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リアクション
二章 トランプの兵隊
戦火が大廃都を包みつつあった。
生い茂る針葉樹は火の手に包まれ、地を覆う腐葉土は紅蓮に燃え上がっている。
大気に無数の火の粉が舞い散る中――稲妻の如き唸りを上げて、契約者たちが駆るイコンが大廃都に降り立つ。
「た、助かった! 後は頼む!」
こちらの到着を確認した各学校のイコンが音声メッセージを送り、撤退を開始する。
懸命な判断だった。こちらが現地に入る前からイコン型機甲虫と戦っていた各学校のイコンは既に疲弊・消耗しており、これ以上の戦闘を続ければ破壊は免れぬ有様だった。
「イコン操縦赤点スレスレの人間がイコンで前線へって……どんな罰ゲームなのよ?」
そう嘆いたのは、クェイルに乗るセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
すかさず、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が冷静に突っ込みを入れる。
「言ってもしょうがないでしょ、それより1時の方向より攻撃よ!」
「ったく、こんな所で死んでたまるもんですか!」
クェイルが対峙したのは、コードネーム【ダイヤナイト】と名付けられたイコン型機甲虫だ。ダイヤナイトの周囲には円形の遠隔操作兵器が幾つも浮遊しており、その内の1つからレーザーが照射された。
「くぅっ!」
セレンフィリティはクェイルを左に跳躍させた。直後、膨大な熱量を伴う光の束がクェイルの右肩部を掠める。
若干、掠めただけだ。だと言うのに、右肩部を覆う装甲の一部が溶け落ちてしまっていた。
「右肩部装甲、融解! 気を付けて、コクピット付近に受けたらお終いよ!」
「そうは言うけど、きっついわよこれは!」
回避運動を取りながら、セレンフィリティはモニター上に表示される味方の情報を見やった。
ダイヤナイトと対峙する味方イコンは――無事だ。岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)と山口 順子(やまぐち・じゅんこ)が搭乗する閃電、湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)と高嶋 梓(たかしま・あずさ)が駆るウィンドセイバー、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)とリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が乗るゴスホーク。3体の味方イコンは高速機動による回避行動を取り、レーザーの射線から上手く逃れる事に成功していた。
ここで注目すべきはゴスホークの動きである。ダイヤナイトの動きや攻撃方法は、ゴスホークと明らかに似通っていた。
恐らく、ダイヤナイトは真司が駆るゴスホークを模倣したのだろう。形状こそ多少違うが、ダイヤナイトが操る遠隔操作兵器も、ゴスホークのレーザービットと性質が似通っている。
ならば、あの遠隔操作兵器は差し詰め【ダイヤビット】とでも言うべきだろう。無線誘導に従ってレーザーを照射するダイヤビットの射線から逃れるべく、クェイルは針葉樹を遮蔽物として利用、射線を僅かに逸らす事で回避を続ける。
味方の契約者が駆るイコンと比較して、クェイルはそこまで強力な機体ではない。本来であればダイヤビットの餌食となる運命だが、セレアナの【ディメンションサイト】による状況分析とセレンフィリティの【行動予測】、それらを組み合わせた強引な機動によりどうにかレーザーを回避できていた。
レーザーを一撃でも食らえば小破は免れない。セレンフィリティ自身、その辺りの事情はよく理解している。このクェイルは――多少の改造は施してはいるものの、決して強くはない。操縦者のセレンフィリティですら『この状況で自分の機体は足手まといなのではないか?』と思うほどだ。
だが。だからと言って、任務を放棄できるだろうか?
