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これは大きな一つの物語の始まりだ。

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これは大きな一つの物語の始まりだ。

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3、動き出した物語



 レースのルール


・2台〜4台ほどの飛行艇で予選を行う。コースはスタートから中間地点を通り、ゴールへ。

・上位タイムのチームが決勝リーグへ進める。

・決勝もルールは同じ。多少コースが違うが、スタート、中間、ゴールの流れは変わらず。





 中間地点周辺


「あなたはテロリストですか?」
 ノーン・ノート(のーん・のーと)のとる手段は簡単で、単刀直入な質問をぶつけ、【嘘感知】に引っかけるという方法だった。時間がない状況では、悪くない手段ではある。
「ふむ……ここも違う、と」
 ノーンはパンフレットを広げ、そこにペンで大きく×をつける。そのペンを自分の体の一部に挟めて、「次はあっちだ」と千返 ナオ(ちがえ・なお)に指示を出した。
「ノーン、それ……痛くないのか?」
 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)は聞くが、
「うん? なにがだ」
 素でわからないようで、そう聞き返してきた。かつみは笑ってごまかす。
「そんなことより、もう時間がないぞ。急ぐんだ」
 ノーンは言った。


 二度目の爆発まで、もうほとんど時間がない。
 そんな状況にもかかわらず、雅羅たちは迷子の子供を抱え、保護者を探していた。
 どうも、聞くところによるとここにはパパと、お手伝いさんと一緒に来たらしい。お手伝いさんと一緒にパパを探していたらしいのだが、お手伝いさんともはぐれてしまったとか。
「お手伝いさんねえ……」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はしみじみと言う。
「お金持ちさんなんですね!」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)も、どことなく楽しそうにそう言った。
「そういえば、さっき、小さな女の子を探しているっていう人を見かけたよ」
 噂を聞きつけてやってきた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がそのように言う。
「私もさっき見たわ。ついさっきまでこのあたりにいたんだけどね」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)も近くに来ていた。 
「だったら、迷子センターみたいなのに、連れてったほうがいいか」
 女の子を抱きかかえたまま、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)はそう口にした。
「そうね。はぐれたなら、きっと探しているだろうし」
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)も言う。
「爆弾のほうは?」
 垂が尋ねる。
「ダメね……今のところ手がかりなし」
 郁乃が言う。
 ちなみに秋月 桃花(あきづき・とうか)は【使用人】と共に、周囲の人を巻き込んで【ティータイム】をして話し込んでいた。しかし、変なものや人を見かけた人はいないらしい。
「ごめんよみんな……オレも、手がかりはなしだ」
 戻ってきたジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)が少ししゅんとした表情で言う。フレンディスが「大丈夫。ありがと、ジブリールさん」と頭に手を置いた。
「詩穂も手がかり無しだよ。みんな飛行機に夢中で、観客席なんてじっくり眺めてないみたいだしね」
「そうだよな……」
 ベルクが息を吐いて言う。
「とにかく、女の子を迷子センターに送り届けましょう。そのあと全員で、この周辺の総ざらいを」
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が口にした。そうだな、とベルクも答える。
「それでは、急いで迷子センターに参りましょう」
 フレンディスはぱし、と軽く手を叩いて口にした。雅羅たちもそれに答え、皆で移動しようと思った、そのときだ。
「パパ、いたー」
 女の子が言った。皆の視線が女の子のほうへと向くと、女の子は上を指差していた。視線はそのまま、上へと向く。
「パパの飛行機ー」
 見ると、予選の飛行艇がちょうど頭上を通るところだった。
「ひ、飛行機!?」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)が声を上げる。
「もしかして、パパを探すって……」
「パパの乗っている飛行機を探す、ってことだったの?」
 ベルクとフレンディスも、上を向いて言った。


 そのまま、皆で女の子の父親が乗っているであろう飛行機を眺めていると、


「目標確認、攻撃、開始」

 
 少し離れた場所から、イブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が飛行艇に向かって攻撃を放った。【六連ミサイルポッド】が二つと、【ロケットランチャー】による攻撃が、放物線を描き、飛行艇に迫っていった。
 雅羅たちはその、飛行艇に向かう攻撃を、ただ黙って見ている他なかった。ミサイルが飛行艇へと近づいていき、そして……


