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リアクション
第四章 レインコート
所変わって、こちらは島の東側。レインコートの研究施設前。
カル・カルカー(かる・かるかー)が、『立入禁止』と書かれたテープをまたぎながら言った。
「へへっ。こんな表示、わざわざそこに「疚しい事が隠れています」って看板を上げていてくれる様なもんだぜ」
カルに同行するのは、ジョン・オーク(じょん・おーく)とドリル・ホール(どりる・ほーる)。三人が施設におもむいた理由は、『ウィルスの開発過程を調べるため』であった。
「それじゃあ、私たちは地下を調べてみるわ」
そう告げたのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)である。同じくレインコートの施設を調べにきたローザであるが、彼女が今いちばん知りたいのは、『八紘零にまつわる情報をつなぐ線、および全体的な輪郭』であった。
組織のデータベースが保管されている地下へ向かったローザを見送ると、カルはさっそく、怪しげな薬品が並ぶ部屋のなかを調べていった。
「――製薬会社って、開発費用がどん、と必要だけど。成功事例は圧倒的に少ないんですよね。だから特許で独占して薬価に次の新薬の開発費用上乗せして来る。ジェネリック医薬品ってのも薬が高くて手の届かない人にはいい存在ですが、医療の発展を考えるなら、自社で研究開発できる製薬会社さんを応援したいですね」
ジョンはなにやら製薬業界の実情をなげいている。
たしかにレインコートも医薬品の特許を多く取得しており、既得権益を貪っていたのだった。
「まー、なんだ。頭脳労働は苦手だ。正直」
ドリルが頭をかきながら、ふんふんと歌を口ずさむ。
「黄色と黒は、ゲンバインの印。24時間、たたかえますよ〜♪」
それはパラミタで流行っている、栄養ドリンクのCMソングだった。ずいぶんと呑気そうなドリルだが、パートナーたちが調査を安全に進められるよう、周囲を警戒するのは忘れない。
物影に気を配りながら、CMソングを歌い終えたドリルは言った。
「――多分、敵だらけだからな。この島!」
噂をすればなんとやら。ドリルの一言に呼応したように、物影からうめき声がした。機晶ゾンビのおでましである。
「こいつぁやばいな、ちょっとォ!」
ドリルがおどけて『戦略的撤退』をしようとする。だが、よく見てみればゾンビに敵意はない。
どうやらこのゾンビ、ウイルスに感染してはいるものの、意識がほんの少しだけ残されているようだ。
「助け……助けて……」
自分たちで作ったウイルスに感染しておいて『助けて』とはずいぶん身勝手な話だが、温厚なジョンは、すぐに応急処置をほどこしてあげた。
「――でも、どうしてこの人には意識が残っていたんだろう」
カルが首をかしげる。意識があるということは、開発側からすれば失敗作だ。そこからウイルスの弱点を探れないかと、カルは考える。
「意識がある原因は、なにか――」
しばらく思案していたカル。
急になにかをひらめいたように、ぽんっと手を打った。
「わかったぞ! 僕は『意識がある原因』にこだわっていたけど、そうじゃない。『意識があることが原因』なんだ!」
「……どういうことだ?」
ぽかんと口を開けるドリルに、カルは言う。
「つまりこのウイルスは、自分自身であろうとすることを諦めてしまった人が、最終的に感染するんだよ」
「なるほど。すべてを支配しようとする、八紘零が考えそうなことですね」
研究員の治療を終えたドリルが、うなずきながら応えた。
機晶ゾンビ――。
それは、自らの意志を放棄して、奴隷になることを望んだ者の成れの果てだったのである。
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