答えはノーだ。己自身のプライドに賭けて、そのような真似は絶対に出来ない。
「――今よ……!」
クェイルがレーザーをかわす中、ダイヤナイトに一瞬の隙が生まれた。ウィンドセイバーがウィッチクラフトライフルをダイヤビットに撃ち、閃電がダイヤナイト本体にバスターライフルを見舞ったのだ。
両機の連携に気を取られ、ダイヤナイトがウィンドセイバーと閃電にビットを向ける。すかさずセレンフィリティはウィッチクラフトライフルの引き金を引いた。魔力で構成された弾丸がダイヤビットを穿ち、破壊する。
ダイヤビット1機を破壊したクェイルは、続けてダイヤビットを破壊すべく、ウィッチクラフトライフルを連射した。
亮一がアルト・ロニア付近の戦闘に参加するのは、今回が初めてだ。
過去のデータを踏まえて考えるに、機甲虫は自己進化機能を備えた機晶ロボットで、件の白い機晶姫――サタディと言ったか――が全体の管制ユニットのようだ。あちらとしては自分達に設定された仕事を忠実にこなしてるだけなのだろうが、問答無用で攻撃される近隣住民にしてみれば大迷惑と言わざるを得ない。
(全く、厄介なモンを掘り起こしちまったよーだな)
せめて、あちら側に現在の状況を理解した上で交渉を持ち掛けて来る位の柔軟性が有れば良いのだが……ここまでの行動を鑑みるに、あまり楽観的な考え方は出来ないだろう。
それに加えて、今回の敵はイコンクラスの機体だ。相手がどんな思惑を持っていようと、迎撃するしかない。
相手に対する想像を一旦心の底に押し込むと、亮一はウィンドセイバーを加速。燃え盛る森の中を器用に移動しながら、ウィッチクラフトライフルの引き金を引いた。
同時に、ダイヤナイトの四方八方を飛び交う無数のビットが襲いかかる。ビットの中心部に莫大な熱量が集中し、レーザーが放たれる。
問題は無い。機晶支援AI【シューニャ】サポートを受けた梓がレーダー、赤外線探知、目視確認に加えて【ディメンションサイト】を使い、ダイヤナイトとビットの位置を把握している。
「亮一さん、11時方向と1時方向から来ますわ!」
後席に座る梓がビットの方角を伝える。梓が伝えたデータを考慮に入れ、亮一はウィンドセイバーを右に左に機動させた。
レーザーの射線から逃れつつ、ウィッチクラフトライフルを発砲。着実にダイヤビットを撃墜させていく。
「遠隔操作兵器ってのはどこから撃ってくるか判らなければ厄介だが、位置が暴露されてしまえばカウンターで対応されてしまう程度の物なんだぜ?」
亮一の声に応えるかのように、今度は閃電がバスターライフルの一撃を加える。重厚な響きを伴って発射された弾が、ダイヤナイトの右腕部を砕く。
「閃電へ! ビットがそちらに狙いを付けましたわ!」
「オーケイ、回避に専念するぜ!」
――事前に協力を打診しておいた伸宏の閃電とは無線通信で繋がっていた。梓が解析したデータを共有する事で、ウィンドセイバーと閃電は強力な連携を取る事に成功しているのだ。
無論、クェイルやゴスホークとの連携も忘れていない。なるべくクェイルに攻撃が集中しないよう適切な移動と攻撃を心がけ、ウィッチクラフトライフルでダイヤビットを破壊していく。ウィンドセイバーと閃電がレーザーに捉えられそうになった時は、ゴスホークがレーザービットを展開。相手のビットを撃ち抜くことでこちらの被害を減らしていった。
状況は有利だ。ダイヤナイト本体とビットの位置を解析しながら、梓が告げた。
「遺跡で眠ってた側としては、無断で入って来て遺跡内の物を勝手に持ち出されて機嫌が悪いのは判るけど……だからと言って無差別に実力行使って言うのは流石にやり過ぎだと思うんですよ。もうちょっとやり方を考えるべきでしたわね」
この調子なら楽勝――とまではいかないが、勝利は目前だろう。
誰もが勝利を予感したその時だった。周囲を飛び交っていた通常型の機甲虫が合体、身体を再構築し、新たなダイヤビットとなった。
「おい……冗談だろう?」
