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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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リアクション

 ツァンダ。ある家。

「……さぁ、寝ましょうか」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫である御神楽 舞花(みかぐら・まいか)はクリスマスである今日を楽しみ今まさに就寝しようとしていた。ここは氷結の精霊と魔女の仲間と一緒に生活している家の自室である。
「……?」
 舞花の就寝を阻む音。
「……こんな時間に電話ですか」
 舞花は出る前に相手先の確認をする。
 しかし
「……これは」
 確認し終えた舞花の顔は警戒の色。なぜなら相手先不明だったからだ。
「……」
 いつまでも室内に響く音。
 電話に出ない限りやまない気配を感じた舞花は警戒しながらそっと電話に出た。
「……どちら様でしょうか」
 恐る恐る掛けて来た相手先不明の相手に訊ねた。
「……!!」
 相手の声を聞いた途端、舞花の顔から警戒の色が一瞬で消えた。
 代わりに浮かんだのは
「……その声、お父様とお母様」
 懐かしさだった。相手は数百年後の未来世界、舞花の世界にいる両親からだった。
「はい。私は元気にやっています」
 舞花は怪我もせずに元気にしているかという心配に元気に答えた。現在、舞花がこの世界に来て2年近くが経過するが電話先の世界では旅立ってからわずか1、2週間しか経過していない。しかし、親として心配するに日数は関係無い。
 続いてどんな生活をしているのかと訊ねて来た。
「ご先祖様達と楽しく過ごしています」
 舞花はまず御神楽夫妻や仲間達との会話やちょっとした出来事を話した。当然御神楽夫妻に近々新たな家族が生まれるという事も。両親は新しい家族云々の話で両親が舞花が誕生した時の事を思い出し、あの時は嬉しい日だった、自分達に一番の宝物が出来た日だと語った。
「私もお父様とお母様の子供でとても幸せです」
 舞花は胸にこみ上げる幸せを感じながら思いを言葉にした。時を超えた空の下にいる自分を生んでくれた二人の顔を思い浮かべながら。
「これまでに……」
 話は変わり舞花はこれまでに経験した危険と愉快に満ちた賑やかな冒険譚を語った。両親は舞花を心配したりさすが我が娘だと誇りに思ったり。
 そして沢山話した後、来るべき時が来た。話を終わらせ、自分の生活に戻る時が。
 両親は娘の姿が無い上に声も聞けなくなるとあってとても寂しそうであった。
「私も寂しいです。でもお父様とお母様と久しぶりにお話し出来て本当に嬉しいです」
 舞花は、久しぶりに両親の声が聞けて嬉しくもあるがまた同じく寂しい気持ちだった。家族と離れ離れで心底嬉しい人はあまりいない。
「どうか体には十分気を付けて下さい」
 舞花は自分の身を気遣う両親に別れの挨拶をして電話を切って寝た。

 翌朝。
「……昨日の通話履歴がありませんね。でも記憶にはしっかりと……」
 起床した舞花は真っ先に昨夜の通話履歴を確認するも全く形跡は残っていなかった。ただし、胸の奥にはしっかりと温かな思い出として刻まれていた。
「夢だったのかもしれませんが、懐かしさと温もりに満ちた素晴らしい体験が出来ました。どなたの御業かはわかりませんが、素敵なプレゼントをありがとうございます」
 昨夜を示す形あるものが無いために夢の可能性を考えつつも舞花は、奇跡を配達した妖精に感謝した。
「……端から見れば深夜の電話に消えた履歴で少しホラーですね」
 舞花はふと自分が体験した事が少しホラーであると気付くと同時にホラーハウスを経営するユルナ・キサラの事を思い出し、電話をしてみる事にした。
 早速、電話をかけると
「ユルナさん、お久しぶりです。実は……」
 相手はすぐに出て詳細はぼかしながらも昨夜の体験を話した。
 途端、ユルナは亡くなった父親がホラーハウスにやって来て施設を体験し頑張っているなと励まされた事やスタッフがまさかの再会にむせび泣いた事を話し始めた。
「そうですか。亡くなったお父様がホラーハウスに……それは良かったですね。それでヤエトさんとお母様も再会したのですか?」
 舞花はユルナの嬉しそうな様子に自分も嬉しくなった。
「そうですか。それは残念ですね。でも声だけでも嬉しかったと思いますよ。そうですね、もし今度があるなら再会出来るといいですね」
 ユルナが兄ヤエトは仕事で母親は旅行で再会出来なかったが二人共電話越しの再会は出来た事、父親が別れ際にまた来るよと少年のように無邪気に行ってしまった事を語った。あの父親だから絶対会いに来るとユルナは強く言い張っていた。
「お互いに素敵なクリスマスでしたね」
 互いの体験を話し終えるなり舞花は電話を切った。
 今日という日を始めるために。