「やらせるかよーっ!!」


 飛行艇に当たる、その寸前のところで、なにかが遥か上空から垂直に降りてきた。
 そこから放たれた炎がミサイルなどを包み込み、空中で爆発させる。
 驚いた飛行艇が少しバランスを崩したが……飛んできた機体は、無事だった。
「危ない!」
 爆風と、飛んできたミサイルの欠片から女の子と雅羅を庇うため、夢悠は女の子を雅羅に持たせて雅羅の頭を抱えた。ベルクもフレンディスを、垂はポチの助とジブリールを庇う。詩穂と郁乃も、倒れないよう互いに体を支え合った。
 爆発の勢いで吹いた風が観客席などを大きく揺らし、その強い風にいろいろなものが飛んでいった。
「今のは!?」
 夢悠などが振り返ると、
「アブね……間に合ってよかった」
 そこには【水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴン】にまたがった鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)の姿があった。急降下して無理やり着地したせいか、ドラゴンもぐったりしている上に貴仁の息も上がっている。
「どこから!?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がカメラを動かすが、
「………………」
 イブは騒ぎの混乱に乗じて逃げ出していた。
「おい、なんだ今の」
「爆発?」
 観客席もにわかに騒ぎ出す。
「こちらセレアナ! 中間地点にて爆発あり! 時間ぴったりよ!」
 セレアナが通信機に向かって声を上げる。時刻は彼らの指定した時間ちょうどだった。


「雅羅、無事?」
 夢悠は雅羅に聞くと、雅羅は泣き出してしまった女の子を抱えたまま、「大丈夫よ」と答えた。
「それより、飛行艇は?」
「大丈夫。貴仁さんが守ってくれたみたいだ」
 二人は飛行艇の飛んでいった先を見た。バランスを崩してはいたが、なんとか立て直したようだ。
「フレイ、怪我は?」
「大丈夫です……ありがとうマスター」
「無事か、ポチ、ジブリール」
「すいすいさん、ありがとうございます」
「垂さんこそ、怪我とかないか?」
 他のメンバーも無事だったようだ。
 雅羅はふらふらと立ち上がって、時間を確認する。
「時間通りね……今回は明確に、騒ぎを起こそうとしての爆発ね」
 時計を見ると12時40分。最初の爆発が起きてからちょうど三十分後だ。
「よく抑えられたな」
 ベルクがこちらに向かって歩いてきた貴仁に向かって言う。
「時間的に危ないと思って。上空で待機してたんですよ」
 腕をぐるぐる回しながら、貴仁は答えた。
「しかし、こんなところで飛行艇が爆発させようとするなんて」
 ポチの助は言う。
「そうだな……でもこれでわかったことがある。ここの客席に、テロの仲間はいないだろうな」
 ベルクが言う。確かに、飛行艇が落ちる可能性があるところに、テロリストはいないだろう。
「ということは、ここにもう爆弾はない?」
 郁乃は言う。
「かもしれないね……まあでも、一応、見てないところは確認しておかないと」
 詩穂が答えた。
「……ん? ところで、女の子はどこ行った?」
 ふと、垂が気づいてそう言葉を続ける。
「え?」
 雅羅が見ると、いつの間にか女の子は消えていた。
「女の子? さっき、そっちの扉に入っていきましたけど」
 貴仁が見ていたのか、そう答える。
「早く行ってよ!」
 雅羅は慌てて、スタッフオンリーと書かれた扉の中へと駆け込んでいった。
「雅羅! オレも行く!」
 夢悠たちも、雅羅のあとを追った。



 ゴール地点周辺


『ミネルヴァ君は、会場に爆弾を仕掛け、混乱を誘って下さい。デメテール君は、レジェンド・オブ・ダークネスの上層部への接触を。上層部と連絡が付き次第、僕が直接、交渉に向かいましょう』


