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魔女と村と音楽と

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魔女と村と音楽と

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ノクターン音楽学校1


「音楽を極めるには、結構道は遠いネ。私もまだ、わからないことの方が多いアル」
 ウエルカムホームにある会議部屋。音楽学校の制度を話し合うその場でそう発現するのはロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)だ。
「ただ言えるのは、音楽だけをやってても極められないってことネ。一般教養も必要アルよ」
 音楽理論の下敷きに必要な数学、歌の場合の歌詞に影響してくる文学、音韻学等、音楽に関係する分野は当然外せないとロレンツォは言う。
「そうですね。選択制にするか必修にするかはまた考えないといけませんが一般教養に関する授業に関しては積極的に取り入れていこうとは思っています」
 ロレンツォの提案にミナホは頷く。
「あと、おもしろいかもだけど、校則にも影響してくる、『人としてどうあるべきか』も含んだ教科書として、倫理学に『論語』はどうかナ?」
 音楽についても論語の中で語られているし、学問を学ぶ態度にかんしても大いに意味がある教科書になるんじゃないかとロレンツォは言う。
「これは一般教養もだけど、問題は教師カナ? 孔子の英霊さんがいれば一番だけどネ」
 詳しい人が必要だとロレンツォ。
「教師に関しては生徒の募集と一緒にやろうと思っています。論語や音楽に関する教師はともかく一般教養に関しては募集すれば比較的簡単に見つかると思いますし」
 どうにか見つけるとミナホは言う。
「それなら安心ネ」
 そう言ってロレンツォは自分の考えをまとめるように続ける。

「音楽には、どこか演奏者の人柄は出てくるネ。それから、感情。いい歌手や演奏家を育てたい、コレは間違いないネ? なら、人間的欠陥多くても『出来る』例外はあっても、普通人は努力するのみヨ」


「ミナホ。あなたの希望にある『休養地としての音楽学校』……つまり、短期的にでも音楽学校に所属できないかって話だけど。それを制度化させるなら『単位制』が一番だと思うわ」
 ロレンツォの後。ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はそう提案する。
「単位制……私が行っていた学校とは違う制度ですがどういったものでしょうか?」
 ミナホの疑問にローザマリアは丁寧に答えていく。
「なるほど……ようするに取得単位数で進級とか決まる制度なんですね」
「……まぁ、とりあえずはその理解でもいいわ。単位制って言っても細かいところは国や各教育機関で細かいところは違ってくるし、ニルミナスにあった『単位制』にしていけばいいのよ」
「分かりました。基本制度として『単位制』を取り入れようと思います」
 ミナホはローザマリアの提案を受け入れる。
「それと地球の旅行会社と提携してニルミナス長期滞在における単位取得の旅行プランとか作って宣伝してもらうのも面白いかもしれないわね」
 休養先で単位も取れるとなると社会人でも応募してくる人間は多いだろうとローザマリアは言う。
「同じ地球の人からの観点って事でPR映像を製作する際には瑛菜、貴方も出演してね?」
「……ま、ローザも一緒だっていうなら特に文句はないよ」
 むしろ望むところだと瑛菜は言う。
「エリーは何か意見はないの?」
 楽しそうに話す瑛菜とローザマリアを横目に見ながらアテナは隣に座るエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)にそう聞く。
「ぅゅ、エリー、またコボルトさんのところで、おんがく、ならいたい、の」
「それって?」
 詳しく聞いてみると、エリーの話は異文化(というより異種族)交流のようなもので、週に一回程度ゴブリンやコボルトたちの集落で実際に音楽をやり覚えていくという話しらしい。
「おぼえて、そつぎょうしたら、みんなにひろめる、の」
「おもしろそうだね。エリー。アテナも一緒に参加したいかも」
 エリーの意見に同意するアテナ。
「ということでリリィちゃん。そういうことなんだけど」
「……テストとかは難しそうですから授業参加回数で単位を取得するようにしましょうか。異文化交流の手段として音楽は『笑顔』にならんでトップクラスですし」
 ミナホもエリーの意見に同意した。

「んー……とりあえず意見はこれくらいみたいだね。リリィ。どうする?」
 この場で意見が出尽くした様子を見て瑛菜がミナホにそう言う。
「それじゃ、とりあえず私は現場の方に行きます。瑛菜さんたちはどうしますか?」
「あたしらはここでもう少し今まででた意見を煮詰めていくよ。なんかあったら呼んで」
「分かりました」
 そうしてミナホは会議部屋を出て村の北部、『ノクターン音楽学校』建設現場へと向かった。


「それで……どうするんですの?」
 ニルミナスにある温泉施設『湯るりなす』。その温泉につかりながらアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は同じく温泉に浸かっている綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)にそう聞く。
「まぁなんとなると思うわ」
 のんきにリラックスした様子でそう答えるさゆみにアデリーヌはため息をつく。
 発端はつい30分前のことだ。

