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リアクション
二ルミナスとアーデルハイト
「…さ、寒いうさぁ〜」
ユニコーン、ラセン・シュトラールの住処。そこで寒がっているのはティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。
「やっぱりここにも冬の対策が必要うさ」
ユニコーン自体は普通であれば外で過ごすこともあって小屋があると言うだけでも十分だが、そこで一緒にすごすティーたちはそうもいかないらしい。ラセンにしてもすごしやすくなると言うのであれば歓迎だ。
「うさうさ♪」
楽しそうに、時折寒そうに住処の防寒対策を行っていくティー。隙間風を防いだり断熱材を張っていったりするだけだが、それだけでも十分な効果が発揮されていた。
「はぁぁ……ぬくぬくうさ……」
一仕事終えたティーはミニうさティーたちとともにラセン群がってぬくもる。
「はぁぁ……あ、そういえば鉄心から『バイコーン』について何か知らないか聞くよう頼まれていたうさ」
捕まえた傭兵団の一人からユニコーンの角とともにバイコーンの角も探しているという情報を得ていた鉄心は、その行方を捜していた。
「え? もしかしたらもうすぐミナの森にあらわれるかもしれないうさ?」
インファントプレイヤーでラセンの言っていることをティーは理解する。
「でも、年々数が減ってきていて今度現れるかどうかは分からない……ですか」
ラセンからバイコーンについての情報を得たティー。
「……でも、ラセンさんはどうしてその情報を……?」
ティーの質問にラセンは答えることはなかった。
「もうすぐアーデルハイトさんがこの家に来るのですわ。スープ急いでおもてなしの準備をするのですわ」
イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)はそう言ってスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)をたきつける。
「せっしゃ、枕してミナホ殿と寝たでござる……」
「な・に・を・わけの分からないこといってますの!」
「イコナ殿ゆれるでござる目が回るでござる」
ぐるぐるとスープを振り回すイコナ。
「わ、分かったら早く準備するのですわ」
「了解でござる」
結果として残ったのは息が切れ切れのイコナと涼しい顔のスープ。
「……なにか納得いかないのですわ」
そんな感じで二人はアーデルハイトを出迎える準備を進めるのだった。
「甘くておいしいみかんですの。蜜たっぷりのりんごもありますわ」
鼻歌を歌いながらみかんやりんごを用意するイコナ。
「ふふふ……食い意地の張ったうさぎさん。今日はおとなしく食べられるのですわ」
りんごはなんとなくウサギ型に皮をむく。
「これで一通り準備は……はっ…座布団が一つ足りませんの……!」
座布団は4枚。来るお客様はアーデルハイトと穂波。もともと家にいるメンバーは自分と鉄心とスープ。
「こうなったらスープを座布団にするのですわ」
「むぎゅ」
そうしてむりやりスープを座布団にしてそこに座るイコナ。
(……いや、足りないのが一枚だったら拙者が座布団に座らないだけの気がするでござるが)
まぁいいかと納得するスープ。座布団になってたらほかに何も命令されない分楽だなぁと思う。
「……アーデルハイトさん。隣の部屋にしましょうか」
イコナたちがもてなしの準備をしている部屋。そこをあけた源 鉄心(みなもと・てっしん)はそこにあった光景を見て一瞬で扉を閉める。アーデルハイトはともかく穂波にあの光景をみせるのは教育的にどうかと思う。
「えっと……少しばかり手違いがありましたが……我が家へようこそ」
自分でいれたお茶を出し鉄心はそう言う。
「わざわざすまんの。……して、私に聞きたいこととはなにかの」
「ミナスさんとご友人と言うことは、恵みの儀式についてはご存知で?」
「うむ。知っておるぞ。地球にいたころはミナスにむりや……協力させらr……協力して儀式の研究を手伝ったの」