 十六凪はそのように言っていた。なるほど面白い。確かにそうなれば、彼らは動かざるを得ない。
「さて、」
 飛行機の爆発騒ぎが起きたのと、同じ時刻。
 ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)が【トラッパー】によってしかけたいくつかの爆弾が、爆発していた。
 いずれもゴール地点周辺の人のいない場所ではあったのだが、それは、どこで爆発が起こるかわからない集まったメンバーたちの耳にはすぐに届いた。
「自分たちが仕掛けたものではない爆弾が爆発すれば、レジェンド・オブ・ダークネスの方々にも動きが出るはず。あとはデメテールさんにお任せしましょう」
 そうして、少し離れた場所でベンチに腰掛け、のんびりと【ティータイム】でくつろぎながら、
あとの成り行きを見守っていた。
 慌しく数人が爆発現場に駆け込むのを見ると、彼女は楽しそうに、「うふふ」と笑みを浮かべた。



「ほい、ほいっと」
 そして、主催者団体の控室の近くには、デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)が足を運んでいた。
「こういう時は、大会の主催者に黒幕と通じている者がいるものだって、十六凪っちが言ってたからねー」
 十六凪の【ナゾ究明】による指示を受け、彼女はテロ組織と接触すべく、動く。
 【壁抜けの術】で近づき、【隠形の術】で姿を隠しながら、怪しげな会話をしているメンバーを探す。
 しかし、この辺りはテロを警戒しているものたちばかりで、テロ組織とつながっているような面子は見つからなかった。
「うーん、外れかな?」
 デメテールは結局そのまま施設から出て、参加者チームの倉庫付近を見回る。
 人目に付かないところで爆発があったから、気づいているチームはいないはずだ。
 だが、それにもかかわらず、せわしなく連絡を取ったり、確認を取っているチームが目に入った。
「ビンゴ?」
 デメテールはこそこそと、そこへと向かった。





