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平行世界の人々と過ごす一日

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平行世界の人々と過ごす一日
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 朝、イルミンスール、カフェテリア『宿り樹に果実』。開店前。

「全くあの二人は懲りずにろくでもない事を……」
「ですわね」
 今回の騒ぎを知るなり涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は顔見知りの犯人に呆れていた。
 とにもかくにも店は開店し、平時と変わらず営業が行われた。

 時間は進み、昼少し前、通り。

「今度はどこに行きますか?」
「次は……時間もちょうどいい時間だから……」
 包容力に溢れる青年ミリアムと行動派の涼香のフォレスト夫妻は仲良く腕を組みながら歩いていた。実はこの二人こそ涼介とミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)の平行世界の姿である。
「あそこはどうかな。ミリアムさんのお店にそっくりだし」
 涼香は少し先にあるカフェテリアを指し示した。本日涼香はフィールドワークはせずにミリアムと普通にデートを楽しんでいた。
「では、早速入ってみましょう」
 ミリアムも即賛成し、カフェテリア『宿り樹に果実』に入店した。

 カフェテリア『宿り樹に果実』。

「いらっしゃいませ、『宿り樹に果実』へようこそ。本日はテラス席がお勧めですよ」
 看板娘のミリィと母親は来店したお客を元気に迎えた。
 そのお客は
「是非お勧めのテラス席をお願いします。いいでしょうか、涼香さん」
「えぇ」
 仲良く腕を組んで来店したミリアムと涼香だった。
 ミリィは二人をテラス席に案内した。
 その後ろ姿を
「……まさか彼らがここに来るとは思わなかったなぁ」
 コーヒーを入れながら涼介は静かに見送っていた。
「せっかくの機会だしおもてなしをして楽しい時間にしたいな」
 涼介は作業をしながらつぶやいた。
 そこに空になった食器を手に妻が現れ、平行世界の自分に驚いた事や涼介達の話の通りだと微笑んでいた。妻は妊娠しているため負担が掛からない範囲で仕事をしていた。無理をすると家族に怒られるので。当然涼介のおもてなし作戦にも大賛成した。
 すぐに涼香達の案内を終えたミリィが戻って来るなり、案内と一緒に受けた注文を伝えるなりミリィは作業に入った。
「……平行世界のお父様達に喜んで頂ければいいのですが」
 『調理』を有するミリィは心を込めて注文が入ったフルーツタルトなどを美味しく作った。
 それから飲み物と一緒に運んだ。

 一方、料理を待つ二人。
「涼香さん、いましたね……性別が反転しているとは思いませんでしたが」
「そうだね。ミリアムさんが女性だったのは驚いたよ」
 ミリアムと涼香もこちらの世界の自分達の存在に気付いていた。
 しばらくし注文した料理は運ばれて二人は仲良く食べた。
 ただ食べるだけでなく
「なかなか美味しいですね。出来れば自分の店に出したいですね。どのように作ったんでしょうか?」
「もう少し工夫を入れたらもっと美味しくなるかも」
 ミリアムと涼香はあれこれ食べた物を褒めたりここをこうすればいいなどと真剣に話し合っていた。
 その様子を
「……(性別は違いますが、性格はほとんど一緒みたいですね)」
 仕事をしながらミリィはクスリと笑みをこぼしつつ見ていた。こちらでも涼介達に自分の料理に関して助言や褒め言葉を貰ったりしているから。

 昼食が少し過ぎた後。
「……ようやく一段落。今日はこれでおしまいにして彼らと一緒に過ごそうかな」
 涼介は妻と娘に言った。平行世界の自分達以外の客がようやく帰ったのだ。
「賛成ですわ。何か追加でお菓子と飲み物を用意しますわね」
 ミリィは賛成するなりお喋りを弾ませるためにと準備に入った。
「頼むよ。私は看板を」
 涼介は来客が来る前にすばやく看板を“クローズド”にしに行った。
 その後、飲み物とミリィ作のお菓子を持ってこちらのフォレスト夫妻とミリィはテラス席に行った。

