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春はまだ先

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 空京にて服役中のオリヴィエ博士に面会に行く為に、ハルカを迎えに行く約束をした日は、明日だった。
 その前日である今日は、ハルカは家庭科室を予約して、お菓子作りをするのだと、予定を聞いて知っている。
 なのについ今日来てしまったのは、心配というか、今回頼りにされなくて何となく寂しいというか、いや別にショックなわけではないのだが
「何、ぶつぶつ言っているの」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に言われて、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は我に返った。
「いや別に。
 それより、随分予定より早くなってしまったから、大図書室にでも寄って行くか」
「うん」
 本好きの月夜に提案してみると、案の定瞳を輝かせて頷く。
 ――だが、月夜が発見、読み耽っていた「彼の胃袋を掴む百のレシピ」という本にブルーズも興味を抱きつつ、二人とも、家庭科室が気になって仕方がないのだった。

「一応我等は部外者だからな……覗く程度なら問題ないかもしれんが」
 別に見学を禁止されてはいない、と解っているのだが、何となく中に入れない二人。
 拗ねてなんていないし、後ろめたいものなどもない。ないったらない。けれど結局家庭科室の外に来ている。
「あの窓から中が見えそう。でも此処からだと、届かない。
 ……こんな時、刀真なら肩を貸してくれるんだけど」
 月夜が、家庭科室外側の窓を指差した。
 教室からなら窓枠が胸の下に来る窓だが、外からだと、足場がイルミンスールの枝だから、高低がむちゃくちゃなことになっているわけである。
「……」
 じー、と無言で二人は見詰めあう。
 じー。
 じー。
(樹月も、こうやって負けているのだろうな……)
 心の中で嘆息しつつ、ブルーズは壁に手をつき、肩に乗れ、とジェスチャーした。
「肩を貸してくれるの? ありがとう!」
 わあい、と喜んで、月夜はブルーズの肩に乗る。
「上見ちゃ駄目よ」
 そう言いながら、月夜が窓枠に手をつき、中を覗き込もうとした時、
「何やってんだ?」
 背後から声を掛けられた。
 ビクッ、とブルーズはバランスを崩す。
「わっ、ブルーズ、危ないよ」
 何とか踏みとどまり、振り返ると、トオルとシキが呆れていた。
「この向こうは確か、風呂場でも更衣室でもなかったはずだが……」
「ち、違う違うっ」
 濡れ衣だ、と月夜が慌てて首を横に振る。
「……二人とも、元気そうだな」
 ブルーズは、月夜を肩に乗せた不審者然としたまま、この後で寄ろうと用意していた差し入れを渡した。
「え、賄賂?」
 くすくす笑いながら、トオルは受け取る。
「違う。我が作ったチョコプリンだ」




――――――――――――――――――――――――――――――――― 複雑な保護者心