「……中間地点で、飛行艇を狙った攻撃があったそうでありますよ」
 連絡を受けた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、隣を歩くコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)にそう口にする。
「それと、ここの周辺でも数箇所、爆発があったようであります」
 通信機からの声を聞き、爆発が起こった場所を確認しながら吹雪は口にした。
「大丈夫だったの?」
 コルセアが聞くと、
「なんとかぎりぎり、抑えたそうであります。こっちのほうも、特に被害はなかったそうでありますね」
「よかったあ」
 コルセアは安心して息を吐いた。
「この自分がいる場所でテロをするとは……後悔させてやるであります」
 吹雪は悔しそうだった。
「ええ。とにかく早く本命を見つけないと。次は電源室ね」
 コルセアは施設のマップを見ながら言う。今は吹雪の予想した爆弾の仕掛けられている場所を、それぞれ分かれて調査しているところだった。
「その前に、最初の爆発現場が近いから、ちょっとだけ調査しておきたいでありますよ。なにか、参考になるものがあるかもしれないであります」
 そう言って吹雪は最初の爆発現場、非常電源室周辺を指差した。
「次の爆発までは、時間もあるしね」
「不幸中の幸いでありますね」
 二人はそう言い、非常電源室の近くまで来た。
 地面に落ちている血痕は、昏睡中の彼のものだろう。彼がなぜこんなところに来ていたのかも、調査する必要がある。
 そう言って扉を開くと、そこには先客が存在した。枝々咲 色花(ししざき・しきか)、そして八草 唐(やぐさ・から)、さらには武神 雅(たけがみ・みやび)が、爆発現場の調査をしていた。
「しきっち、やびっち、調査でありますか?」
 二人に言う。色花はこくりと頷き、
「なにか、手がかりがないかと思って」
 そう言って、壁の隙間を覗き込んだり、地面に付着したものの匂いを嗅いだりしていた。
「うむ。今はなんらかの手札を用意したいと思ってな」
 雅も壁や柱を叩いたりして、なにかを調べていた。唐はただ壁に寄りかかっていてなにかを考えているだけだ。
「爆弾があったのはそこでありますね」
 非常電源室の操作パネルが完全に吹き飛んでいる。黒くこげた跡がそこから放射状に広がっていることから、爆弾があったのはそこだろう。
「そうですね。最初の爆発、12時10分にここで爆発があって、昏睡状態の彼が、なぜかこの近くにいたわけです」
 色花はそう口にする。
「……半端だよなあ」
 色花の言葉に、唐がそんなことを口にした。
「半端? なにがだ?」
 雅が聞く。
「時間だよ。三十分おきに爆発させるなら、12時ちょうどにすればいいのによ。なんで12時10分なんだ?」
 その場の全員が、驚いた表情を浮かべた。
「もし仮に爆発が12時ちょうどだったということなら、おかしいなと思って爆弾の様子を見に来る奴もいるかもしれない。そいつが爆発に巻き込まれたら、そりゃ、重症だろうな」
 唐は独り言のように言う。
「しかし、それは、」
 吹雪は少しだけ言いづらそうに、口を開いた。
「それは、彼がテロの仲間だということを肯定する理由になるであります」
「そうなるんだよな。色花はその線は薄い、とは言っているんだが」
 唐も言う。
「でもな、時間のことを言えば、爆発の時間を敢えて指定したのは、タイムリミットがあるということを交渉相手に伝えるため。だとしたら、時間が半端なんだよ。三十分おきに爆発させるなら、時計を見たときにわかりやすい時間にするだろう? ま、デジタルの時計なら12時10分もわかりやすいが」
 唐の推理に、その場にいた全員が口を閉ざした。
「ま、レジェンドなんちゃらとかいったっけな。そいつらがそこまでマメに考えているかどうかなんて、俺の知ったこっちゃないんだけどさ」
 唐はごまかすように笑ってそう言うが、
「レジェンド・オブ・ダークネス……」
 色花がふと呟いた。吹雪が「どうかしたでありますか?」と尋ねる。
「似たようなフレーズを、聞いたことがあるんです」
「どこでだ?」
 間髪いれず聞いたのは唐だ。
「えっと、私の部屋で……たまたまラジオをつけたときに、ちょうどそんなフレーズを聞いて」
「ラジオ……?」
 唐が疑問符を浮かべる。
「曲名かなにかじゃないの?」
 コルセアが言うが、
「いえ、フリートークかなにかの合間です。ゲストで呼ばれていた人が、そんなフレーズを口にして……おかしいな、と思ったんです」
「おかしい?」
 唐が聞く。
「レジェンド・オブ・ダークネス、って、訳すと『闇の伝説』になるじゃないですか。たまたまつけたラジオのワンフレーズだったんですけど、ゲストの人が「伝説の英雄、つまり、レジェンド・オブ・ヒーローだ」って言ってたんです。おかしいな、って思って」
 色花の話に、皆がただ黙って聞き入っていた。
「それは……なんらかの手がかりになるかもしれないな」
 雅が言う。
「色花、できればそのラジオ、いつくらいに聞いたかを思いだして欲しい」
 色花はこくりと頷いた。




