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ニルミナスの一年

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ニルミナスの一年

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年の瀬

「それじゃ私たちもそろそろ帰るわ。ツァンダで本業もあるし……もう、暫く来ることはないと思うわ」
 この間の事件の後始末を終え、リネン・エルフト(りねん・えるふと)は自分とヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)の周りに集まったニルミナス防衛団を前にしてそう言う。
「帰ったらすぐ年末の支度ね……やれやれ、今年は全然休めなさそうだわ」
 後始末に防衛団への『最後の訓練』をしていたらもう年末と言ってもいい時期になっていたとヘリワードは言う。
「……本当に、もうこれで最後なんでしょうか?」
 防衛団の男が不安そうにそう言う。
「もっと自信を持ちなさい……あの時だって、あたしは何もしてないわ。唯一つの提案であんたたちはうまくやれたでしょうが」
「それもへリワードさんの指揮があったからです。俺らだけでうまくやれたわけじゃありません」
「そうだとしてもよ。あたしたちがいなくても大丈夫なくらいちゃんと訓練してあげたでしょ」
 防衛団の泣き言にヘリワードはそう返す。
「ミナホちゃんと村を守ってやりなさい。次に来る時は敵同士かもしれないんだからね?」
「村長を……ですか」
 リネンの喝に防衛団の男は煮え切らない表情を見せる。
「なに? どうかしたの?」
「いえ……本当はお二人に相談したいことがあったんです。けど、そうですね。これに関しては俺達で答えを出そうと思います」
 これから先リネンとヘリワードに助力を求めることは出来ない。
「そう。……それじゃあ、最後に組手をしましょうか」
 本当に最後の最後の訓練がヘリワードの言葉から始まる。


 そうして、リネンとヘリワードの二人はニルミナスの地から去った。




「お使いって、村の人たちとかに配ればいいのかな」
 大きな袋を担いで悩むのは雲入 弥狐(くもいり・みこ)。パートナーに年末の挨拶をしてきてほしいと頼まれた弥狐は煙突がなくてどうやって家に入ろうかと悩むサンタのようだ。
「とりあえず村の人と……森のゴブリンやコボルトたちに挨拶してくれば大丈夫かな」
 そうきめて大きな袋を担いで一つ一つ村の家を弥狐は訪ねて行く。
「メリー……じゃなかった。今年もありがとうございました。よいお年をー!」
 挨拶の品として渡すのはカステラ。日本びいきのニルミナスでは比較的よく見るお菓子だ。
「村はひと通り回ったかな。次は森のほうかぁ」
 この一年は、彼らに大きくお世話になったなぁと思いながら弥狐は村を出て森へと向かう。
「……ジェスチャーで“今年”ってどうやればよかったっけ。うーん……」
 その答えを思い出せず挨拶の時になってゴブリンたちに教えてもらう弥狐だった。


「弥狐、ちゃんと挨拶出来てるかしら」
 つまみぐいしてないか心配だと思うのは奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)だ。
「……心配してても仕方ないわね。掃除しないと」
 苦笑して沙夢は掃除の手を動かす。
「穂波ちゃんに手伝ってもらっても良かったかしら」
 流石に店内すべてを掃除するとなると大変だ。大仕事は村の人に手伝ってもらっているため後は細々としたものだけだが。
 藤崎 穂波(ふじさき・ほなみ)はそんなネコミナスの大掃除の手伝いを申し出ていたが、それを沙夢は断っていた。今年の大掃除はできれば一人でやりたいからと。
「思い出してみれば、あのゴブリンと出会い、ここでの出来事が始まったのよね」
 心優しきゴブリンと出会い助け助けられした。それがニルミナスと森との沙夢たちの付き合いのはじまりだった。
(このお店も前村長にポロっとこぼした思いつきがきっかけだったかしら……)
 ニルミナスの村おこしを手伝う中、何気なく前村長に言ったことからこの御店は出来た。
 そのことを……前村長のことを思い出すと掃除の手が止まってしまう。
 そんな沙夢を彼女に付かず離れずしているネコたちが遊ぶのをやめて不思議そうに見ている。そんなネコたちを撫でて沙夢は気持ちを切り替えた。
「結果的に、私は何もできなかった。開き直って今は掃除を続けましょうかね!」
 後悔はある。自分は何も出来なかったのではなく『何もしなかった』のではないかと。けれど、だからこそ思う。
(来年からは変わらないとね)
 後悔はある。けれどこれ以上後悔を重ねないよう、沙夢は先へと進む決意をした。