 夜、空京。エース宅。

「うん、とっても綺麗だ」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は今し方飾り終えた白系花のリースに大満足。毎年クリスマスリースは手作りだが今年は特に気合いが入っていて常緑樹の葉に小ぶりな白色系の生花と小さい百合をアクセントに使ったリボンが赤色の物を作り上げた。
「予想通り、君達のおかげで素敵なリースになったよ」
 エースはいつものようにリースとして活躍する花に話しかけた。
「せっかくのクリスマスだからもう少しらしくしてみようかな」
 もっとクリスマスらしくしたくエースは近くにあるクリスマス系音楽メドレーの電子オルゴールをつけた。
 途端、
「…………幻想的だなぁ」
 『人の心、草の心』を有するエースはオールゴールの音色に合わせて歌い出したリースの花達の歌声に聞き惚れた。
「……雪だ。これで益々リースが幻想的に見えるよ」
 ふと雪降る窓の外に気付き、エースは笑みをこぼした。
「二人にもリースを見て貰わないと」
 エースは自信作のリースをメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の二人にも見て貰うためにドアの方に向かった。エースの背後では、窓の外にいるブラウニーがくるりと人差し指を回していた。
「メシエ、リリア、リースを飾ったよ。自信作だからちょっと見に来てくれないか」
 エースは別の部屋で寛ぐ二人を呼んだ。

 少しして
「自信作か」
「どんなリースを作ったの?」
 メシエとリリアが揃って現れた。
「……自信作というだけはあるね。それに窓に雪がついてリースがより幻想的だ」
「リースの花達も楽しそうね。オルゴールと一緒に歌っているもの」
 リースだけでなく窓の雪にも目を向けるメシエと『人の心、草の心』でリースの花達の歌に耳を傾けるリリアはそれぞれエース渾身のリースを批評した。
「……」
 エースは笑顔で二人の感想を有り難く受け取り、気付かれないようにそっと部屋を出て行った。エースの退場に気付かぬ二人は仲睦まじくリースを眺めていた。
 突然メシエは耳に入る歌に怪訝を抱いた。
「……これはオルゴールのはずだが」
 オルゴールから流れる聖歌演奏に女性コーラスが重なったからだ。
 しかし、怪訝を抱くその思いはすぐに消えてた。
 なぜなら
「……リージャ」
 遙か昔によく聞いた歌声だったらだ。古王国時代の自分の婚約者だった幼馴染みの姫騎士の懐かしい歌声。
「……」
 メシエが静かにその歌声に耳を傾けていた時、突然歌はやみ
「リリアを幸せにしてあげてね。彼女とともに進む未来には、もっと素敵な事が待っているはずだから」
 耳元に亡き婚約者の声が囁く。
「……素敵な事、か。リージャ、君の事を忘れた訳ではないのだよ」
 遙か昔の事でも昨日の事のように鮮やかに思い出せる。武器開発に携わる自分とは違い戦場を主な活動場所とする職業軍人というか騎士であった彼女の姿を。
「ふふ、解っているわ。でも、過去に何時までも囚われていないで。貴方はこれからの未来に向かってまっすぐに歩いて行って。貴方には誰よりも幸せになって欲しいから、いえ幸せになるべきだから」
 リージャはふんわりと笑い、言葉を続けた。声だけで姿が見えなくてもどのような顔をしているのかメシエには分かっていた。なぜなら女性として愛した人だから。ただ、リージャがメシエに向ける愛は家族愛だったが。
「……リリアの笑顔を大切にしてあげてね」
 その言葉を最後にリージャの声は聞こえなくなった。
「……全く」
 メシエはただただうなずく事しか出来なかった。
「……」
 リージャはそんなメシエの様子に優しい眼差しを向けていた。
 その横では
「……さっきの重なった歌声……」
 メシエと同じく女性の歌声を耳にしていたリリアがいた。
「……メシエ、さっき聞こえた歌声」
 リリアは隣のメシエと歌声について話したく振り向いた。
 そしてメシエには見えない優しい眼差しを向けるその人の姿を
「……もしかして」
 リリアは見、一目でメシエの亡き婚約者だと知った。よく見ればリージャはリリアと外見的特徴がほぼ同じである。ただし、リリアの頭部にある百合の花は無いが。
「リリア、貴女にはとても感謝しているわ」
 リリアの視線に気付いたリージャは聖女のような笑みを浮かべ感謝を贈った。
「貴女のおかげでメシエが未来に目を向けてくれるようになったから。私という過去にずっと囚われていて心配していたの。幸せはいつだって後ろではなく前に、先にあるものだから」
 リージャは笑みのまま言葉を続けた。
 聞いていたリリアは
「……えぇ(私、この人の事、何だか知っている気がする)」
 うなずいていたが胸中はリージャから感じる不思議な感覚でいっぱいだった。
 リージャはそんなリリアをふんわりと抱き締めておでこにキスをし、
「メシエの事を、お願いね。可愛い百合のお嬢さん」
 そう言い残して消えた。
「……リージャさん(さっきの言葉、初めて聞く言葉じゃないような……最後に言い残すという事はリージャさんの切なる願いなのね)」
 残されたリリアはまた不思議に思いながらもリージャの切なる願いだと思い返すと少し胸が痛くなっていた。

 クリスマスの訪問者が去ると同時に音楽を流していたオルゴールが静かに最後の音を奏でて止まった。
 しかし、未来へと音を奏で続けるメシエとリリアはそっと寄り添い、お互いが相手の隣にいるという幸せと先にあるだろう未来の足音を感じていた。