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リアクション
「……魂は……丁重に扱わないと……駄目、だよ」
ネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)が、ネクロマンサーに告げていた。
「……私達ネクロマンサーは……人の力を借りて初めて使える魔法……だよ。……子供の幽霊まで呼び起こして……。……魂は、尊い私達の盟友……。それをこんな風に呼び出すのは……駄目、だよ」
ゆっくりと近づいていくネーブルに、ロレンツォも同意する。
「まったくヨ。生きていた時でさえ、苦しみにとらわれてあった――。死んだ後にすらも、おのれの意に反する行動、強要されるは理不尽。理不尽」
「自分の自分の意思は、自分のもの。私の意思は、私だけのもの――」
ロレンツォのパートナー、アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)がネクロマンサーを睨みつける。
「誰の心も、その人自身だけのものだわ。死してなお、邪な欲望の道具として扱われていい魂など、ある筈がない」
「それはどうかな」
ネクロマンサーは、挑発するようにニヤリと笑った。
「『死』なんてそんなに大層なものじゃない。とどのつまり、死とはアルゴリズムの完全な停止をいう。発展を終えた情報の媒体――。それは言い換えれば、著作権の切れた書物にも喩えられるだろう。人類が共有すべき知的財産なのさ」
「なにを、馬鹿なことを……」
アリアンナを遮って、ネクロマンサーはつづける。
「ところでキミたち。人間を幸福にする一番てっとりばやい方法を知っているかな? それは思考力を奪って、支配することだよ。――こんな風にね」
ネクロマンサーがまたしても、子供の霊を呼び寄せようとする。
そうはさせまいと、ロレンツォが彼の懐に飛び込んだ。
ニンジャらしい軽やかな動きで、ロレンツォは切りかかる。反応が遅れたネクロマンサーは、腹部に浅い傷を負った。
「――子供たちの可能性を潰した罪! 自由を損なった罪! 数え上げて、懺悔なさい…」
遠距離から、アリアンナが援護する。完全に不意をつかれたネクロマンサーは、霊を呼び起こす間もなく、防戦一方となった。
自分のペースに持ち込んだロレンツォが、ちょっと調子にのる。
「腕の2,3本も折れば、充分に魔力も振るえないだろうのコトよ!」
「ちょっと。腕は2本しかないでしょ!」
アリアンナからツッコミを受けたロレンツォは、真顔に戻って叫んだ。
「命、魂、弄ぶ。それ、人の領域、踏み外してるネ! 悔い改めるよろし!」
退紅海松もまた、『サイコキネシス』でネクロマンサーの動きを束縛していた。
「――さて。落ちついて下さるかしら?」
契約者たちから総攻撃を受け、後ずさるネクロマンサーに。
すかさずフェブルウスが『アルティマ・トゥーレ』。足元を氷結させた後、ジト目で言い放った。
「僕の後ろへは……通しませんよ」
ネクロマンサーの動きは封じられた。
彼のもとへ、ネーブルがさらに距離を縮めていく。彼女の手には、『我は射す光の閃刃』による光の刃が集まっている。
「他の人が苦しんでるのに……進んだら、貴方は……そのうち死者からも……裏切られちゃうよ? そう、判って欲しい……から。貴方を捕まえるの……」
「くっ……」
ネクロマンサーは全身の力を抜いてうなだれた。それを見て、ネーブルも集めていた光の刃を解除する。
ついに、ネクロマンサーは観念した――。
かのようにみえた。
だが。
すぐに彼は向き直り、ネーブルに向けて拳を振り下ろしたのだ。
「…………私は……怯まないよ……」
「な、なにぃ……」
殴られても、ネーブルはネクロマンサーから離れない。
【痛みを知らぬ我が躯】を持つネーブルに、肉体の痛みなど怖くなかった。それよりも、傷つけられていく魂を見るほうが、ずっと耐えられないことだった。
「貴方は……自分の罪を……自覚するべき……。さぁ……罪を償う為に……私達に投降……して欲しい、な」
これ以上、傷つく魂が生まれないように。
ネーブルは微笑を浮かべた。
「あー、もう! やっと破けたよー!」
夜炎鏡が、ロレンツォのマントをようやく引き裂いた。自由になった得物をぶんぶんと振り回し、契約者たちに駆け寄っていく。
ネクロマンサーに留意していた一同は、彼女の動きに不意をつかれてしまった。
「まずはお前から切り刻んでやんよー!」
夜炎鏡が襲いかかったのは、このなかでいちばん戦闘力の低い、ニコラ・ライヒナームだった。
「きゃー! ニコラきゅん!?」
海松の悲鳴と、チェーンソーのエンジン音が、拷問島に響き渡った。――つづいて、肉の引き裂かれる音。
ニコラはひき肉にされてしまったのだろうか……。
海松がそぉっと、閉じていたまぶたを開けた。
彼女が見たものは、ニコラをかばう、ネクロマンサーの姿であった。
「――危ないところだったな。ニコラ」
「お兄……ちゃん……?」
ニコラの無事を確認すると、ネクロマンサーはすぐさま、夜炎鏡からチェーンソーを奪った。
轟音を上げて周回する刃を彼女の右腕めがけて振り下ろす。
「ぐわぁぁぁ……」
右腕を切り落とされた夜炎鏡は、屠殺される豚のような悲鳴をあげた。
「ちっきしょー! ……てめーら、おぼえておけよー!」
残った左腕のチェーンソーで牽制してから、夜炎鏡は捨て台詞を残し、去っていった。
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