「それで、何か分かったことはあったんですか?」
「ふむ。分かったことはあるにはあったが……お前たちが知っていることと一つを除いて変わらぬはずじゃ」
実は視察に来る前に儀式に関する報告を受けているとアーデルハイトは言う。その情報の多くはアーデルハイトが知っていることと変わらなかった。
「その一つとは?」
「儀式の力を防ぐペンダントの存在じゃな。ミナスとともに私が開発したのじゃが……それはゴブリンやコボルトたちに渡されているようじゃの」
「ゴブリンたちがペンダントをつけているのは確認していましたが……そんな効果が」
知らなかったと鉄心。
「儀式について私から話せることはそれくらいじゃの」
あるいはアゾートが何か新しいことを見つけたかもしれないから聞いてみるといいとアーデルハイトは言う。
「では……もう一つ質問を。アーデルハイトさんは今回の音楽学校作り。恵みの儀式の危険性を考えた上で賛成ですか?」
「うーむ……難しい質問じゃの。……賛成ともいえぬし反対ともいえぬといった所か」
「理由を聞いても?」
「うむ。最悪の場合を考えるならむろん反対じゃ。犠牲者がそれだけ増えるのじゃからな」
けれどとアーデルハイト。
「村が大きくなれば大きくなるほど最悪の場合になる可能性は小さくなる。……じゃから危険性を考えてだと賛成も反対もできぬ」
「では……今回の視察。その結論はどうやって?」
「儀式とは関係ないこの村を見て結論を出そうと思う。……これまで見た結果であれば賛成になるかの」
「……そうですか」
「じゃがまぁ安心するがよい。もしも『破産』が起こりそうなのであれば私が美奈穂か『粛清の魔女』を殺す。この命に変えてもの」
それが許可を出すものの責任だとアーデルハイトは言う。
「ま、そんな自体にはならぬと思うがの」
そんな事態にならないために自分をはじめとした契約者がいるのだからと。
「そうかもしれませんね。おそらく村長はもう無理をすることはない」
だからこそ、『この村の恵みの儀式』以上にアーデルハイトに知っていてもらいたいことがあった。
「地球のどこかの機関が恵みの儀式を始められる状態になった……あるいはすでに儀式を始めているかもしれません」
「それは……まずいの。あれはもしも悪用すればとんでもないことになるぞ」
それこそ契約者の存在がなければ世界征服すら可能だろう。
「現在その機関がどこなのか分かっていません。アーデルハイトさんは何か心当たりは?」
「……一つ心当たりがある。正確にはその機関の正体を知っている人間をの」
機関自体については詳しく知らないがとアーデルハイトは伝える。
「その人物とは?」
鉄心の言葉にアーデルハイトは答える。
「藤崎 将。ミナスの夫であったものじゃ。将はその機関の長であったはずじゃからの」
「アーデルハイトさん。視察お疲れ様です」
鉄心との話を終えたアーデルハイトと穂波を待っていたのは非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)の四人だ。
「なんじゃ、近遠たちが次の担当かの」
「はい……と言っても、もうほとんど村の案内は終わったようですし、最後の場所までお供するだけですけどね」
ここまでですでに村のほとんどを視察し終えている。あとはウエルカムホームにて視察の結果をミナホに話すだけだ。
「その途中でいろいろ聞きたいことがありまして……話を聞かせてもらえたらなぁと」
「やれやれ……おまえの知識欲も筋金入りじゃのぉ。まぁよいかの」
若者に教えを請われたらそれに答えるのが年長者の務めだとアーデルハイトは頷く。
「ミナスさんとは知り合いと聞きましたが、どれくらいの付き合いになるんですか?」
「なんじゃ、少し意外な質問じゃの。ふーむ……しっかりとした年数は覚えておらぬが、地球とパラミタの繋がりが絶たれてから比較的すぐじゃったかの」
「長いんですね。アーデルハイトさんにとってミナスさんはどのような存在だったんですか?」
「100歳以上歳が離れていたからのぉ……おばあty……姉のような存在じゃったかの」