「爆発が複数箇所に及ぶなんて!」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は悔しそうに叫ぶ。被害はなかったが、爆発を抑えることができなかった。
「飛行艇を狙った攻撃は、明らかに撃墜目的だ。貴仁がいなかったら、大惨事だったわ」
 吹雪と同じように、爆弾探しの合間に戻ってきたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がそう言う。
『これで、こっちが本気だってことはわかったろう?』
 電話からは例の男の声が。
『さあて、次の爆発は三十分後だ。次が本命か、そうでないかは神のみぞ知るってな。はは』
「………………」
 が、ロゼはなにかを感じとり、少しだけ考えてから言葉を紡いだ。
「十ヵ所も爆弾を仕掛けるとは。ご苦労なことだね。せめて、次に何個なのか教えてくれないかい?」
 答えるまで、ほんの少し間が合った。
「別に個数にこだわりはねえよ。いかに効果的に爆発させるか、っていう、芸術だ。プロ中のプロにしかわからない世界があるんだよ」
 ほんの少しの違和感。なぜかロゼはにやりを笑みを浮かべ、口を開く。
「わかっていないかもしれないが、契約者だって、みんなプロだよ。犯人を追跡して噛み砕くプロだ。罪のない人を傷つけるなら、必ずナラカの底まで追い詰めてみせる」
 自信のこもったロゼの言葉に、相手の男も沈黙した。
「ちっ」
 しばらくして舌打ちが聞こえてから、
「は、せいぜいわめいてな」
 そう言い残して、少し乱暴に電話を切った。
「ロゼ、十ヵ所って……」
 ローザマリアが聞く。
「この周辺で起こった爆発は五ヵ所では?」
 ローザマリアの隣にいるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が聞いた。
「ああ……ちょっとだけ、彼、早口だっただろう? もしかしたら、と思ってね」
 ロゼは少しだけ得意げな顔で言った。
「彼らの目的がよくわからないんだが、一つ推理ができるんだよ。それは、他の組織との接触だ。世界中の囚人を解放するなんて言ったら、反応する組織もあるはずだろう?」
 ロゼは要求リストを広げた。
「解放する組織があまりにも多義に渡る。宗教の過激派、民族独立派、一つの国の右翼団体もいれば、逆に左翼団体もいる。一貫性がない」
 ロゼが一つ一つの囚人たちの経歴を指さしながら、説明する。
「つまり、こいつらの目的は、こういう組織の連中とコンタクトを図るってこと?」
 ローザマリアの言葉に、ロゼはこくりと頷いた。「推測だけどね」と補則をつけて。
「となると……もし組織が早くに接触を図ろうとすれば、」
 グロリアーナも言う。
「彼らの邪魔をする。もしくは、計画に想定外を含める、ということね」
 ローザマリアが手を叩いた。
「ゴール地点の爆発現場、それぞれに張り込みをお願いできないかい? もしかしたら、今回の黒幕が姿を現す可能性がある」
 ロゼは通信機に向かって言った。
「中間地点には、いいであるか?」
 グロリアーナが聞くが、
「中間地点の攻撃と、こっちの爆発では性質が違うからね。おそらく、想定外はこちらのほうだよ」
 ロゼは自信があるのか、はっきりと通る声で言った。
 同じ部屋にいる主催者や関係者たちも、ロゼの先ほどの言葉と推理に感銘したのか、立ち上がって拍手したり、「頼もしい」と声を上げる。
「さっきまでの会話とかも確認したけど、この人たちはシロね」
 ローザマリアはサングラス型通信機を持ち上げて言った。
「そうみたいだね。だとしたらここは私一人で十分だよ。爆弾探しを頼む」
「わかったわ」
 ローザマリア、そしてグロリアーナは部屋から出た。
 ロゼは大きく息を吐いてから、改めて周辺の図面を確認する。
 爆発が起きた箇所は、五ヵ所。そのいずれかに、きっと尻尾を見せるはずだ。
 ロゼはそう、確信していた。