 テラス席。

「こんにちは、よく来てくれたね。私は涼介・フォレストだ」
 涼介と妻は挨拶と共に自己紹介をした。
「よろしく、こちらは涼香・フォレスト」
「ミリアム・フォレストです。同じく向こうで『宿り樹に果実』を経営しています」
 平行世界のフォレスト夫妻も名乗った。
「初めまして、ミリィ・フォレストですわ。未来から来た娘です」
 最後にミリィが名乗り、お茶会が始まった。
「まさか会えるとは思わなかったよ」
 涼介が率直に言った。存在は知っていたがまさか出会えるとは思いもしていなかったので。
「あちこち歩き回っていた時にミリアムさんのお店と似たお店を発見して気になって入ったら」
「こうして貴重な出会いに遭遇する事が出来ました」
 涼香とミリアムはここに来た顛末を簡単に説明した。
 この後、あれこれと互いの日常やパートナーとの馴れ初めなど他愛もない話をとめどめなく続けた。
「あちこちフィールドワークで充実した毎日を送ってるけどミリアムさんに迷惑を掛けてばっかりで」
 涼香は自分の仕事を散々話した後、肩をすくめながら隣の旦那様に申し訳なさそうな顔をした。
「いつも言っていると思いますが、迷惑を掛けられているなどと思っていませんよ」
 ミリアムは包容力に溢れる笑みを浮かべるばかり。
「……これだからついつい甘えてしまって」
 涼香は軽く口を尖らせるも頼りになる旦那への愛しさと幸せに満ちていた。完全に惚気である。
「本当に仲がいいんですのね。性別は違うのに……何か面白いですわ」
 ミリィはカップを片手に今の様子や先日の上映会の事を思い出してクスリ。その横では妻までもが笑っている。
「……二人共。でも、結局性格がほとんど似ているから考えの根底も似てるのかも(私が目指すべきところは『困ってる人がいたらそれを救うことができる魔術師』、それを目指して通る道は違え努力をしてるんだなぁ)」
 妻と娘にぼやいた後、涼介はお菓子を食べながら言った。内心涼香に聞いた多くのフィールドワークを思い出しながら。
 そして
「……気になったんですが、もしかして……」
 ミリアムはこちらの自分にお腹の膨らみに気付いた。
「その通りだよ。父親になるんだ」
 涼介は微かに笑みを浮かべながら答えた。
「それは嬉しい事ですね。早いですが、おめでとうございます。ただ少しばかり複雑ですが」
 ミリアムは祝いの言葉を述べるものの複雑な表情をした。何せ相手は自分だから。
「食べたフルーツタルト、とても美味しかったよ」
 涼香はここで食べたフルーツタルトの感想を口にした。
「ありがとうございます。そう言ってくれると嬉しいですわ」
 作り手であるミリィは嬉しそうに礼を言った。
 この後もたっぷりとお喋りをしたところで
「……随分、お喋りをしたせいかお腹が空いたんだが、そちらはどうかな?」
 涼介が平行世界のフォレスト夫妻に訊ねた。時間はあっという間に夕方少し前になっていた。
「そうですね。もうお菓子もお茶も無くなってしまいましたね」
 ミリアムは尽きた飲食物を確認すると同時に空腹も感じていた。
「だったら一緒に料理でも作らないかい? もうそろろ夕食も近いし」
 涼介は料理に誘った。
「是非!」
「手伝いますよ」
 涼香とミリアムは大賛成。ミリアムの料理の腕はカフェの主として言うまでもなく涼香の魔法と料理の腕前はこちらの涼介と同じだ。
「わたくしも手伝いますわ」
 ミリィも参戦。
 そして、賑やかなお料理の時間が始まった。
 『調理』を有する涼介やミリィと腕利きの料理人が集まっているため作り出された料理はどれもこれも美味しい物だった。
 その美味しい物を食べながらまたお喋りに花を咲かせた。