リアクション
◇ ◇ ◇ 休暇に、何処か変わったところに旅行に行ってみよう、と言いだしたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の気まぐれに、多少面食らいながらも、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はそれに付き合う。 「何処にしようかしら」 と、考えた末に、訪れた場所はエリュシオンのルーナサズだった。 到着早々、宿に荷物を投げ込むようにして、二人は観光を楽しむ。 大都会のような派手さはなくとも、祭の賑わいに、セレンフィリティの心は躍った。 「うわー、何か胡散臭そうなお店もある! 何かしらあれ怪しげだけど」 「もう……セレンったら、はしゃぎすぎ」 大通りに並ぶ露店を冷やかしながら歩くセレンフィリティに、置いていかれそうになって、それってどうよとセレアナが思った時、くるりとセレンフィリティが振り返る。 「早く早く!」 楽しそうにセレアナに手を差し伸べ、指を絡めるようにして、手を繋いだ。 「うわあ、このリボン、すごく可愛い!」 色々なリボンを売っている露天で、二人は足を止めた。 「ふふ、余所から来た人かい? これは、祭の篝火で燃やすリボンよ」 「え? これ、燃やしちゃうの? すごく手が込んでで綺麗なのに」 「勿体無い……」 ひとつひとつ柄が違う、編みこみや刺繍などで色とりどりに作られたリボンは、祭の篝火にくべる薪に結びつけて幸運を祈るものだった。 「そりゃそうよ。幸運を祈りながら、思いを込めて丁寧に作るものだもの。貴女達もおひとついかが?」 売り子の女性は、二人が繋ぐ手を見て、ふふふと笑った。 「大切な人がいるならね、一本ずつ買って、相手に贈るのよ」 「おばさん、商売上手ね……」 苦笑しながらも、二人はリボンを選ぶ。 「でも、これ、端がほつれてない?」 「それはね、最後の一針を、買った人に仕上げて貰う為よ。 自分で自分のリボンを作る場合は、ちゃんと最後まで作るのだけど、売り物の場合はこうして仕上げを残しておくの」 なるほど、と頷きながら、二人は売り子の女性が渡してくれた針を借りて、選んだリボンを仕上げた。 「篝火の所に薪が積んであるからね。 一本選んでリボンを結んだ後、相手に渡して、火に投げ込むのよ」 「有難う」 礼を言って、二人は龍王の卵岩へと向かった。 ルーナサズに行ってみたい、と言ったパートナーのフィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)の望みを、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は、物理的に叶えることができなかった。 「金が無い」 「ルーナサズでは、お祭、あるんですねえ。 フィーアはルーナサズに行ったことないですし、どんな祭なのか興味があるですぅ」 ちら。 「そんな目で見ても連れて行かないからな。頼むならリューグナーにしろ」 げんなりと溜息を吐いた燕馬に、リューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)もまた深々と溜息を吐いた。 「やれやれ、とんだ甲斐性なしですわねぇ」 てめえがそれを言うか! と叫びたい気持ちを燕馬はぐっと堪える。 この前、他でもないそのルーナサズ観光で、自分から散々巻き上げた女の言う台詞だろうか! とにかくそんな訳で、リューグナーとフィーアはルーナサズを訪れた。 フィーアがルーナサズに行きたいと思ったのには、理由があった。 燕馬達からの土産話で、ルーナサズには、ポータラカの八竜、ヴリドラがいるという話を聞いた。 そして、そのことを、ポータラカ人であるリューグナーが気にしていることに気が付いたからだ。 「どうしましたの?」 街を歩きながら、そわそわと周りを見渡すフィーアに、リューグナーは訊ねる。 「ヴルーアイズさんは、お祭にはいらっしゃらないでしょうか? ええと、そうですねえ、お城に行けば、会えるかもしれないですぅ」 「…………『ヴリドラ』と『青い瞳』をもじったんでしょうけど、そのアダ名は公言を控えるべきですわ」 リューグナーは、呆れたように言ったが、フィーアは話を逸らせなかった。 「一度だけ、一度だけでもウッソーはヴルーアイズさんに会ってみるべきだと思うですぅ」 「そのアダ名を聞いた反応見るためにですの?」 せせら笑ったリューグナーを、フィーアはじっと見た。 「前に来た時は、責められると思ったから、ツバメちゃんをダシにして逃げた。……違うですかぁ?」 「……くふふ、何のことかさっぱりですわ」 笑って誤魔化して、リューグナーは、さて祭に来たのなら卵岩ですわね、と話を逸らす。 城に行ってみようという誘いには、乗らなかった。 それでも、前回ルーナサズに行ったのは、そして今回ルーナサズに来たのは、と、そうフィーアは思う。 (そうですわね……。 もしも、もしもトゥプシマティ達を見かけたなら) ポータラカ人を目の前にしたヴリドラの反応に、興味が無いと言えば嘘になる。 前をよく見ずに走る子供を演じて、接触事故を起こしてみてもいい。 そんなことをリューグナーは考える。 (…………そう、これは興味本位に過ぎませんわ。 自分が、断罪を待つ罪人のように感じるのは、気のせい) 去年は、アスコルド大帝の崩御の為に祭は行われなかったが、今年行われる冬至の祭は結局、卵岩の上で直接篝火を焚くことになった。 「結局それかよ」 投げやりな処置だなとトゥレンは笑ったが、民や特に子供達には好評なようだ。 近づくことはできなかったが、篝火の場所からかなり離れたところに、トゥレンの龍が横になって寝ている。 祭には背を向けるような格好だったが、それでも衆目を集めていた。 櫓のようなものが組まれて、炎が高々と聳えている。 子供達が、篝火を囲んではやし歌を歌っていた。 トネリコ ハンノキ ヤナギ サンザシ 冬よ、早く去れ 春よ、早く来い ヒイラギ ハシバミ エニシダ ハコナギ 冬よ、早く去れ 春よ、早く来い 冬を追い払い、春を呼ぶ炎は、丸一日勢いを絶やさないよう、絶えず何処からか薪が投げ込まれていた。 「これもどうぞ」 薪の山からセレンフィリティとセレアナが一本ずつ拾うと、近くにいた人がリンゴを渡した。 「この棒に刺して、火の近くに刺しておきな。五分くらいで美味しく焼けるよ」 「ありがとう」 好意に礼を言って、そして二人は、リボンを結んだ薪を一緒に炎にくべる。 これからも、こうして一緒にいられるように。 願う祈りは、同じだった。 E N D 担当マスターより▼担当マスター 九道雷 ▼マスターコメント
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