 そして、ロゼから指示を受け、数人が動いていた。
「ポムクルさん、どお?」
 【壁抜けの術を】を使って半分だけ体を出したソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)がポムクルさんが指さした先を見る。
「僕の名は、天樹……いえ、秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクター・ハデスです。レジェンド・オブ・ダークネスの皆さんと、同盟を組みたいと思いまして、参上しました」
 見た先には、ドクター・ハデス(どくたー・はです)の体をのっとった天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)の姿があった。
「げ、ドクター・ハデスっ! あいつらもいたのね……」
 ソランはどうにかして話を聞こうと、ポムクルさんと共に少しだけ前に出る。
「……盗み聞きは、感心いたしませんわね」
「っ!」
 ソランは反射的に前へと飛んだ。先ほどまで自分がいた場所に、小さな爆発が起こる。
「あら。なかなかいい反応ですわね、ソラン・ジーバルスさん」
「っ……ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)!」
 ソランは目の前に立つ人物の名を叫ぶ。
「真オリュンポスがため、邪魔されるわけには行かないですの。殺しはしませんわ、少し眠っててもらえます?」
 す、っとミネルヴァが手を差し出した。ソランの視線が、それに合わせて動く。
「ごめんねー!」
「っ!」
 後ろから声がかかった。デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)の、【先制攻撃】による【しびれ粉】だ。
「やばっ……」
 体が痺れ、力が抜ける。やがて立っていられなくなり、ソランはその場にひざをついた。
「しばらくおとなしくしててくださいね?」
 ミネルヴァがそう言い、ソランの腕を掴もうとした、そのとき。
「っ」
 ミネルヴァの目の前に一本の矢が飛び、ミネルヴァは後ろへと飛んだ。
「ソラン、無事か!」
 【ペンシルバレット】を構えた藍華 信(あいか・しん)が、こちらに駆けていた。
 走りながら、再び矢が放たれる。
「おっと!」
 それをデメテールは手裏剣で叩き落した。
「あなたたちは!」
「ドクター・ハデスの仲間たちね!」
 信と共に、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)衣草 玲央那(きぬぐさ・れおな)も駆けつける。
「……ファッションショーでもしていますの?」
 見事に女性陣は全員レースクイーンだ。
「この騒ぎ、あなたたちのせい!?」
 びし、っと玲央那が指をさして叫ぶ。
「さあ? どうでしょうか」
 ミネルヴァは表情を変えず、余裕があるようにもみえるが、人数が人数で、しかも対峙している相手は、レースクイーン姿とはいえ油断ならない相手だと判断したのか、ゆっくりと、後ずさりする。
「……騒がしくなってきましたね。場所を変えましょうか」
 十六凪たちも騒ぎの混乱に乗じて、その場を去ろうとしていた。
「っ、待ちなさい!」
 ゆかりがソランを追い越し、前に出る。しかし、なにかを感じ取ったのか、すぐさまその場でかがみこんだ。ゆかりの顔があった場所に、なにかが飛んできていた。
「あそこ!」
 玲央那が指さす。その先、近くにある大型モニターの上に、なにかが立っていた。
 その影はダガーを投げ、空中に跳ねたと思うと、一瞬で間合いを詰め、槍を構えて突進してきた。
「くっ!」
 信が【ペンシルバレット】で攻撃を抑える。今度はその影の下部から一本の針が伸び、信は後ろへと回転しながら攻撃を避けた。
 影も空中を一回転し、こちらへとのその禍々しいシルエットを向ける。
 美しくも醜い、その大型の昆虫を模したシルエットをした人物は、女王・蜂(くいーん・びー)だった。
「あなたは!」
 ゆかりが声を上げる。戦闘の合図とでも受け取ったのか、女王・蜂は再び【リターニングダガー】を投擲し、ひるんだところを槍を持って接近する。槍の攻撃だけでなく、お尻の針を使った毒針攻撃も含め、まさに瞬速だ。そして、こちらが攻撃をしようとすると、上空へと舞い上がる。
 まさに、蝶のように舞い、蜂のように刺す。そんな戦い方だった。
「く、武器さえあれば!」
 対してゆかりたちはまともな武器を持っていない。ソランは動けず、信の今のメイン武器は弓矢だ。構えて、射るまでに若干の時間が必要になる。
 女王・蜂もそれをわかっているのか、信が構えようとするとダガーを投げる。狙い済ました一撃が、放てないでいた。
「っ!」
 女王・蜂が再度、猛スピードで突進してきた。ダガーを投げながらの攻撃に、皆は回避と防御で手一杯。突進攻撃は、すぐそこまで迫ってきていた。
「おっとっ!」
 が、女王・蜂の槍を使った攻撃は、現れたアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)の、【月光閃】によって防がれた。突然の援軍に驚いた女王・蜂の一瞬の隙を逃さず、アルクラントは刀で相手を押し返し、反す刀で攻撃する。女王・蜂は大きく上昇して回避するが、その右腕がなにか、糸のようなものに絡み取られていた。
「どりゃっ!」
 空中から、【ゴアドースパイダーの糸】を使ったハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)が、拳を振るいながら落ちてきた。女王・蜂は両手でガードしてダメージを防ぐが、少しだけ顔をしかめて後退する。
「みんな無事?」
 少し遅れて、エメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)も姿を見せる。みんなの様子を見て、大きな怪我がなく安心したのか、小さく息を吐いた。
「どういう理由かは知らないけど、どうやら、君は私たちの敵のようだね」
 アルクラントが刀を構えて言う。
「ふ」
 女王・蜂はわずかに笑みを浮かべ、大きくジャンプしてもといたモニターの上へ。そのままこちらを一瞥すると、そのまま遥か上空へと飛んでいった。
「逃がしたか……」
 ハイコドが悔しそうに口にする。周囲を見ると、ミネルヴァたちもすでにその場を離れていたようで、姿がない。
「ハコ……遅すぎ」
 ソランが膨れた顔で言う。
「悪いな……逃げた連中も見てたら、ちょっとタイミングが遅れちまった」
 ハイコドはソランに背を向けてしゃがんだ。ソランは素直にハイコドの背に乗る。
「逃げた連中は、どこに向かったんだい?」
 構えをといたアルクラントが尋ねる。
「途中までは見てたんだけどな。建物の影に入って、見えなくなっちまった」
 ハイコドは軽く肩をすくめて言う。
「みすみす逃がしたの?」
 ゆかりが言うが、
「おおまかな当たりはつけたから、大体どの辺にいるかはわかってるよ。連絡もしたから、すぐ見つかるだろう」
 ハイコドはそう答えた。
「とはいえ、逃がしてしまったことに代わりはないわね」
 マリエッタが言う。
「仕方ないですな。こっちはまた、爆弾があるかどうかを探すとしますか」
 アルクラントは言うが、
「爆弾だよね」
 玲央那がどこか、遠くを見て呟く。
「ええ。爆弾。どうかした?」
 ゆかりが玲央那のほうを向くが、玲央那は振り返らない。
 皆が疑問符を浮かべる中、玲央那がふと手を挙げ、ある一箇所を指さした。
「あの、やたら目立つ場所にあるのは……爆弾?」
 皆の視線が、玲央那の指さした先へ。
 先ほど女王・蜂が乗っていた、大型モニターの裏。
 そこに、二本の筒と、その間にある、デジタルタイマーのようなもの。
 どう見ても爆弾であるものが、そこにいくつもくっついていた。


