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平行世界の人々と過ごす一日

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平行世界の人々と過ごす一日
平行世界の人々と過ごす一日 平行世界の人々と過ごす一日

リアクション

 午後、空京の公園。

「前回は戦闘中であまりゆっくり話が出来なかったけど今回はゆっくり出来そうね」
 医学生ゆかりは水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)の茶会の準備を手伝いながら話しかけた。本日の朝、出会うなりゆかりの提案で午前中に準備をして平行世界の自分達に平和なこちらの世界を見て貰うために空の下で茶会をする事になったのだ。
「えぇ。騒ぎを起こしたのが顔見知りの子達だけど、差し迫った状況でもないし」
 ゆかりは自作のケーキを人数分切り分けながら言った。今回の騒ぎの原因が顔見知りの双子と知るなり呆れたのは言うまでもない。
「こうしてゆっくり会う機会があるとは思わなかったわ」
 平行世界マリエッタは親しげにマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)に話しかけながら人数分のカップを並べていく。
「……ありがとう(長身で完璧なプロポーション……グラビアクイーンね)」
 マリエッタは並べられたカップに紅茶を淹れながら170cmを超える完璧なプロポーション美女に内心溜息をついていた。
「そちらは医者を目指しているそうだけど大変そうね」
 ゆかりはケーキを食べながら何気ない話題にと互いの仕事を挙げた。
「えぇ、毎日論文や発表の準備や勉強に追われるばかりでこうしてゆっくり過ごすのは珍しいわ」
 医学生ゆかりはケーキを食べながらほぅと息を吐きながら言った。
「そんなに大変なのね」
 上映会でどれだけ大変なのかは知っていたが、見ると聞くとは大違いだと思った。
「でも充実はしているわ。子供の頃の夢を叶えるためだもの。あの時の憧れを今自分の手で現実にしようとしていると思うと負けられないと頑張れるの」
 医学院生ゆかりは近付く未来に目を輝かせながら。近所の小児科医の女医に憧れて医者になる夢を持った幼い少女は今大きくなってその夢を叶えようとしている。
「……そう。凄いわね」
 ゆかりは素直に感心した。
「そんな事はないわ。あなたはどうなの?」
 今度は医学生ゆかりがこちらの自分の様子を訊ねた。共闘した時は互いを知る時間は無かったので。
「私もあなたと同じ夢を持っていたけど様々な事情で諦めて国立大学の法学部を選んでそのまま官僚コース一直線だったんだけど、マリーと契約して別の道を歩む事になって、それが軍人なの。本当に思いもよらなかった道よ」
 ゆかりは喉を潤しながらこれまで歩んだ自分の道を振り返りながら話した。
「……軍人というのは予想外だけど誇りある仕事ね。人のために守ったり戦ったりする仕事よね。そこは医者と似ているわ」
 医学生ゆかりは少しばかり驚きつつもどこか得心していた。よく考えると人の命を救う医者と人のために守ったり戦ったりする軍人、違うようで同じ。多くの命を守るというのは。
「そうね。あなたとは異なる道だけど自分が選び取った道だから後悔はないわ(……後悔はないか……本当は言い切れないかもね。時折こうして、自分の選択が正しかったか迷う時があるし)」
 ゆかりはうなずきながらも胸中では考え事をしていた。
 そのため
「医者になったらきっと自分の選択が正しかったのかと思い悩む時が来るかもしれない。もしかすると後悔する事になるかもしれない」
 ゆかりは真剣な面持ちで未来を見据えている医学生ゆかりに願いを綴る。
「……」
 医学生ゆかりは静かに耳を傾けている。
「だけど絶望はしないでね。難しい事かもしれないけど、自分で決めて選び取った道を全うして欲しい。最後まで希望を持って」
 ゆかりはそう話を括った。この機会が何度も訪れるとは思えないため伝えたい事は出来るだけ全部伝えたかったのだ。
「ありがとう。必ず医者になるから」
 自分からのエールをありがたく頂いた医学生ゆかりは笑顔で言い、一層医者になる事を強く決意しているようであった。
「どういたしまして。お茶のおかわりはどう?」
 ゆかりは真剣な表情を崩し、お茶のおかわりを訊ねた。
「えぇ、お願い」
 医学院生ゆかりはいつの間にか空になったカップを差し出した。

 一方。
「こうして自分と過ごすなんてやっぱりおかしな感じね」
 平行世界マリエッタはケーキを食べながら親しげに話しかけた。
「……そうね。そちらの世界ではどんな感じ? 仕事は大変?」
 マリエッタはカップを手に何気なく訊ねた。
「大変だけど、やりがいはあるわ。こちらはどう?」
 平行世界マリエッタは溜息を吐きながら。
「……いろいろと大変よ。前にも思ったけど凄いわね。グラビアクイーンなんて」
 マリエッタは自分の事はさらりと答え、相手の話題に移す。
「そんな事ないわ。あたしはまだまだよ。むしろもっと頑張らないといけないくらいよ。あたしよりずっと実力のある人はたくさんいるもの」
 平行世界マリエッタは向けられた褒め言葉には調子に乗らず、軽く頭を左右に振った。仕事に対して誇りと謙虚さを持っている事は一目瞭然。
「……そう(プロポーションだけじゃなくて性格も良くて自分に驕らないタイプなんて……負けてる、完璧に)」
 外見だけでなく性格まで完璧と知るなりマリエッタのコンプレックスは大いに刺激されますます元気を失いしょんぼり。
「……さっきから顔色が優れないけど、具合が悪いの? それとも何か悩み事でもあるの?」
 様子のおかしいマリエッタを心配した平行世界マリエッタが気遣いげに言葉をかけた。
「……同じマリエッタなのにどうしてこんなに格差があるのかなと思って。プロポーションも良くて性格だって……それに比べてあたしなんか見た通りの中学生体型……」
 マリエッタは残念だと感じている体型を見下ろしながらぼそぼそと平行世界の自分を知ってから抱いていた思いを言葉にした。
「……人って他人の魅力にはよく気付くけど自分の魅力には鈍感なもの。あなたは自分の事をそう思っているみたいだけどあたしはそうは思わないわ」
 平行世界マリエッタは優しい笑みを浮かべた。
「……優しいわね」
 マリエッタは口元に笑みを浮かべた。その笑みには自分を卑下している気配があった。
 それを感じた平行世界マリエッタは
「慰めや同情じゃないわ。会ったのはほんの少しだけど。あなたがどんなに素敵な人か知っているわ。そう思ったのはあなたがそういう人だから」
 言葉を選びつつも相手に正しく自分の思いが伝わるよう迷いの無い力強いものだった。共闘した時の事やこうして過ごしている時の事を思い返しながら。他人であって他人ではない自分だからこそ感じる事もある。
「……」
 マリエッタはカップの水面に目を落としながら静かに話に耳を傾けている。
「つまりね、人を羨むよりそのままでいる方が何百倍も魅力的よ。そんな顔しないで今日は二つの世界の自分が交流する特別な日なんだから、笑顔、笑顔」
 先程の真剣な調子から打って変わってフランクなお茶目な調子で言うなり笑顔をマリエッタに向けた。その笑顔は思いやりと優しさに満ちたものだった。
「……そうね」
 優しいその笑顔にマリエッタは顔を上げ、笑顔を浮かべた。可愛くてチャーミングな笑顔を。
「そうよ。そうしている方が素敵よ。しょんぼりしなくても今のままでも十分魅力的なんだから」
「ありがとう」
 平行世界マリエッタの優しい言葉に礼を言うなりマリエッタはケーキを頬張った。