次々と通常型の機甲虫が合体していき、失われたダイヤビットの数を補填していく。同じようにしてダイヤナイト自体にも機甲虫が合体していき、損傷した部位をほぼ完全な形で修復した。
瞬く間に戦力を復活させた敵を前にして、亮一の顔が険しくなった。
「……面白い。だったら最後の最後まで、付き合ってやろうじゃないか……!」
一方、【ハートナイト】と呼称されたイコン型機甲虫にはマルコキアスが当たっていた。
マルコキアスは、源 鉄心(みなもと・てっしん)とスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)が駆る機体だ。真紅の機体の頭上、戦場の空にはペガサスに乗ったティー・ティー(てぃー・てぃー)が、更にその後方にはイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が【サラダ】に乗って待機している。
「イコンの戦場に生身でとか……危ないですの。アホですの……」
火の粉が舞い散る戦場の真っ直中、イコナがティーの身を案じ、心配げに呟く。
確かに今の状況は危険だ。だが、ティーは己の身を顧みず眠りの竪琴を弾いた。天使のレクイエムを奏でながら、ハートナイトに呼びかける。
「機甲虫さん、あなたたちが怒るのも分かります。私たち人類がお墓荒しみたいなことをしてしまったのは、申し訳ないと思っています。
でも、悲しいのは、アルト・ロニアの人たちも同じなんです……。これ以上傷つけ合っても、お互いの悲しみを増やすだけです。
――お願いです、争うのは止めにしませんか?」
アルト・ロニアと大廃都を巡る戦闘で、数多くの生命が失われた。失われた人たち、生まれてくる筈だった生命……それは機甲虫も同じだ。人も機甲虫も、多くの命が失われた。
これ以上の争いに何の意味があるというのだろうか? 血を吐きながらお互いを殴り合って、何が残るというのか?
ティーの歌声には、願いが込められていた。死者の魂が迷うことなく安らかに眠れるように、これ以上、傷つけ合って悲しみを増やすことのないように。両者の和平を求める願いが込められていた。
だが、ハートナイトはまるで応える様子が無い。聞く耳持たぬと言わんばかりに、ハートナイトはマルコキアスに視線を注ぐ。
しばしの間、マルコキアスとハートナイトは見つめ合った。互いに動きは無い。マルコキアスが新式ダブルビームサーベルの内1本を右手に握ると、ハートナイトもまた、杯型兵器を構えた。
ハートナイトは、『杯』を携えた人型機体だ。無論、ただの杯を携えている訳ではない。ハートナイトが手に持つ杯はエネルギー兵器の一種。エネルギーを直線状に伸ばし固定する事で、刀のように扱える。
いわば、ビームサーベルのような代物。差し詰め【ハートサーベル】とでも言ったところか。
恐らく、ザーヴィスチの武器を模倣したのだろう。ハートナイト自体の形状もザーヴィスチと酷似している。
――模倣。それは、技術の向上には欠かせない行為だ。
しかし、それだけでオリジナルを上回るのは難しい。高まる緊張を和らげるため、鉄心は深く息を吸った。
相手にも事情がある。説得できる可能性がある内は、防衛の為に必要最低限の武力行使のみで留めたいところだが……ティーの呼びかけに応じない以上、それは難しい事だろう。
「……さて、お手並み拝見させてもらおうか」
鉄心は息を吐くと、マルコキアスを前方に踏み込ませた。踏み込むと同時、ビームサーベルにエネルギーを集束させ、刀身を作り出す。
相対するハートナイトもまた杯を構え、赤く輝くエネルギーの刀身を発生させる。瞬く間に距離を詰めたマルコキアスがビームサーベルを振るい、ハートナイトもハートサーベルを振るった。
両者のサーベルの刀身が激突し、エネルギーの渦を引き起こした。接触箇所を中心として幾筋もの稲妻が迸り、燃え盛る戦場を白光に染めていく。
マルコキアスとハートナイトとでは相当のサイズ差がある。このまま鍔迫り合いを続けても出力負けする可能性が高いだろう。
「絡め手を受け取って貰おうか……!」
