しんじ)柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)に訊ねました。
 ここは、海京にあるイコプラ専門店『イコプラのフロンティア』の出店ブースです。主に、既存のイコプラやスクラッチパーツなどを展示販売する予定です。とりあえず、今回の目玉はクリスマスに海京で委託販売もした第三世代機セラフィムのガレージキットです。ちゃんと、バリエーションモデルもあります。それから、クリスマスには間に合わなかったIパワードスーツ隊のガレージキットも大きな目玉です。当然、IPS支援機つきです。
「だいたいこんなものかな」
 組みあげたサンプルを長テーブルの上にポーズをつけて飾りながら柊真司が言いました。
「こっちの展示も、終わったよ」
 パワードスーツ隊と支援機をジオラマ風にセットした柚木桂輔も言いました。
 売り物のパッケージは、長椅子の後ろに山積みにされています。
ふむふむ、まあまあじゃな
 満足そうに、アレーティア・クレイスがうなずきます。
「じゃあ、こちらは一段落ついたから、飲み物と食べ物でも買い出しに行ってくるよ」
「ああ、頼むのじゃ」
 細々と動いてくれる柊真司に、アレーティア・クレイスが頼みました。
「じゃあ、俺も休憩に入って、ちょっとコスプレ広場で可愛いレイヤーの女の子たちの写真でも撮ってこようかなあ」
 そう、柚木桂輔が言ったときです。その前にアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が立ち塞がりました。
「コスプレ……、そうコスプレです。このコスプレ衣装はなんなんですか!」
 ちょっと声を荒らげて、アルマ・ライラックが柚木桂輔に詰め寄りました。
 以前、ウィスタリアのコスプレ衣装にもなるIPSスーツ姿で売り子などさせられましたが、今回のコスプレはなんなのでしょう。
 ベースの衣装はなんだかつんつるてんに切り詰めた短い丈の天御柱学院の制服っぽい衣装です。当然、おへそや太腿やわきが丸出しです。さらに、ウィスタリアの艦橋を模したパーツを背中に背負わされて、両腕にも副船体を模したパーツをくくりつけられています。なにげに、要塞砲がデフォルメされて大きくなっているのが実にアンバランスです。本当に、これはなんなのでしょう。
「いったい、この衣装はなんなのですか!」
 ズンと柚木桂輔に詰め寄って、アルマ・ライラックが繰り返しました。
「こ、こら、砲塔をむけるな……」
 じりじりと後退しながら柚木桂輔が言いました。
「ほら、最近昔の戦艦とかを擬人化するゲームが流行ってるからさ、店長にも手伝ってもらって作ったんだ。しかもちゃんと戦闘でも使えるようにビーム砲とかも撃てる仕様になってるし、背中のスラスターで飛べるようにしてあるんだぜ。凄いだろ? ただ、問題はちょっと制作費がかかりすぎて今月厳しいんだよね〜。だからアルマは客引き頑張ってくれよ……」
「言いたいことはそれだけですか……」
 予想していたとは言え、実際に制作理由を聞くと、あらためてアルマ・ライラックに怒りがこみあげてきます。それに呼応するかのように、コスプレのギミックで砲塔にエネルギーが充填されていきました。
「ちょっ! アルマ、こっちに砲塔をむけるな。さっき言ったろ、実際に撃てるから危ないって……」
「また貯金をこんなくだらないことのために使い込んだんですね」
 柚木桂輔の言葉を無視して、アルマ・ライラックが言いました。怒っています。
「いやまぁ、ちょっとした出来心というか……。ごめんなさい! すいません! 勝手に作ったのは謝るから撃つのはやめてくれ!」
 そう叫ぶなり、柚木桂輔が逃げだしました。開け放たれた壁際の開口部から、外の広場へと逃げだしていきます。
「問答無用、ファイヤー!!」
 アルマ・ライラックが、容赦なく柚木桂輔にむかって砲撃を開始しました。そのまま、逃げる柚木桂輔を追いかけていきます。
「ああ、アルマさん、売り子はどうするのですか? 私一人じゃ……」
 ストークのコスプレ衣装アニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)が、アルマ・ライラックを呼び止めようとしました。けれども、アルマ・ライラックは、そのまま行ってしまいました。
 アニマ・ヴァイスハイトのコスプレも、正規の戦闘用装備です。とはいえ、さすがに攻撃で足止めするのはまずいでしょう。
「何、売り子が一人逃げただと! すぐに捕まえてくるのじゃ。もう開場まで時間がないぞ。それまでは、わらわがなんとかする。ええい、でませい、羅刹王!」
 こんなこともあろうかと、アレーティア・クレイスが超大型イコプラを稼働させました。
「分かりました」
 急いで、アニマ・ヴァイスハイトがアルマ・ライラックを連れ戻しに行きます。
 ぼろぼろになった柚木桂輔に0距離射撃をする寸前で、アニマ・ヴァイスハイトがなんとかアルマ・ライラックをなだめました。
 急いで売り子として二人が戻ってくると、ブースでは厳つい羅刹王が、アレーティア・クレイスの声で愛想よく「いらっしゃいませー」と客寄せをしていたのでした。

    ★    ★    ★

「もうじき、年越しライブの開幕ね、頑張らないと」
 シャンバラ宮殿前の広場に作られたステージ裏の控え室で、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が気合いを入れました。これから、年越しライブで歌い踊りまくるのです。もちろん、ユニットであるシニフィアン・メイデンとして、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)と一緒です。
「そろそろ最初のステージ衣装に着替えないと……」
 アデリーヌ・シャントルイユしかいないので、綾原さゆみが大胆に着ている服を脱いでいきます。ちょっと、それがいけなかったのでしょうか、ごぶさたであったアデリーヌ・シャントルイユに火をつけてしまったようです。
「ちょちょっと……」
「よいではありませんか、よいではありませんか……」
 抵抗する綾原さゆみに、アデリーヌ・シャントルイユがキスをしてきます。いけません、抵抗されれば抵抗されるほど燃えあがるタイプです。
 そのまま流されてしまうかに思われたとき、ステージの方から司会のシャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)のアナウンスが聞こえてきました。
『まもなく、開演30分前になります……』
「いっけない、続きはコンサートの後でね♪」
 やっとのことでアデリーヌ・シャントルイユを引き離すと、悪戯っぽく綾原さゆみが言いました。さすがに、急いで支度をしないと間に合いません。
「仕方ありませんわ、後で絶対にですわよ」
 なんだか子供っぽく念を押すと、アデリーヌ・シャントルイユも着替えを始めました。
 お揃いのステージ衣装は、ハーフブラウスに、コルセット段重ねのスカート、ブーツという構成です。綾原さゆみの方が赤のパーソナルカラーで、胸元にリボンを飾っています。アデリーヌ・シャントルイユのパーソナルカラーは青で、胸元はショートタイで飾っていました。よく見ると、衣装の細かいデザインはかなり違っています。そのへんの違いを見つけるのも、ファンの楽しみということなのでしょう。
「さあ、行きましょう!」
 リボンで結んだツインのアップサイドの黒髪をゆらすと、綾原さゆみがアデリーヌ・シャントルイユの手を引きました。
「ええ、行きますわよ!」
 先ほどの高揚を維持したまま、二人はステージへと駆けあがっていきました。