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リアクション
?1? 鉛筆姉妹
「ふう……ちょっと休憩をとらない、お姉様?」
「だめです。まだあんなにプレゼントが残っているんですから」
フリル姿に鉛筆、全身黒色が目立つ少女の提案に、対照的に赤色の姉はぴしゃりと拒否した。
姉は手に持っている鉛筆を横に振りかざすと、目の前のプレゼントはたちまち姿を消す。
姉妹の振る鉛筆は魔法の杖になっており、どこかへとテレポートさせているようだった。
運ばれてくるプレゼントを姉妹は、次々と魔法を使いどこかへと送り続ける
「愛と正義と平等の名の下に!革命的魔法少女レッドスター☆えりりん! 人々に夢と希望を与える魔法少女の姿で悪事を働くなんて言語道断よ! 悪の魔法少女は正義の魔法少女が成敗してあげるわ!」
突然の藤林 エリス(ふじばやし・えりす)の声にデパートから包みを運ぶ娘達の手も止まる。
「藪から棒に……貴方達は何ですか?」
鉛筆姉はじろりとエリス、アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)、マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)を見た。
「人のプレゼントを奪ってどうするつもり!? 人の贈り物を奪う奴は人民の敵よっ!!!」
「ねえねえ、エリスちゃんなんでそんなに動揺してんのー?」
「ど、動揺? してないわよそんなの!」
(……動揺してますね、同志エリス)
平然を装いながら動揺するエリスとアスカのやりとりを聞きながら、『共産党宣言』は苦笑した。
「でもアスカちゃんのプレゼントを奪うのはちょっと難しいよっ! 私は魔女っ子アイドルとしてファンのみんなに愛のクリスマスソングをプレゼントしちゃうんだから」
「それに萌え擬人化なら、きょーたんだって負けてないよー☆」
「どういうことですか!?」
目を丸くして『共産党宣言』はアスカを見る。アスカは「だって本当のことだもん」と笑っていた。
『共産党宣言』は一息つくと再び、目の前に居る鉛筆姉妹達を見た。
「本が人の姿を成すなら文具にだって同等の権利が認められてしかるべきです……元に戻れとは言いません。でも、だからこそ他人の贈答品を奪うという行為は是認されません」
「そして、無機物の誠意を踏み躙って悪用するペーパ博士、許し難い……同志エリス、あの男は粛清すべきです!」
「わかってるわ!! そのためにもまず、この子達を止めるわよ!」
「……よく分かりませんが、邪魔はさせません。黒鉛筆!」
「りょーかいだよ、お姉様!」
黒鉛筆娘は再び手に持っている杖を横に振りかざすと白い光が現れ、次々と文房具娘達がそこから出てきた。
「私達はプレゼントを回収してるから、あなた達はこの人達をお願い!」
「了解!」
鋭い刀を片手に持った少女達がずらりと、エリス達の前に並んだ。
よく見れば、刀には目盛が振ってあることから定規娘のようだった。
「きょーちゃん!」
「はい!」
エリスが間髪を容れないように名前を呼ばれると、『共産党宣言』は”禁忌の書レベル8【光】”を手に取り、読み上げる。
刀をもった定規娘達は突然の魔法攻撃に軽い痛手を負う。
「そんなにプレゼントが欲しいんならあたしから贈ってあげるわ!」
エリスは声をあげると共に”シューティングスター☆彡”を発動させる。
空から次々と降る光り輝く星のような物に、刀を持った少女達は慌てて避ける。
「隙アリッ!」
鋭いかけ声と共に2つの刀を持った定規娘が、隙が空いたエリスの背後から斬りかかる。
刹那、鉄がぶつかるような激しい音と共に定規娘の刀ははじき返された。
「こんなの朝飯前ですっ!!」
普通の二倍はあるであろう、するどい刀を軽々と片に描けると、露出の目立つ少女は明るい声で言った。