瞬時に判断を下した鉄心は、マルコキアスの左腕に装備していた超電磁ネットを射出した。サイドアームではあるが、こういった場面では有効だ。
高圧電流が流れる投網がハートナイトを捉える。が、ハートナイトは素早くスラスターを噴射すると、その場から離脱。上手く超電磁ネットから逃れる事に成功する。
「機動力と反射速度はかなりのものでござるな。ザーヴィスチそのものではなくても、それに近い性能は持っているようでござる」
過去の戦闘データを参照したスープが告げる。出撃前は『何で拙者が……遺恨は苦手でござるんよ』とジョーク(?)を言っていたスープではあるが、こうも緊迫感ある戦場ではやや険しい響きを伴っていた。
「それだけ分かれば十分だ」
こちらも、機動力にはそれなりの自信がある。鉄心はマルコキアスの肘に装備したスタングレネードの存在を考慮しつつ、ハートナイトに向け少しずつ前進していった。
――先ほどの絡め手を警戒しているのだろうか? ハートナイトは円を描くようにして移動し、マルコキアスと一定の距離を保つよう位置を調整している。
(試してみるか……)
鉄心はビームサーベルのスイッチを切った。ビームで構成された刀身が消失し、静寂に消えていく。
ハートナイトもまた、サーベルのスイッチを切った。真紅に輝くエネルギーの刀身が、杯の内側へと消えていく。
やはり、と鉄心は思った。どうやらハートナイトは、こちらの動きを模倣しているようだ。
(機甲虫は、イコンの扱い方に慣れていない……)
ハートナイトの今の状況は、いわば新兵が高性能イコンを操縦しているようなものだ。
如何に高い性能を持つイコンと言えど、中身が未熟では真価を発揮できない。
鉄心は、サーベルのスイッチを切ったままマルコキアスを踏み込ませた。
ダイヤナイト、ハートナイトと多少距離が離れた場所で、ノイエ13と【クラブナイト】が対峙していた。
ノイエ13はサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)とシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が搭乗する機体だ。燃える針葉樹を遮蔽物として扱いながら、ノイエ13とクラブナイトは慎重に距離を探っていく。
クラブナイトは、イコン型機甲虫の中でも一際巨体を誇る機体だった。サイズ・形状共に、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の魂剛に酷似している。恐らくは魂剛を模倣した機体なのだろう。
実際の性能は不明だが、手にした巨大な棍棒――【クラブメイス】とでも呼ぶべきか――から察するに、パワーで押し切るタイプであろう事は想像できる。
「シームルグぐらいの性能はありそうだな。サビク、何か分かるか?」
「明らかにパワー重視の構成だね。機動性では13(ドライツェン)の方が上だと思う」
シリウスの問いに答えると、サビクは続けてこう付け加えた。
「だけど前回までの戦闘データを見る限り、機甲虫には元々強力な機能が備わってるみたい」
「レーザーやステルスだったか? サビク、警戒は怠るなよ!」
前回までの戦闘は資料として纏められており、サビクとシリウスはそれを読んでいる。機甲虫はレーザーやステルス機能の他、自己進化や合体機能までも備えている、極めて厄介な相手だ。
しかし、機甲虫自体の『正体』は資料には載っていない。大廃都から発掘されたとはあるが、機甲虫が何に属しているか、誰によって作られたのか、何も記されていないのだ。
――もしかしたら機甲虫は、機晶テクノロジーとは違う系統に属する生物なのかもしれない。
シリウスは、情報の本質を読み取る【エセンシャルリーディング】の効果によって真実の一旦に辿り着いていた。具体的な証拠は無い。無いが――どうも機甲虫は機晶系統とは違う物に思えたのだ。
恐らく、機甲虫は古王国時代の遺物だろう。機晶姫と同時期に作られたのも、間違いない。だが、機晶テクノロジーと異なる根本的な異質さが機甲虫にはあった。
(どうも妙な感覚だぜ……!)
