リアクション
* * * * * あれから暫く。 調査という程の手間も必要無く、ミリツァの住居は判明したらしい。どういうからくりかと聞いてみれば、オルフェリアは「ふふふー」と得意げに笑って返した。 「へんたいさ――ミリツァさんのお兄さんのアレクさんが教えてくれたのです!」 もしかしてオルフェリアは軍の基地まで押し掛けたのでは、という可能性に考えが至った辺りで、二人はミリツァが姪らと同居しているマンションの玄関ホールに辿り着いた。 ファミリータイプのマンションのそれなりの大きさのホールには、オートロック式の為呼び出しのインターフォンが置かれていた。 「えーと503、503……」 予め聞いていた部屋番号をプッシュし最後に呼び出しボタンを押すと、程なくしてスピーカーから聞き覚えのある声がホール内に響いた。 「はい。どなた?」 「あっよかった。ミリオン、ミリオン、ミリツァさんおうちにいらっしゃいましたよ!」 「……オルフェリアね。今開けるわ」 ミリツァの呆れを含んだ声に、ミリオンは溜め息をついてしまう。 (オルフェリア様ってば住所は調べたのに、在宅かどうかは調べてなかったんですね。不在だったらどうするつもりだったのか……) 何だか会う前から気が重くなっていた。 * * * * * 5階の6号室。もう一度個別のインターフォンを押して、出てきたミリツァにオルフェリアが玄関先でがばっと抱きついた。 それは余りに突然な展開で、戸惑うミリツァからは異国の言葉が幾つも飛び出している。そんな動揺ごと抱きしめて、オルフェリアはまたも不敵に笑っていた。 「ふっふっふ……ミリツァさん覚悟ーなのでっすよー♪ ミリツァさんが離してって言っても離してあげないのでーす♪ でもでも、オルフェの事お友達って言ってくれたら離してあげるかもですよ? ほらほら、言って下さいですー♪」 「全く、何なのあなたは!」 「何ではないのですー、オルフェはミリツァさんのお友達なのですー♪」 「強引すぎるわ!」 「ミリツァさんとオルフェは、お友達♪ あとあと、ミリオンとミリツァさんもお友達♪」 周りの全て自分のペースに巻き込むオルフェリアのパワーに抱きしめられて、ミリツァはもう二つの意味であっぷあっぷしている。 「ちょっ……苦しい! もっ、もう分かったから、分かったわよ! 友達! 友達だから離して!!」 「オルフェリア様、それくらいに――」 怒濤の展開は終了し、客人らしくリビングに通されてハーブティーとお茶菓子を前にミリオンはソファの端に座っていた。反対側の端に座るオルフェリアとミリツァをサンドする形だ。 尤も、三人がけのソファの中でミリツァと数センチの距離を空けているミリオンと違い、オルフェリアはミリツァの腕にべったりくっついている。 「ふっふっふ、仲良しこよしさんなのですよー♪」 「オルフェリア、恥ずかしいわ」 「オルフェでいいのですよー。さあ、言って下さい!」 「いきなりそんな」 「練習なのです。さん、はい」 「…………オルフェ……」 言ってから口を片手で多い、下を向いてしまったミリツァの頭を「かわいいのですー♪」とオルフェリアが撫で回す。 ミリツァは悶えながらもそれを甘んじて受けているようだ。頬を引っ叩くという実力行使に出てまで、人との溝を作ろうとしていたあの頃からは考えられない変化を目にして、ミリオンは思った。 初めはオルフェリアの茶番に乗っただけのつもりだったのだが―― (意外な発見というのもあるものです) ミリツァとオルフェリアがああして居られるのは、この平和な日々は、あの戦いの日に自分達がミリツァを助けられたから存在するものなのだ。 (……壊すくらいしか能がなかった我にも、守れる物がある……のか。 強化人間の末路なんて、悲しい、寂しいものだと思っていましたが…… ……こんな展開で終わるのも、悪い物じゃ……ないな) 今までそれを気付けなかった自分自身に、情けなさも感じたが、それ以上にこれは有意義な発見だったのでは、とミリオンは考える。 「……まぁ、何が変わるわけではありませんが……」 二人には聞こえない程小さな声でそう呟いたミリオンに、ミリツァは顔を上げ視線を通わせた。 「……オルフェリアは」「オルフェ!」「オルフェはちょっと強引過ぎるとは思うけど――」 反対隣のオルフェリアを見て、同時に二人の顔を見られないからか、気恥ずかしいからか、ミリツァはカップへ視線を移して言った。 「あなた達が助けにきてくれた事は本当に嬉しかったのよ。 それであの時、二人が………………友達になってくれたらいいなと思ったわ」 「ミリツァさん〜!」 感極まったように飛びついたオルフェリアと、真っ赤になって悶えるミリツァ。 二人を見てると、ミリオンはなんとなく――こう思うのだ。 (自分にも希望があるような気がしてきますね)と。 オルフェリアと契約して今まで、本当に様々な出来事があった。その中で、ミリオンは彼女も知らぬうちに学び成長している。 日々の中でミリオンにとって守りたい物が、ちょっとずつ増えていた。 「……これはいい事……なのかもしれませんね」 きゃあきゃあと騒がしい二人の隣で一人静かに苦笑して、唇につけたカップを傾ける。 鼻先を抜けるカモミールの甘く優しい香りを心まで味わう様に、ミリオンは瞳を閉じた。 |
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