その後ろから、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)とリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が歩いてくる。
シリウスの手には、あの”擬人化光線銃”が握られている。
「おお、良い動きをしてるぜ」
「……本当に見た目は女の子なんですね」
元はプラモデルであることを、リーブラは感心しながら見ていた。
おもちゃ屋でイコプラシリーズの”1/32イーグリット改【オルタナティヴ13】”を手に入れ、シリウスが擬人化させたものだった。
「まだ……まだやれルッ! みんなカカレッ!」
「何人で来ようとも……やああっ!」
一斉に斬りかかろうとしてくる定規娘達に、オルタナティヴ13は刀を構えた。
そして、次から次へと降り注ぐ刃を刀で受け流す。
「――っ……刀が!」
「げっ、刀の表面がはげてるじゃねぇか!?」
が、刀は次第にぼろぼろになっているのが目に見えてはっきりとわかった。
リーブラとシリウスは慌ててオルタナティヴ13の元へと駆けつける。
「やっぱり、プラスチックに銀色の塗装がされているだけではダメですか……」
おもちゃ屋で借りた塗装を塗ってはみるが、元々の材質が悪いのかあまり役に立ちそうではなかった。
しかし状況は、定規娘も同じはずだ。そう思いながらシリウスは定規娘達を見る。
「……鉄製か」
歯切れ悪そうにシリウスはつぶやいた。定規娘達がにやりと笑みを浮かべる。
「ふっ、我らの定規はステンレス製! プラスチック製などに引けは取らなイッ」
『イルミネーション粉雪を照らす街角で?貴方にこの気持ち贈ります私の全て……受け取って欲しいの……♪』
透き通るような大人しい歌声が突然あたりを響く。歌っているのはアスカの”幸せの歌”だった。
白い光のようなものが、オルタナティヴ13を包む。 同時に定規娘達へ”禁忌の書レベル8【光】”が襲いかかる。
「今のうちです!」
「GO、13!」
「はいっ!」
『共産党宣言』のかけ声を聞くと、シリウスはオルタナティブ13に”空飛ぶ魔法↑↑”をかける。
オルタナティヴ13は刀を再び構えたまま、宙を飛びうろたえる定規娘達へと斬りかかっていくのだった。
シリウス達が定規娘達を対処してる間、エリスは慌てて鉛筆姉妹を追いかけていた。
「まちなさいって! それあたしのよ!!」
エリスの”シューティングスター☆彡”が鉛筆姉妹へと放たれるも、それを小さなバリアのようなもので防がれてしまう。
「しつこいよっ! 来たれ黒鉛の槍」
「なっ、お、多すぎるわよ!?」
黒鉛筆娘が叫ぶと、エリス目がけて黒鉛の槍がいくつも降り注ぐ。
慌てて避けようとするも間に合いそうにないとエリスが覚悟したときだった。
突然白い光が、エリスの上空を覆った。リーブラの光条兵器だった。
「大丈夫ですか?」
「ありがと……はっ、あいつらは!?」
「……逃げられました」
肩をすくめるリーブラにエリスはと深いため息をついた。
「ねえねえ、探してる箱ってもしかしてこれのことー?」
小さな赤い包み箱を拾いながらアスカが聞く。
「へ……なんでアスカがそれを持ってるのよ!? か、返しなさいよっ!!」
「なんで、エリスちゃん動揺してんのー?」
「なっ、なんでもないわよ!!」
エリスは慌てて、アスカから箱を2つ取り上げると大事そうに抱える。
「同志エリス?」
「こ、これは別にアスカ達のために用意したものじゃないんだからね!!」
「え」
「あ……。へ、変な勘違いしないでよねっ!」
しばらく、エリスはアスカ達への言い訳がことごとく続くのだった。
「まさか……我らがやられてしまうとハ……」
シリウス達の戦う、定規娘達は皆倒されてしまっていた。
「結局ここのプレゼントは半分盗まれてしまいましたね」
「まっ、あいつらを捕まえればなんとかなるだろ。13もいるしな!」
「わ、そこまで評価してもらえて幸せです!」
シリウスの褒め言葉にオルタナティヴ13は顔を赤くして喜んだ。
「無理しないようにね……」
先へ進むオルタナティブ13に、リーブラは不安そうな表情を浮かべてつぶやくのだった。