「アーデルハイトさんより100歳以上年上というのはあまり想像できないですね。……最後にあったのは?」
「パラミタが再出現してすぐのころが最後じゃったかの。『村が大きくなったら招待する』という約束をして以降は会っておらぬ」
「……そうですか」
その約束は結局果たされることはなく、アーデルハイトは別の形でこの村を訪れた。それはどのような気持ちなのだろうと近遠は思う。
「話は変わりますけど、どうして魔女が不老不死化することは『祝福』ではなく『呪い』なのですわ」
考えにふける近遠と変わるようにユーリカはそうアーデルハイトに聞く。
「ふむ……ユーリカはまだ若い魔女だから普通の人間とそう変わらぬからの。『呪い』というのはよく分からぬかもしれんの」
そう言ってアーデルハイトは続ける。
「人であったものが不老不死になる……それは間違いなく呪いじゃよ。親しき人間と死に別れていくうちに理解するのじゃ。自分が人ではなく『魔女』という存在なのじゃと」
「……よく分かりませんわ」
「今は分からなくともよい。ただ……もしも地球を過ごした頃、ミナスを初めとした仲間の魔女がいなければ私は今ここにいなかったかも知れぬの」
それが不老不死化が『祝福』ではなく『呪い』だと言う理由だとアーデルハイトは言う。
「そういえば結局魔女の呪いの正体ってなんなんですの? 場所が変わっても作用し続けますし、子供に引き継がれたりしますけど」
「その当たりに関しては私も言えることは少ないの。一つ言えるのは魔女として生まれた子は人から魔女となったものより幸せであると言うことじゃな」
「……よく分かりませんわ」
「私にも分かることは少ないんじゃよ」
その言葉を受けてユーリカも考え込む。
「この村を見てどう思ったか聞かせてもらえないだろうか」
二人が黙った間をつなぐようにイグナはアーデルハイトにそう聞く。聞きながらもあたりへの警戒を緩めていないのは流石だ。
「ふむ……一言で言うなら面白い村じゃの。人と亜人がここまで仲良くしている村はそう多くないじゃろう」
今この瞬間にも契約者によって倒されるゴブリンやコボルトに襲われる人間はパラミタに存在するだろう。
「確かにそれはこの村の一つの特色であるな」
始まりはミナスとゴブリン・コボルトたちとの契約だ。そこから始まり、誤解を超えてこの村とゴブリン・コボルトたちは一緒に歩むことを始めた。
「人と亜人。個人と個人ではその交友を結ぶと言うことはそうない話ではない。じゃがそれが村と集落単位ともなるとやはり珍しいの」
「その手伝いをしてきたと思うと、少し気恥ずかしいが誇らしくもあるのだよ」
イグナはそう言う。
「ほかには何か感じたことはないのでございましょうか?」
イグナに続いてアルティアも村の感想を聞く。
「ふむ……他の感想と言われるなら不思議な村ということかの」
「不思議……でございますか?」
「うむ。静かで穏やかな雰囲気なのにどこか活気がある」
「……なんとなく分かるのでございます」
「この村が休養地として大きくなろうとしているのは正解かも知れぬの。この雰囲気を壊さず大きくしていくとしたら休養地としてしかあるまい」
そしてその不思議な雰囲気を一番活かせるのも休養地だ。
「うむ……まぁあれじゃ。大雑把に言ってしまえばいい村じゃの」
「そうでございますね。きっとその答えが一番しっくり来るのでございます」
そう言いながらもアルティアは思う。自分たちが始めてきたとき、この村はそこまで悩まずにいい村だと言えただろうかと。
(……そう思えばこの村との付き合いも長いのでございます)
村の印象が変わる。それだけの時間がこの村と出会ってから過ぎていた。
「さて……つきました。ウエルカムホームです。中にある喫茶店ネコミナスで花音さんたちが待っています。それで視察は終了の予定です」
そういって近遠たちが別れ、アーデルハイトと穂波はネコミナスへと入っていくのだった。
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