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平行世界の人々と過ごす一日

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平行世界の人々と過ごす一日
平行世界の人々と過ごす一日 平行世界の人々と過ごす一日

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 午後、空京の街。

「まさかまた会えるとは思わなかったわ」
「そうね(……自分だけどやっぱり格好いいなぁ)」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は平行世界の自分と遭遇し終えて仲良く歩いていた。ちらりと見る平行世界のりりしい横顔に共闘した時の事を思い出される。
「こちらに来た時は驚きましたわ」
「いきなりでしたものね」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は溜息を吐く平行世界の自分に言った。事情を知らずに突然呼び出された二人を発見するなりこちらのさゆみ達は急いで原因を伝えたのだ。
「前は状況が状況だけにゆっくり話す時間は無かったけど、今回はたっぷりとあるから、観光しながらどう?」
 さゆみは改めて誘った。同化現象騒ぎで出会うも共闘だけでゆっくりと話す機会はこれが初めて。
「そうね」
 軍人さゆみはこくりとうなずいた。
「まずはこちらからね。実は私とアディは空京大学の学生とアイドルをしているの」
 さゆみは自分達の職業を明かした。
「……アイドルと学生を」
 一瞬だけ軍人さゆみは驚きを見せるもすぐに引っ込めた。
「それは大変な事でしょう」
 軍人アデリーヌが気遣いげに言った。
「……大変ですけど、何とか両立していますわ」
 アデリーヌはほのかに笑みを浮かべながら答えた。
「ただ、忙しくてこうして休みを取れるなんて奇跡みたいなものよ」
 さゆみは溜息混じりに大変な毎日に肩をすくめるのだった。
「それは申し訳なかったわね。貴重な休みに」
 軍人さゆみは申し訳なさそうに言った。その口調も以前通りきびきびしたものだった。
「いいのよ。奇跡に奇跡が重なってお得な感じだから」
「そうですわ。とても良い休日になっていますから心配は無用ですわ」
 さゆみとアデリーヌは笑みで軍人さゆみの言葉を打ち消した。
 ここからさゆみとアデリーヌはそれぞれ平行世界の自分と会話を弾ませる事に。
「それでそちらの私は何をしているの? 軍人というのは分かるけど」
「そうね。見ての通り軍人で階級は少佐ね」
 さゆみは改めて訊ねると軍人さゆみは調子を変えず、階級を答えた。
「……少佐って、エリートじゃないの!!」
 階級を知ったさゆみはあまりの事に声高く驚きを混ぜて隣にいる平行世界の自分を改めて頭ら足の爪先まで見た。
「それほど驚かなくとも。私はただ軍人としてやるべき事を全うし続けているだけ」
 軍人さゆみが返す言葉はやはり軍人らしいりりしさと落ち着きのあるものであった。普通ならさゆみの驚きに気をよくしてもいいのに。
「……そう(本当に軍人ね)」
 落ち着き払った様子にさゆみはやっぱり軍人だと納得するのだった。返答に無駄が無いというか。
「……一つ、聞きたい事があるんだけど、いい?」
 ふとさゆみはある質問を一つ閃いた。
「私に答えられる質問であれば」
 と軍人さゆみは言った。
「実は私、絶望的方向音痴でよく迷子になったりするんだけど……その、あなたもそう?」
 さゆみが知りたかったのはこちらと同じように絶望的方向音痴かどうかという事。
 しかし、
「軍人が方向音痴じゃどうにもならないわよ。迷子になっていつの間にか敵地なんて洒落にもならないもの」
 軍人さゆみの答えはさゆみを一層落ち込ませるものだった。
「…………そう、方向音痴じゃないのね。はぁ……私の方向音痴、どうやったら治るのかしらね……」
 少ししょんぼりと肩を落とし、ぼそりとつぶやくさゆみ。格好いい少佐というだけでも十分なのに方向音痴ではないとは欠点など見当たらず落ち込まずにはいられない。
「そこまで落ち込まなくとも」
 さゆみの落ち込みように軍人さゆみは優しく声をかけるも
「……はぁ。やっぱり、世界は違うのね」
 溜息しか出てこないさゆみ。
 その姿を気の毒に思ったのか
「……実は……私、歌が下手なのよ……それがコンプレックス」
 軍人さゆみは小さな声で自身のコンプレックスを打ち明けた。実はさゆみがアイドルをしていると言った時に驚きを見せたのはここによるものだったりする。
「えっ?」
 さゆみは予想外の打ち明け話に思わず声を上げていた。

「……(外見は同じでも中身は違いますわね。同じ自分のはずですのに……やっぱり軍人だから?)」
 アデリーヌは隣の軍人アデリーヌの横顔を見て考え事をしていた。その考えは少し翳りがあった。
「どうかしましたか?」
 視線に気付いた軍人アデリーヌが心配して訊ねた。
「……いえ、以前共闘した時の事を思い出して……強さを見せられた事を」
 アデリーヌはそろりと少し思い悩んでいた事を打ち明けた。共闘した時の戦闘の強さだけでなく精神的な強さを見せつけられた事を。
「強さ?」
 軍人アデリーヌは予想外の事だったのか聞き返した。
「えぇ、精神的強さ、わたくしにはありませんもの」
 アデリーヌは自身がどちらかと言えば内向的で精神的に脆くとても傷つきやすい部分があることを自覚しているため余計に軍人アデリーヌにコンプレックスを感じていた。
「……そうかしら。わたくし、自分が精神的に強いとは決して思ってはいませんわ。ただ……」
 軍人アデリーヌは静かにアデリーヌの言葉を否定した。
「ただ?」
 今度はアデリーヌが聞き返した。
「そう見えるのは、きっと守りたい人がいるからですわ。その人を守りたいという思いがそうさせているのかもしれません」
 ゆっくりと答えた。アデリーヌの心に伝わるように。
「……守りたい人」
 アデリーヌは反芻するなり、お喋りに興じるさゆみに目を向けた。自分が最も守りたい最愛の人に。