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リアクション
第三章 夜灼瓊禍玉
ゾンビがうごめく北側のルート。荒れ果てた土地に、獣の唸りのような声が響き渡る。湿った風は腐り果てた肉の臭いと、鼻につく化学薬品の刺激臭を運んでいた。
退廃的な景色のなかを酒杜 陽一(さかもり・よういち)と酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が進んでいく。
「機晶ゾンビを蹴散らして――夜灼瓊禍玉(やさかにのまがたま)の右手をもらう!」
陽一の表情は本気だ。
先日の児童施設襲撃事件で、最愛の理子やセレスティアーナまでもが狙われたのだ。その因縁を晴らすためにも容赦はしない。
美由子もまた、真剣な顔つきを浮かべている。彼女の視線の先にあるのは、同行した花澤愛音羽のおなかであった。
「……オヘソから、芽が出てる……。スイカを種ごと食べると出るって聞いたことあるけど……まさか本当に……」
「いや。あれピアスだから」
すっかりネタキャラになった美由子に、やれやれと突っ込みを入れる陽一であった。
「総員、目の前のゴミ共を処分しろ」
彼らの前方では、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が小隊率いて侵攻していた。
恭也にもまた容赦はない。パワードスーツのロマンを、下着型核兵器などという卑猥なものに汚した憎しみが煮えたぎっている。
「さて、ようやくあれとご対面ってか。あのふざけたパワードスーツの報いを与えられるぜ」
戦術甲冑【狭霧】に搭乗し、分隊を率いて正面から叩き潰していく。機銃、そして機晶戦車用大砲を撃ちまくった。
弾丸の雨あられからまぬがれた機晶ゾンビも、分隊に叩き潰させる。
「さぁ、あのクソ野郎引きずりだして、相応の礼をしてやろうじゃねぇか!」
「俺達もひと暴れするか」
陽一が『ソード・オブ・リコ』を薙ぎ払う。さらに美由子が持ち込んだ『三上山の大百足』が、ゾンビの群れを一掃していった。
大百足に負けじと、美由子は『巨大化カプセル』を使って自身を巨大化。50メートルという体躯で、ゾンビどもを蟻のように踏みつぶした。
カプセルの効果が切れる直前、美由子は前線から離脱して、後方支援へと回る。皆の後ろから『エレメンタルサテライト』をかけ、仲間たちの進撃をサポートした。
「ヘイリーたちが突破口を開くわ。頭上に注意して、一気にいくわよ!」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)が地上の契約者たちに警告する。彼女たちの頭上では、飛竜“デファイアント”を駆るヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が、拷問島の上空を切り裂いていた。
「『シャーウッドの森』空賊団、強襲せよ!」
彼女の命に合わせて、兵団は一斉に急降下。薙ぎ払われていく機晶ゾンビの群れ。
開かれた夜灼瓊禍玉までの道筋を、リネンたちはダッシュで駆け抜けていく。
「八紘零……。首を洗って待っていなさい」
ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)は激しくつのった憤りを噛み締めていた。ギフトや光条兵器を、ただの殺戮の道具としかみなさない――。『剣』として誇り高く生きる彼女は、そんな零のやり方に嫌悪しか感じていなかった。
レインコートの研究施設前。
薬品の臭いが強まるなか、未知なる毒性へ『清浄化』を施しながら、ユーベルはつぶやく。
「――必ず、その首を柱に吊るして差し上げましょう」
「ところでよ。夜灼瓊禍玉ってのは、まだ少女なんだろ」
「ええ」
「そうか。ロリかぁ……」
フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は、リネンに視線を向けながらおどけた口調で言った。
「さすがのオレも、子供はちょっとな……」
「ちょっと、フェイミィ!」
「冗談。冗談」
リネンに手のひらを振ってみせるフェイミィは、すぐに真顔に戻っていた。
「――やっぱ、零の野郎は許せねぇな。そんなガキまで使うなんてよ」
フェイミィは怒りを押し殺し、防毒のために『イナンナの加護』をかける。仲間のために祈る彼女の姿は、その黒い翼にかかわらず、さながら守護天使のようであった。
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