「あったーっ!!」


 その場の全員が叫んだ。 



 中間地点周辺



 スタッフオンリーの扉を入って、少しした場所の扉が開いていた。その奥から、泣き声も聞こえる。
「ここは?」
「客席の下の部分だね」
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)がその中に入ってゆく。ついてきた朝霧 垂(あさぎり・しづり)もその部屋に入ろうとするが、ふと、扉を見た。鍵がこじ開けられている。
「さっきの女の子がするわけはないよな……」
 独り言のように呟く。
「おい……なんだこれ」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)も鍵を見て言う。二人は頷き合って、中へと入った。
「ほら、おいでー」
 観客席のほぼ真下、かなり狭くなっているスペースに、女の子はすっぽり収まって泣いていた。雅羅も必死に小さくなり、女の子に呼びかける。
「怖いよー」
「怖くないよ、大丈夫大丈夫」
 夢悠も笑いかける。ぐすぐすと泣いていた女の子も、二人の顔を見て少しずつ泣き止んでゆく。
「ほら、ここからでて、一緒にパパに会いに行こう。たぶん、そろそろゴール地点にいるだろうから」
「本当?」
「本当だよ。お兄さんと一緒に行こう」
 夢悠がそう言うと、女の子が狭いスペースからのそのそと出てきた。
 「ん」と両手を伸ばした女の子を夢悠が抱き寄せると、女の子はぎゅっと抱きついてくる。二人は安心したのか、ほう、と息を吐いた。
「雅羅……本当にお前は疫病神だな」
 垂がふと口にする。
「全くよ……なんか疲れたわ」
 雅羅はそう言うが、
「今すぐみんなに連絡を。特に、近くにいる奴らにな」
 ベルクがそう言う。
「迷子が見つかったって? そんな、大げさにするほどでも」
「そうじゃないですよ」
 言葉を、途中でフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が遮る。
「ここが本命だ」
 垂が言い、雅羅と夢悠は改めて自分たちのいる場所の周りを見回した。



 そこには山ほどの爆弾が、至る所に取り付けられていた。