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「ハルカ、遊びに来ましたわ」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)がイルミンスールのハルカのところに遊びに来た日、ハルカはバレンタインに向けて、家庭科室の予約を取っていた。
「あら、構いませんわよ。見ておりますわ」
 エリシア自身は、バレンタインに縁も関心もなかったが、頑張るハルカの邪魔をする気はないし、応援してあげようという気はある。
 家庭科室の広い調理台は、主に一つにつき二つのグループが共有していて、ハルカのいる調理台にも、綾原さゆみアデリーヌが材料を並べていた。
「ガトーショコラを十個? それを一人で作るんですの?」
 大量の材料を用意している生徒は、珍しいというわけでもなかったのだが、それでも、調理台に材料を山のように積み上げるハルカから話を聞いて、エリシアは目を丸くした。
 はい、とハルカは頷く。
 去年は、ハルカの料理の師匠であるブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、レシピを考え、材料も揃えてくれた。だが、今年は。
「ブルさんにもあげたいので、ブルさんにお手伝いをお願いしたくなかったのです」
「成程。では、頑張りなさいな」
 雑用や簡単なことなら手伝ってあげてもいいか、と思いつつ、ハルカが一人で頑張ることに意義があるのだろう、と、エリシアは見守ることにする。
「終わったら、お茶にしましょう。……それ、わたくしの分も、あるのかしら」
「勿論なのです!」
 では、完成を楽しみにしていますわね、とエリシアは言った。


「紅茶ありがとうなのです。とっても美味しいのです」
「我ながら、このケーキに良く合うお茶ですわね。ケーキも、とても美味しいですわ」
 最高の紅茶を用意して、その風味に満足し、ハルカの作ったガトーショコラを早速頬張りながら、エリシアは、パートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)とその愛妻環菜の子供が誕生したことをハルカに報告した。
「そうそう、陽太と環菜の娘が、ついに生まれましたのよ」
「わあ! おめでとうなのです!」
 ハルカの顔が輝く。
「母子共に健康な様子で、安心しましたわ。陽太も今は顔が綻びっぱなしですのよ」
 そう言うエリシアも嬉しそうで、ハルカも嬉しくなる。
「女の子なのですね」
「名前は、陽菜、といいますの。
 今、一時的に空京に家を構えて暮らしていて、わたくし達も同居していますの。
 ハルカも良かったら、遊びに来てくださいませ。連絡をいただければ、迎えに参上いたしますわ」
「絶対に行くのです」
 バレンタインのケーキを持参して、明日にはオリヴィエに面会に、空京に向かうことになっている。
 その後で、イルミンスールに戻る前にきっと行く、とハルカは約束した。

 お祝いのプレゼントは何にしよう、とハルカはうきうきと話す。
 赤ちゃんにはぬいぐるみにしよう、陽太と環菜へは、と、考えるのはとても楽しい。
「抱っこはさせて貰えるのです?」
 どきどきと訊ねたハルカに、エリシアは首を傾げる。
「まだ、一月経たないですし……どうでしょうか。その日の様子を見て、ですわね」
 楽しみなのです、と、ハルカは微笑んだ。




――――――――――――――――――――――――――――――― 家族が増えました。