例え様の無い感情がシリウスの胸中に募っていく。それはサビクも同様であったのか、心の奥底に溜まる感覚を払拭すべくバスターライフルの引き金を引いた。
強烈な振動がノイエ13に走り、バスターライフルから弾が発射される。火の粉舞い散る宙を引き裂き飛来する弾を、クラブナイトは防御した。
文字通りの防御だった。クラブナイトは回避する素振りも見せず、左肩を覆う装甲板で弾を受け止めたのだ。
重い衝撃が空間に伝わり、装甲板の一部が大きく凹む。と同時にクラブナイトが踏み込んだ。背面のスラスターを噴射し、強引に距離を詰めてくる。
「うおっ、とぉ!」
「つっ……!」
クラブナイトがクラブメイスを振りかぶる。サビクはノイエ13のスラスターを横に噴かしてメイスをかわすと、至近距離からバルカンを発砲した。
弾の雨が標的の頭部に降り注ぎ、クラブナイトのセンサー類を破壊する。
勿論、これだけで終わりはしない。バルカンは牽制。本命はブレイドによる斬撃だ。
「これでも――」
「――食らいなっ!」
ノイエ13が片方の手で新式コーティングブレイドが振るう。鋭く放たれた斬撃がクラブナイトの頭部を撥ね飛ばした。
通常のイコンであれば、この時点で勝敗の大半が決していただろう。だが相手は機甲虫――進化と合体機能を備えた敵だ。
「来る……!」
殺気を看破したサビクが呟いた直後、クラブナイトは背面スラスターを噴射。零距離からこちらに突っ込んできた。
スラスターによる機動を活かした、強引な突進だ。クラブナイトの体当たりを受け、ノイエ13が突き飛ばされる。
「13(ドライツェン)を舐めて貰っちゃ困るよ!」
負けじとノイエ13はスラスターを噴射、クラブナイトの突進とは『軸』をずらす。体当たりによる衝撃と負荷から逃れたノイエ13がすれ違い様にブレイドを振るい、金属音を奏でつつ、クラブナイトの左腕を斬り落とす。
クラブナイトは――健在だった。周辺を飛び交う通常型の機甲虫がクラブナイトの頭部と左腕に集まり、合体。新たな頭部と左腕を形成し、クラブナイトと一体化したのだった。
サビクは眉をひそめた。敵の機動力はさほどではない。だが、相手は合体・再生によるタフさを活かし、『肉を斬らせて骨を断つ』つもりなのだ。
「上等! 最後まで付き合ってあげるよ!」
サビクは己の魂を滾らせると、クラブナイトとの格闘戦に挑んだ。
ホワイトクィーンを護衛する最後の一機、【スペードナイト】の担当は湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)と葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)だ。
忍が搭乗するはらいでん、吹雪らが駆るはストーク強行偵察型だ。
「後方から援護する! 頼むぜ、吹雪!」
「了解であります!」
【スペードナイト】の形状はストークに酷似している。至る所にスラスターを装備しており、両刃の剣を持っている。
資料によると、前回の戦闘でルカルカ・ルー(るかるか・るー)がストーク系列の機体を使っていたはずだ。ならばこの機体は、ストーク系列の機体を模倣していると考えた方がいいだろう。
恐らくは近接戦闘を前提とした機体だ。そう踏んだ忍と吹雪は、スペードナイトと距離を保って戦闘を開始した。
前衛はストーク強行偵察型、後衛はらいでんだ。吹雪が駆るストーク強行偵察型は機動力を活かしてスペードナイトの周囲を移動、攪乱する。相手の注意がストーク強行偵察型に向いたところで、らいでんはショルダーキャノンを撃ち放った。
ズン、と重い振動が伝わり、砲弾が発射される。大気を引き裂き放たれた砲弾は、しかし回避された。
砲弾が命中する寸前で、スペードナイトがスラスターを噴射。素早く横に移動し、ついでとばかりに剣を振るう。
「つぅっ……こいつはきついでありますね!」
ストーク強行偵察型はスラスターを噴射し、剣をスレスレでかわす。
スペードナイトは明らかな機動力重視の機体だ。機動力だけを見れば、ストーク強行偵察型とほぼ互角だろうか。
やや不利な状況を考慮してか、空中よりリネン、ヘリワードらが駆け付けた。
「忍、吹雪! 援護するわ! 衝撃に備えて!」
空中から投下された爆雷がスペードナイトの周囲に命中、爆炎と衝撃波を撒き散らす。
スペードナイトはと言うと、またもやスラスターを噴射、爆雷の回避に成功していた。が、空気を伝わった衝撃波に煽られ、スペードナイトがよろめいた。
スペードナイトの無機質な頭部がリネンらに向く。狙いをリネンらに変更したのだ。
「おっと、お前の相手はこっちだぜ!」
リネンらが時間を稼いでいる間にチャージを完了したらいでんが機晶ブレード搭載型ライフルを発砲、機晶エネルギーの弾丸がスペードナイトの頭部を粉砕した。
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