「あれ? 確か……さゆみさんとアデリーヌさんでしたか。ミュージック・フェスティバルではありがとうございました」
「村長さん。どういたしまして。……それよりこれは何を作っているのかしら?」
 村の北部。村長であるミナホに声をかけられたさゆみは目の前に広がる何かの建設状況を指して聞く。
「音楽学校を作っているんです」
「へぇ……この村に音楽学校を」
 音楽に力を入れてるとは前の祭の時に感じてはいたが学校を作るまでだったのかとさゆみは思う。
「そうだ。お二人は音楽活動を行っているんですよね。何か意見はないでしょうか」
 そう言ってミナホは先程の会議で決まったことなどを伝える。
「うーん……単位制で短期でも通えるってのに問題はないと思うけど、長く滞在してしっかりと音楽を学びたいって人のために寮を作って、学習のための長期滞在もできるようにした方がいいと思うわ」
 あるいはホームステイなども希望があればできるとよいとさゆみは言う。
「あとは、生徒の成果を発表できるような場を作ることね。あるいはCDに収録して販売したり、ミニコンサートをしたりして」
 その収益を運営資金や奨学金制度に回すとよいと。
「流石ですね。プロで活躍されてる方はやっぱり違います」
 感心した様子でミナホはそう言う。
「お二人のような方が音楽学校の教師をやって頂けたら私も安心なんですが」
「そう? なら私達が歌の教師とかやろうか?」
「ちょっ……!?」
 さゆみの何も考えてない様子の言葉にアデリーヌはまったをかける。学生生活にアイカツにと二人は多忙なのだ。
「本当ですか! ありがとうございます!」
 しかし、ミナホの嬉しそうな顔にやっぱりムリと言うことも出来ず……

「……覚悟を決めるしかないですわね」
 ミナホの様子を見てもさゆみの様子を見ても今更断るなど無理そうだとアデリーヌは思う。
「……まぁ、この温泉に浸かる機会が増えると思えばいいのですわ」
 そう言いながらアデリーヌはもう一つ溜息を付くのだった。



「ほら、あんたら、さっさと木を運んできなさい」
「へい、姐さん」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の号令のもとニルミナス防衛団は葉や根っこがついったそのままの木を音楽学校建設現場の外周へと運んでいく。
「あ、セレンさん。お疲れ様です。セレンさんから頂いていた一日から一週間程度の短期入学ですけど、単位制になったので実現可能になりました。書類手続きが面倒という方や、本格的に入学するかどうか考えるための体験入学も可能です」
 後者の場合単位は取れない(提携校などできれば話は別)が、その代わりに資格が取れたりなどするとミナホは伝える。
「あ、あたしの提案通ったんだ。よかった」
 セレンはそう言って笑う。
「ところで、加工していない木を持ってきているみたいですが……なんのために?」
 ニルミナス防衛団の行動をさしてミナホは聞く。
「防音対策よ。工事の邪魔にならないように今は外側だけだけど。校舎が完成したら森とはいえずとも林と言えるくらいには木を植えて音楽学校を囲むわ」
「なるほど」
 ミナホは納得する。
「防音効果もだけど……森の中の音楽学校ってなんかいいしね」
「……はい。分かります」
 それだけで一つの物語が始まりそうな舞台だとミナホは思う。
「ま、あたしに任せとけば地震だろうが隕石だろうが来ても壊れない校舎作るから任せなさい」
「はい。世界が滅んでも傷ひとつつかない校舎をお願いします」
「分かった。任せなさい」
 荒唐無稽な二人の言葉。……木造校舎でそれを作るとふたりとも本気だった。

「はい、そろそろ休憩にしましょ」
 1階部分にある教室を作っている現場。セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はニルミナス防衛団にそう言う。
(セレンて、あんな性格していて理系強いから侮れないというかなんというか……)
 セレアナ自体も休憩に入る。その手にはセレンが用意した教室の設計図があった。強度はもちろん防音等も考えられた芸術とも言えるその設計図は、普段のセレンを見ていれば誰もそれを彼女が作ったとは思えない出来だ。
(……まぁ、セレンが侮れないというか以外な麺があるのは今に始まった話じゃないわね)
 本当にいろいろな面を持ったパートナー……恋人だとセレアナは思う。
(かといって裏表があるわけでもないし……セレンはどこまでいってもセレンなのよね)
 いろいろな面を持っている。意外な面も多い。……けれど、彼女に対するイメージが変わることはない。
(……ほんと、良いパートナーに巡り会えたわ)
 いろいろな面を持ったパートナーと一緒に歩いて行けるのが嬉しいと思うセレアナだった。